第94話

「はあ」


 本格的に涙がでてきた。


 いくら四月とはいえ、夜は冷えこむ。


 こんな屋外でひと晩をすごすなんて、このんでしたいことじゃない。こんな夜のすごしかたは苦痛以外のなにものでもない。


 私はどこといわず、目のまえの空間をただ見つめた。


 いや。たぶん見つめてなんかいない。


 目は焦点すら定まっていない。


 放心。


 放心状態である。


  ぽつん、と頭になにかがあたった。


 気のせいだろうと思いたかった。


 しかし、気のせいなんかじゃない。


 またひとつ、ぽつんと頭になにかがあたった。


 そしてまたたっぷりと間隔をあけて、みっつ目のぽつんが髪を濡らす。


「そういえば……」


 天気、あぶなかったもんな。


 そう思って、空をあおぐ。


 真っ暗闇の空間には月も星もでていない。その代わり盛大な雨雲が空一面に蓋をしている。


 ぽつぽつぽつぽつ。


 落ちてくるしずくが間断なくなる。


 やがて点のしずくは、線の雨になって私にむかってふりそそぐ。


 最悪だ。


 どこまでも最悪だった。


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