Ⅲ.風の軌跡

第113話

 次の日、学校にいくと私はまずケータイ電話を拾いにいった。


 もっとも、屋上に忘れてそのまま放置されているはずなので、拾うというより探すといったほうが正解だ。


 見つかる可能性はかぎりなく低い。


 おとといの夜から今の今まで、ひと晩とまる一日あんなところに放置されていたのだ。屋上には昼休みや放課後、ヤンキー連中がでいりする。


 昨日も昼休みに矢野たちは集団であそこにいっただろう。そんな場所に私のケータイが壊れているとはいえ放置されたままでいるのだ。おもいきりひいき目に見ても、ぶじであるとは考えにくい。盗まれていると考えたほうが自然だった。


 それでもわずかばかりの期待を胸に、いつもよりも一時間近く早くに家をでた。


 空の雨は夜中のうちにひとまずやんだが、またいつふってもおかしくないような空もよう。まだまだ灰色のぶ厚い雲が蓋のようにかかっている。


 学校に到着した。


 ケータイがないので時計を確認できなかったが、一時間早くに家をでたのだから、一時間早くにとうぜん到着しているはずだ。


 ということはまだ七時台になったばかりだろう。登校している生徒は私以外、誰もいない。校門はかろうじてあいていた。


 よかった。


 心から思う。


 校門をくぐった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る