第72話
こんな気持ちになることの意味はぜんぜんわからないが、とにもかくにもそわそわした。
だからといって屋上にようすを見にいきたいなんて、死んでも思わないけれども。
弁当箱の中身をすべて口のなかに詰めこむと、それをお茶で無理やりのどの奥に流しこんだ。
おなかというより、胸がいっぱいになった。
食欲が解消されたのかどうかすらわからない。
そのまま席にぼーっと座っていた。
落ちつかない。
スマートフォンの時計とにらめっこした。
びくともしない。
落ちつかない。
なにかしていなければ、どうにもこうにもおさまりが悪かった。
なにか気持ちをまぎらわす方法はないだろうか。
とりあえずお弁当箱でも洗おうかな。
そんなふうに思った私は、からになった弁当箱を持って教室をでた。廊下の水のみ場に足を運ぶ。
アイボリーのつるつるした質感の廊下は、あいもかわらず人がすくない。トイレにむかう人やトイレから帰ってくる人がまばらにいるくらいで、基本的には閑散としている。
うちの学校の場合、卒業までクラスがえをしないシステムなので休み時間のたびに教室をいききしたり廊下でたまる文化や習性がもともとないのだ。
私は水のみ場の水を拝借して弁当箱を洗った。
さすがに食器用洗剤は持ってきていないから軽くすすいだていどで終わりだ。帰ったらきちんともう一度洗わなければならない。
それでも弁当箱の汚れを落とせば気分がいくらかでも晴れるかなと思った。
だが、結果は違った。
ただ水が冷たいだけで気持ちのそわそわは解消されない。
おまけにこんなことをしても時間なんてつぶれないうえ、そもそも没頭などできなかった。
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