第29話

 駅の近くに到着した。


 スタンドからの最寄り駅は繁華街になっている。


 ここまでくれば駅はもう目と鼻の先だ。


 私はいつもどおり繁華街のなかをとおって駅にむかった。


 スマートフォンの時計は夜の九時四十分すぎをしめしていたが、夜はまだまだ浅かった。


 明かりは煌々としていて、そこかしこが人であふれ返っている。キャッチに酔っ払いにあてもなくたむろする連中。ざわめきどころか奇声さえもきこえてくる。


 私は早足で繁華街をとおりすぎようとした。ひと足先に営業を終了したパチンコ屋が進行方向右手に見えた。


 そこをこえれば、繁華街はひとまず切れる。すぐに大通りの交差点にでられるのだ。


 ちなみにパチンコ屋の奥、交差点側のとなりには、これまた営業をとっくに終えた昔ながらのたばこ屋さんが一軒ある。さびだらけのシャッターはとっくの昔におりているが、細い路地との入口には明かりのついた営業中の自動販売機が立っている。


 そこを囲むように数台のバイクが停車してあった。ビッグスクーターが三台に、改造された原付きが二台。ドライバーの姿は見えない。路上駐車だろう。


 じゃまくさいな。


 そう思いながら、バイクをよける。道の端から中央側におおきくふくらむ。そのついでに、なんの気なしにそちらに目をやる。ちょうどパチンコ屋とたばこ屋のあいだの路地が目にはいった。


「おい」


 声がきこえた。


 私がのぞきこんだ路地のところからだ。


 人影が見えた。


 思わず足をとめてしまう。


 なんというか、条件反射。野次馬根性。


 とおりすぎるためのあと一歩が私はなぜか踏めなかった。片足を宙に浮かせたままフリーズしてしまう。


 私の視線の先にあるパチンコ屋とたばこ屋のあいだの路地は、幅が五メートルくらいはあるだろうか。広くはないが狭くもない。そんな感じだ。

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