第82話
次に目が覚めたのは、べつの場所だった。
げた箱のまえではない。さらにいえば私は自発的に目が覚めたというよりも、たたき起されたといったほうが正解だった。
「おい、起きろ」
髪を引っぱられ上半身を起こされる。痛みよりも自分の身体が持ちあがっていく浮遊感覚に酔いそうになった。
おそらく私は覚醒してなおパニック状態が継続していたのだ。状況確認よりも先に、たたき起こされた事実に驚く。そして自分が今まで気絶させられていたということにもびっくりしていた。
へえ、私、気絶していたんだ。
ぼんやりする頭でそんな事実になぜか妙に感心していた。
人間って、意外と簡単に気絶するんだな。そして一度気絶したら、ちょっとやそっとじゃ目を覚まさないものなんだな。とくに自力で覚醒するなんて不可能らしい。
なんてことをのんきに考えていた。
自分自身がおかれている状況のはずなのに、おそろしくひとごとのような感じがしていたのだ。
私は薄目をあけて天をあおいだ。
空が見える。
泣きそうだ。
最初に目にうつったのはそんなあやういぶ厚い雲の空だった。
私はそのまま視線だけをしたに移す。
水はけのよさそうな緑色のラバーの床が見えた。そのうえに私のスカートと少々太い足がのっている。
なるほど。
そこで気づいた。
私はどうやら屋上にいるらしい。知らない場所じゃなくてよかった。
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