第2話
メールマガジンのトップを飾っていた記事には、このような見出しが
どこから瑠花はこの情報を得たのか。俺は即座に、幾通りもの可能性を考えた。
まず一つは、犯人またはその関係者から直接情報を得たということだ。仮に文芸部が犯人であったとすると、この可能性は非常に高い。なぜなら、瑠花は文芸部に関する弱味を握っているからだ。それをネタに、文芸部を揺すっているという可能性だって十分に考えられる。もちろん俺との約束を
しかし、ただの直感ではあるものの、俺は文芸部が犯人ではないと思っている。そのように考えると、もう一つの可能性も浮かび上がる。俺もしくは伊勢谷、そして永峰から情報を得た可能性だ。
俺は当然教えていないし、だとすると可能性があるのは伊勢谷、そして永峰の二人だ。伊勢谷のこの態度が演技なのだとは到底思えない上に、伊勢谷にとって瑠花に情報を流すメリットがあまり考えられないことからも、一旦伊勢谷は情報
そうすると、考えられる唯一の人物、永峰瑞希へと疑いの目が向くこととなる。永峰がその情報をマスコミ部に流すメリットについては置いておくが、何かと発言や行動に不自然な点が多い永峰を疑ってしまうのは仕方のない流れとも言えるだろう。
しかしどちらにしても、俺に何も知らせずにそんな重大な情報を流していく瑠花に対して、俺は疑念を抱いていた。ともかく瑠花に話を聞かないといけないと思い、俺は瑠花へと連絡をしたのに、いわゆる「既読スルー」を食らう始末。
つまり、この騒動に最も近い所にいながら、何も情報を得ることができていない残念な人物であるのだ、俺は。
ということを伊勢谷たち生徒会メンバーたちに説明をする。
「まあ、この件に悠人が一枚噛んでるとは思えなかったしな……。その疑惑が晴れてよかったよ」
「むしろ俺が疑われてた事が心外だよ……」
真っ当に生きてきたと思っていたのに。俺が口を
「それはともかく、その上で悠人に頼みがある」
「頼み?」
「そう。一つは、察しがつくとは思うが、大類瑠花に直接会って話を聞いて欲しいってことだ」
それなら俺も既に動いているわけだし、支障などもない。無言で頷く。
だが、問題となるのは伊勢谷の言い方から察せられるその次の依頼なのである。
「そしてもう一つだが……、これは生徒会としてのお願いになる」
生徒会としての……、その言葉に俺は何となく嫌な予感を覚える。
俺自身が伊勢谷から依頼を受けることはあっても、生徒会として依頼を受けるようなことはまずあり得ない。俺がそれだけそういう組織とは無縁の人間だからだ。
だが、俺の身近には生徒会だとかそういう組織に近しい人間がいてしまうのだ。だから、生徒会から俺に依頼をするということは、そのままその人への依頼ということに直結するのだと思う。
「……俺の姉貴に何の用だよ」
姉・
「さっすが悠人。分かってるなら話は早い。晴美さんから、会長に連絡を入れて欲しいんだ。早く学校に戻るように」
「いや、それ自分たちでできるでしょうに」俺は矢継ぎ早に返す。面倒事はできたら避けたい。
「もちろん連絡は取ってるさ。だけど、全くもって返事がないんだ。だけど多分、晴美さんからの連絡なら無視はできないはず。うちの会長、一年生の頃は晴美さんの信者だったらしいからな」
信者って……、あの
「家に行くとか、さ。どうしても
しかし、伊勢谷はゆっくりとかぶりを振って答えた。
「何でも会長の友達が家を訪ねたみたいだが、誰もいなかったそうだ。会長の家は元々母子家庭だし、たまたまってことも考えられるのだが……」
「母子家庭、ね……」妙にその言葉が引っかかった俺は、思わず
「まあともかく、だ。晴美さんからの連絡なら会長も放っておくことはないと思う。頼む、悠人! お前だけが頼りなんだ!」
頼りなのは俺ではなく姉貴の方だというのが事実なのだが。まあここで一つ貸しを作っておくのも悪くはない、というか断りにくいと感じた俺は二度
「はいはい、分かったよ……。だけど姉貴、気まぐれだからな。引き受けてくれるかは分からないぞ」
「あー確かに。そういうのも含めてなんかオーラみたいなのがあったらしいからな。それでも緊急事態って言ったら何とかなるんじゃないのか?」
うーん、と俺は考える。
「我が姉ながら全く見当がつかない」
言うと、何だよそれ、と肩をすくめて伊勢谷が言う。
「ま、今回学校で起こってることはありのままに伝えても大丈夫だからさ、何とか頼むよ」
伊勢谷がそう言った所でちょうど予鈴が鳴った。俺たちはそれを合図にバラバラと教室へ戻り始める。
俺と伊勢谷も並んで教室へと戻って行くが、歩きながら俺は違うことを考えていた。
姉はこの学校で起きている出来事を聞いてどのように思うだろうか。部外者には関係ないこと、と
自分の姉なのに、姉がどういう選択をするのか、
だが、本当の原因はそこにのみあるのではないような、そんな気も同時にしていたのだった。
▽
俺が過剰に警戒し過ぎていただけなのだろうか。
正直、もっと騒がしくなっているのかと思っていたが、学校内ではこの話題を持ち出す人間は少なくとも俺の見た限りではいなかった。
だが、よく考えてみればそれが当然なのである。
マスコミ部などという発足したての、しかも部員が二名(幽霊部員一名を含む)という部活動が出した、おふざけに近いような校内記事。九割以上の人間が悪ふざけか何かだと思って記事を読んだだろう。
記事には密室が作られた詳細も書かれていたが、それを真に受けて真剣に取り合うほど高校生も暇ではない。
だから、表向きにはこの件は流れていくのかもしれない。
だが、書いた本人はそうはいかないだろう。
書いた本人は、その人を知っている人間からあの記事についての具体的なことを直接聞かれても仕方がないのだ。どうしてあんなことを知っているのか。どこからの情報筋なのか。
そして、その一人が俺だ。
放課後になっても返事がないメッセージアプリに見切りをつけ、俺は一年生の教室へと直接足を運ぼうと思っていた。あいつが一日中スマホを触っていないとは考えられないので、意図的に俺のことを無視しているのだろう。もちろん故障だったりした場合を除くが。
どちらにしても、直接捕まえた方が絶対に早い。そう思った俺は、放課後のSHRが終わるとすぐに立ち上がり、教室を出ようと動き出す。
「瑠花ちゃんならいないよ」
立ち上がるとほぼ同時に俺の背後で聞こえたのは、聞き慣れているはずもないのに妙に俺の耳に嫌な感じを残す、それでいて
振り向かなくても分かる。俺の背後から声をかけたのは他でもない、永峰瑞希であった。
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