第51話

 なるほどなと思ったが、なんで心を読んだのだ。


「いや、あんたがそういう顔をしていたから」


 また読まれた。おまけに人にむかってあごをしゃくる。


「だから、初乃です」


 再度、強めに注意する。


 一度しゃべったからだろうか。今度ははっきり声がでた。というよりも私の声は思いのほかおおきかったようだ。ヴォリュームのつまみが壊れたラジオみたいに廊下じゅうに、きーんと響いた。


 やはり私はどこか感覚が麻痺しているのだろう。


 ろくに人と話していないもんな。


「とりあえず」


 露骨に耳の穴に指を突っこみながら男の子がいう。


 こういうおおきなリアクションやポーズは、コーカソイドの血なのだろうか。いちいちアクションがおおげさだ。


「ここで立ち話ししていてもしかたないから、歩きながら話そうぜ」


「は?」


 とつぜんの提案に、思わず声がでてしまった。


 それは、私といっしょに帰ろうっていうことだろうか。


「だから、この学校のこと教えてほしいんだって」


 また心だか表情だかを読まれたようだ。転入生がそういった。


 私はそんな転入生の顔を再度じっくり眺めた。


 ちょっとヤンキーっぽいうえ、なんの事情も知らない転入生だとしても、相手はまぎれもなく超絶のイケメンだ。


 そんな男の子が私なんかとふたりきりで下校しようとしている。


 これは入学以来の大事件だよ、ママ。

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