第115話

「はあ」


 思ったとおりだったが、ショックは隠せない。盛大にため息をついた。


 いちおう万が一の希望に賭けて屋上のすみずみまで歩いたり、排水溝や陰に隠れた場所をのぞいたりして探してみたが、矢野にたたき壊された私のケータイ電話はどこからも見つからなかった。


 どうしようもない。


 私は屋上をあとにした。そのまま私はふたたびげた箱まで戻る。


 もう一度靴を履きかえ警備員の詰め所にいくことにした。うちの学校の場合、来客者用の駐車場入口のところにほったて小屋が設けられている。そこが警備員の詰め所になっているのだ。


 警備員室とは名ばかりの詰め所に私が顔をだすと、あざやかな青の制服を着た四十代くらいのおじさんと、やはりおなじ制服を着た五十代くらいのおじいさんがふたりで対応してくれた。


「すみません。ケータイ電話の落としもの届いていませんか」


 そうたずねると、ふとったほうの四十代くらいのおじさんは、ちょっと待ってくれという。


 届けられた落としものリストを見ているようだ。リストに指と視線を走らせながら、うしろにむかって声をかける。


「ケータイ電話、届いてました?」


 デスクに座ってなにか書きものをしていたやせっぽちの五十代くらいのおじいさんは「さあ」といって首をかしげる。


 言葉の続きはふとったほうのおじさんが引き継いだ。


「届いていないみたいだね。なに? 落としちゃったの?」


 落としたから、ここに探しにきたに決まっているだろう。心のなかで毒づいたが、苦くあいそう笑いをした。

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