第10話

「初乃」


 そんな廊下を眺めていると、横からいきなり声をかけられた。私はそちらに目をむける。


理子りこ


 おそらく今登校したばかりなのだろう。こちらにむかって階段をあがってくるひとりの女の子が見えた。


 髪の毛はふわゆるのパーマでわずかに茶色い。背は平均身長よりもちょっぴり低いくらいだろう。きれいというよりも、かわいい系の犬みたいな女の子だ。私を見つけると小走りになった。


「なに? あんた、またやられたの?」


 階段をのぼりきったところで理子が私の横に立つ。中田なかた理子は、私とおなじ外部組だ。入学のガイダンスのときに、たまたまとなりどうしになったので、そのとき仲よくなった。


 もっとも、そのころはこの学校がこんな感じだったなんて、おたがいに知らなかった。だから「おなじクラスになれたらいいね」なんてのんきに話して携帯電話の番号を交換したくらいだ。


 だが、結果は私たちの思いどおりにはならなかった。理子と私は外部組としてべつべつのクラスに振りわけられた。


 もっとも理子の場合、私と違ってはずれクラスに引きとられたわけではない。理子のクラスには問題児であり理事長の孫である矢野はいないし、ほかの権力者といっても、せいぜいちゃちなヤンキーくらい。クラス内でのいじめもなければ、至って平和なものである。


 だから彼女は私とおなじ外部組でありながら、私とはぜんぜん違う、雲泥の差の学校生活を送っている。もっともそのことで理子をうらんだり、うらやましがったりする気は私には毛頭ないが。

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