第9話

 たよりない髪の毛だが、しばってアップにしておけば、ふたたびブラウスを着てもこれ以上は濡らすこともない。


 あとはふつうに教室で授業を受けているうちにエアコンが濡れた髪もブラウスも乾かしてくれる。


 もしかしたらうしろの不良グループのくすくす笑いの乾いた声もドライ機能の一端を担ってくれるかもしれない。となると問題はあとはブレザーだけだが、こちらは時間をおくしかすべがない。


 机の横に引っかけておけば、放課後までにはいくらかましになるだろう。消極的だが、そんなふうに判断した。


 もう一度、布切れで身体をざっと拭いた私はうっすら濡れたブラウスを着用しブレザーを小わきにかかえて個室をでた。ほとんど同時にチャイムが鳴る。朝のホームルームがあと五分で始まりますよという合図の予鈴だ。


「くしゅん」


 くしゃみがでた。教室に戻ろうと進行方向に顔をむける。人心地ついて落ちついた私の目に廊下の景色がようやくうつる。


 誰もいない。


 おとなしいものだ。


 チャイムが途切れたあとの静寂がつるつるした質感のアイボリーの廊下に長く残った。

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