第83話
「おい」
状況認識が終わった私は再度、声をかけられた。
ぼんやり視線をまえに戻した。
目のまえに矢野がいる。鬼の形相で、どすのきいた声をだしている。
髪をつかんでいるのはこいつか。
そう思った。
同時に。
頭皮に痛みが走った。
いったん持ちあげた髪の毛をおもいきりしたにむかって引っ張られる。私は地面に座ってうなだれたポーズをとらされた。
痛い。
そう思った。
矢野の手をつかもうとした。
だが、それはできなかった。手が伸びなかったからだ。
正確には両手はバンザイのポーズのまま上空にあがっていた。そしてその手がまえに伸びない。
理由はわかった。視線をうえにあげたからだ。
私の両手は梱包用の透明なプラスチックバンドで手首ががっちり固定されていた。しかもごていねいに屋上のフェンスにそのままくくりつけられている。これは私のがんじがらめの毎日が具現化されて可視化されたものだろうか。
「おい」
矢野は再度、私にいう。
私は視線をまえにむける。
矢野の目は据わっている。ひたいに青すじが浮いている。激昂しているのがまるわかりだ。
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