第48話

 だが、私の思いはむなしく終わった。


 極力かかわらないですごそうと思った矢先、不良とのかかわりがさっそくできてしまったのだ。


 その日の帰りのことだった。私は奇跡的に矢野たちにちょっかいをだされることなくぶじ放課後をむかえた。


 奇跡。


 快挙。


 驚愕だ。


 この調子ならばこのままずっと平和にすごせるんじゃないかななんて甘いことさえ思ったが、それは一時的なものだということも頭のなかでなんとなくわかっていた。


 というのも今現在、矢野たち不良グループは金髪の転入生と対立している。そのため、今だけは私など眼中にないのだ。


 私の場合、いじめられること以外にとくに目立ったところのないマイナーキャラなので、すぐに視界のそとにはじかれる。今日にかんしては、それはとてもいいことなのだが。


 私は忘れものがないか何度も確認してから一番最後に教室をでた。持ってきたものはすべて鞄のなかに押しこんだ。


 いつもだらだらと教室でたむろしている矢野たち一派は、すでに教室から姿を消していた。おそらく屋上にいったのだろう。それならば、その隙に帰るにかぎる。


 私はのんびりげた箱にむかった。


 そこで事件は起こった。


 階段を一階までおりきったところで金髪の不良転入生にばったり会ったのだ。


「げっ」


 心のなかで悲鳴をあげる。


 うちの学校は中央階段に対して垂直のむきでスチール製のげた箱がクラスごと、学年ごとに列をつくってならんでいる。二年三組のげた箱はちょうど中央階段の真正面だった。


 もし完璧な死角から近づいたのだったら露骨に方向転換して時間つぶしでもしていたところだが、今回はそうもいかなかった。転入生はこちらにちらと目をやったし、そもそも一階にはげた箱以外にいく場所なんてどこにもない。


 ここにきてわざとらしい方向転換をして因縁をつけられても困る。


 逃げるわけにはいかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る