第114話

 私はげた箱で靴を履きかえると教室によらず、まっすぐ屋上へいった。


 廊下にも人の気配はない。


 もっともうちの学校の場合、ふだんからこんな感じだ。朝早いから特別というわけではない。私の孤独はふだんとなんら変わらなかった。


 フロアを四つあがって屋上にでる。階段は少々薄暗い。


 うち側からのロックをはずしスチール扉を押してあけた。そとの光が踊り場にこぼれてはいってくるわけではない。くもっているからだろうか。


 私は屋上にでた。


 予想どおりというかあたりまえだが、屋上には誰もいなかった。


 とうぜんである。私は今日は監禁されていない。矢野たちヤンキーグループだってわざわざ早朝からこんな場所にたまって喫煙行為などしているはずもない。それならばもっと安全で誰にもばれない自分の家でたばこを吸っているはずだ。


 なににしても、ひとまずは安心した。


 私は誰もいない屋上をじっと見まわした。


 吸水性の高い緑色のラバーの地面は湿っているところと乾いているところがまだらもようになっていた。見た目としてはちょっぴりえぐいが、掃除がきちんといき届いているようで、塵ひとつ、たばこの吸い殻ひとつ落ちていない。


 とうぜん、私のケータイ電話など落ちているはずもなかった。

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