第77話
その男の子はヤンキー座りで歩哨をつとめていた。
どうやら、したっぱの一年生らしい。まだどこかおさない顔立ち。身体の線も細く、ぱっと見たところ身長もそれほどなさそうだった。
そしてなんといっても目立ったのはこの少年の髪型だ。
二十一世紀の現代日本の私立高校にまるでそぐわない時代遅れのリーゼント。もはや天然記念物だ。おまけに襟足を長く伸ばし、サイド以外を明るい茶髪に染めている。私はリアルの世界でそんな髪型をする人間を初めて見た。
「おまえ、なんの用だよ」
まだ声変りがきちんと完了していないのだろう。きんきんと高い声で私にすごむ。そして私をしゃがんだままでにらみあげる。
私は、自分の太いふとももの先にあるスカートの中身がこの少年に見えてしまうことよりも、リーゼントで隠れてしまっている彼の視野が人なみにちゃんと確保されているのかが心配だった。
もしかしたらこの男の子は驚異的に狭い視野しか持ちあわせていないのではないだろうか。そのせいで、世のなかの流行り廃りがなにも見えていないのかもしれない。だからこんな髪型を、この時代になってまでしているだ。
うん。悪循環だ。悪循環の天然記念物だ。
「いや、あの」
私は声が例によってかすれてしまった。心のなかでバカにしても、怖いものはただただ怖い。
「あ? きこえねーよ」
そういってリーゼントの男の子が立ちあがる。
高二女子の平均身長に届いていない私とくらべても、この少年の身長はほぼおなじくらいだ。至近距離でむかいあうと、おでこに彼のリーゼントが刺さりそうになって怖い。私はわずかに身体を引いた。
「ねえ。雅洋さん」
返事のない私にいらついたのだろうか。天然記念物の少年は叫び、屋上中央にいる矢野に声をかけた。
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