第76話

 私が思ったとおり、屋上にはクラスの不良グループのほか二十数名の不良生徒がたまっていた。高等部の校舎だけの不良のようだ。中学生はもちろんいないし、べつの敷地にある大学生はとうぜんいない。


 学年的には一年生から三年生まで全部揃っているのだろうなと、なんとなく思った。


 ぱっと見た感じだけでも、おさない顔立ちをしている一年生らしき男の子や、どう見ても三年生といった感じのド派手な男女がいたりする。


 もっとも私にとっては見たことのない顔が大半だった。そんな二十数名の男女が屋上でそれぞれ思いおもいにくつろいでいる。


 そこに違和感を覚えた。思いおもいのことをしているということは、まだケンカが始まっていないということだ。


 その証拠に屋上の中央で矢野と丹波はむかいあっているだけだった。


 水はけのいいラバー製の緑色の地面のうえに矢野が立っていて、こちらをむいている。


 それと対峙たいじするかたちで丹波が扉に対して背をむけて立っている。


 おだやかな風が吹いていた。両者ぴくりとも動かない。


 よく見れば、ふたりはすでに手が届くところまで接近していた。


 げんに矢野は丹波の胸ぐらをつかんでいる。そのまま両者動かない。


 まわりでは数人のギャラリーが矢野を中心にして扇状に控えている。その扇のそとにはギャルが数名。鞄にディズニーキャラのキーホルダーやらマスコットやらをじゃらじゃらつけた女の子たちがあぐらをかいて地べたに座りスマートフォンをいじりながら、たばこを吸って鼻からぷかぷか白煙をまき散らしていた。


 なんというか、やりたい放題だった。治外法権も、ここまでくればすがすがしい。しかし、まだ肝心のケンカだけは始まっていない。さすがにこの人数相手では丹波もうかつに手をだせないのだろうか。こう着状態が続いている。


「おい」


 だしぬけだった。


 横からいきなり声をかけられた。


 私はびっくりした。あわてて声のするほうに顔をむける。


 私がでてきたドアのすぐわきに男の子がひとり立っていた。いや、正確にはしゃがんでいた。だから私の視界にはすぐはいってこなかった。

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