第71話
教室後方で起こっている集団の動きは完全に音声と雰囲気のみで感じとることができた。
目で見なくても、おおよそのようすがわかる。
矢野と丹波とその他数名はとくに暴れるわけでもなく、後方側のドアからしずかに教室をでていった。
ひととおりの動きが終わり丹波と不良グループがでていくと、鉛のような教室の空気がふっと軽くなった。
「ふう……」
誰かがおおきなため息をついた。
みんな朝から続くこのぴりぴりムードにそろそろ限界を感じていたのだ。そのひと声を皮切りに教室がにわかに騒がしくなった。誰も彼もがそれぞれに、思いおもいのことをしゃべっている。
教室じゅうに張り詰めていた緊張の糸がぷつんと切れた。そんな感じだ。
もっとも今、後方で起きた光景に対してコメントするようなつわものは無関心な二十数名のクラスメートのなかにはひとりとしていなかったが。
私としては、なぜかむしょうに丹波のことが気になった。
なまじ昨日いっしょに駅まで帰ったからだろうか。身近で話したぶん情がわいているのだろうか。弛緩しきった教室の空気のなか、ひとりだけそわそわしてしまって落ちつかない。
そんななか、やきもきしながら味のしない弁当を無心で口に運んだ。
どこにはいったのかわからない。
なんだか、ぜんぜん落ちつかない。
私をいじめていた学校一の不良生徒と、私を守ると豪語した街で有名な金髪の不良が今まさに屋上でケンカをしているまっさいちゅうなのだ。私にとっては関係ないようで関係あるような気もするし、関係あるようで関係ないような感じもする。
おそらく矢野は丹波がどんな人間なのか知らない。
街で有名な不良であるなんていうことは想像すらしていないだろう。
だが、矢野はこの学校の理事長の孫で、この学校に限定すれば絶対的な力を持っている。
矢野のひと声で学校じゅうの不良方面の生徒たちがまたたくまに全員集まる。へたをすれば、不良もまじめもモブのような地味キャラも、その他無関心な生徒たちだって全員が屋上に集まるだろう。
六対一のケンカはなんとかなっても千対一ではさすがに転入生にも分(ぶ)が悪すぎる。
そうなってくると私は気になる。
昨日、私を守るといってくれた金髪の丹波のことが気になってしかたがなかった。
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