第47話

 その日のホームルームは簡単なもうしおくりていどで、とくに重要なお知らせなんてものはひとつもなかった。


 もっとも昨日転入生がくるなんていう一大イベントが起こったのだ。そうそう毎日、絵変わりするような事件は起きない。担任の口からはたいした話しもないままに、ホームルームが淡々とすぎていく。


 私はこっそり、ななめ後方に視線をむけた。矢野がうしろの席の丹波につぶやいているのが見えた。


「放課後、屋上にこい」


 どうやらケンカの呼びだしらしい。


 あるいはリンチの呼びだしかもしれない。


 そんなふたりのようすを見ながら、私は昨日の夜の光景を思いだしていた。


 六対一のケンカを一瞬で片づけてしまう金髪の転入生。


 昨日の暴走族のせりふでは、丹波は有名な不良だということらしいが、とてもそうとは思えない。


 このあたりの不良のくせに金髪の丹波を知らないやつはただのペーペー。そんなふうにいっていたが、私からすればただの超イケメンにしか見えない。そのあたりは、私が私立の生ぬるい空間で囲われているただのペーペーだからだろうか。


 そとの世界の不良事情を知る機会など今までだって一度もないし、これからだってきっとない。


 じっさいのところ丹波がどんな人間なのかはわからないが、どちらにしてもあまりかかわらず距離をおいたほうがよさそうだ。


 もちろん、理事長の孫である矢野ともできることなら距離をおきたい。もっともこの学校一の不良の場合、逃げてもきっと逃げたぶんだけ距離を詰めてくるのだろうが。


 とにもかくにも私としては、いじめっこや不良にかかわらず平穏無事な学校生活を送って、おとなしく大学まで卒業したい。


ホームルームが終わると私はハンドタオルを洗いにトイレにいった。

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