第84話

 私はじっと矢野を見た。


 矢野の背景には、昼間見た不良グループの面々が控えていた。


 おそらく数は昼間とおなじ。男女ともにここにいる。歩哨をつとめていたちびのリーゼントの姿も確認できた。その奥には屋上にでるための重いスチール扉もある。


 これはどうみても監禁だ。


 とてものんきな状況とはいえない。


 あたりはすでに暗くなりかけていた。


 いくら四月といってもそれほど日は短くない。だとすると私はどれくらい気絶していたことになるのだろうか。


 今、何時だろう?


「あっ」


 私は気づく。


「やばい、バイト」


 反射的にすっとぼけたことを口走る。


 同時に。


 右頬に衝撃が走った。


「痛い……」


 衝撃のまま顔が左側をむく。思わず声が漏れていた。


「うるせーよ」


 その声を矢野の低い声がかき消す。


 視線の先では薄暗いくもり空高くにむかって、矢野の平手が振り切られていた。


 それで気づいた。


 私は今、手の甲でびんたをされたのだ。


「ははは。ひでえな、矢野。女殴るなんて」


 ギャルのバカ笑いが暗くなりかけた屋上に響いた。


「で、こいつ、どうするの」


 べつの女の声がたずねる。


「あ?」


 矢野は誰にともなく不機嫌だ。

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