第26話

 学校が終わると私は昇降口のところで理子と天野くんの無関心カップルの背中を見た。


 ふたりはこちらをちらりと見たが、目をあわせずとくに話しかけてくることはしなかった。


 しかたのないことだ。


 下校時刻はまわりにほかの生徒たちがいっぱいいる。私と仲がいいなんて、万が一にも矢野たち不良グループに知られるわけにはいかないのだ。


 だから私はそんなふたりの背中を黙って見送って、ひとり歩いて変わりばえのないアルバイトにむかった。


 私は通常放課後、週に五日のバイトをしている。


 もちろん私立学校のバカ高い学費を稼ぐためだ。


 うちの学校の授業料ははっきりいってめちゃくちゃ高い。半期に一度まとめて支払わなければいけない仕組みで、年度の合計金額は約百二十万円。


 もちろん全額ぶんにはぜんぜん足りないが、やらないよりはましである。


 ちなみに私が学校をでるころには、湿っぽかったブラウスがなんとか乾いていた。ずぶ濡れになったブレザーは、いまだ生乾きのままだったが、これも明日までにはなんとかなるだろう。とりあえず小わきにかかえて持っていく。


 それよりも私は今朝ロスしてしまったぶんの一万三千円を一日でも早く稼がなければいけないのだ。そのためには、とにかくバイトあるのみ。


 げた箱で靴を履きかえると、スチール製の扉に鍵をかけ、わき目もふらず学校をでた。

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