第2話
「おーい、
また、おそらく伊勢谷は瑠花の付けている赤色のバッジを見て瑠花が一年生だと判断したのだろう。バッジの色によって、学年が分かる仕組みになっている。ちなみに俺たち二年生は青色、三年生は緑色だ。
「だからっていちいちこっちまで見に来なくてもいいものを……」
「いやいや、だって悠人のことをわざわざ心配する奴なんて俺以外にいないだろ? それにほら、教室の位置が分かっていない可能性も」
「あるか。もう二年なんだぞ」
大体俺のことを心配する奴がいないなんて、従兄妹の前で言うのはやめてほしい。まあこいつは瑠花のことを俺の従兄妹だなんて知らないのだから仕方はないのだが。
「ハハハ、まあ冗談だよ。……んで、この子は?」
俺たちのやり取りを見ながらぽかーんとしていた瑠花は、伊勢谷の視線を受けて、慌てて口を閉じてからニコリと笑う。
「あ、こんにちは。一年六組の大類瑠花です。悠くんとは従兄妹の関係です。それにしてもビックリですよ、生徒会長の伊勢谷さんが悠くんと知り合いだったなんて」
ああ、これは完全に
「ああ、なるほど。従兄妹、ね……。うん、まあ悠人は俺がいないとどうしようもない奴だけどね。……この分だと自己紹介は必要ないかな」
おい、いつからそういう立場になったんだよ。俺はお前にお
「はい! 伊勢谷さん、一年生の間でも話題なんですよ! 会長さん、すっごくイケメンだって!」
ははは、瑠花よ。それは外見に惑わされてるってやつだ。早急にこいつの本性を暴いてやれねばならぬ。外見だけで人を判断するのは間違いだということを
「いやあ、嬉しいねえ。でへへ」
教えるまでもなかった。少し気を抜くとこんなにだらしない声を上げるやつがただのイケメンなわけがない。イケメンなのは合っているのが妙に悔しいが。あと、一つ間違っていることがあるのを指摘しておく。
「おい、お前会長じゃないだろ。ちゃんとそこは訂正しとけ」
「ん? ああ、そうだったな。大類さん、俺実は会長じゃないんだよ。会長代理。実際の立場は副会長なんだ」
瑠花は、少しキョトンとした表情を浮かべ、少し首を
「じゃあ、会長さんはどこに?」
「……うーん、俺も知らされていない」
副会長である伊勢谷にまで知らされていない会長の逃亡先とは一体。
しかしまあ、ウチの生徒会長ってそんなことをするような自由人だったように思えないんだけどな……。
少し困り気味だった伊勢谷に助け舟を出してやることにする。
「ほら、もう時間だ。教室に帰れ」シッシッ、と瑠花を追い払いつつ俺は伊勢谷を連れて歩き出す。
「あ、ちょっと待ってよ悠くん。話は終わってないよー!」
瑠花が不満そうに口を尖らせながら俺たちを呼び止めるが、知ったことではない。俺は振り向きざまに言い放つ。
「まあこの学校にいるんだったらそのうち分かるだろ。じゃあな、瑠花」
そう言って、無理矢理伊勢谷を引っ張っていく。瑠花は、少し未練がましそうに追いかけようとしていたものの、授業時間が近いのだろう、俺が二度目に振り返った時にはもう姿がなかった。
これで、もう一度前を向いたときにまた目の前に現れていたらちょっと恐れを抱くな……、と思いつつ前を振り向くと、
「……いやー、助かったぜ悠人。それにしても会長、いつになったら帰ってくるんだ……」
「俺の知ったことか。先生とかには聞いてないのか?」
俺が尋ねると、伊勢谷はため息をついて言う。
「聞いたけど、プライベートなことだからって言われたよ。まあ、本人が帰ってきたら問い詰めるさ」
まあそれが一番手っ取り早いだろう。何よりそれは生徒会の問題だ。俺の関係のあることではない。
それにしても、瑠花がこの学校にいたとは。なんだかややこしいことになりそうな気がしているのは、俺だけだろうか。
▽
今日も一日疲れた。
そんなことを思いながら帰宅の途に就いている俺は、
でもサラリーマンが家に帰れば
俺はそう決めて、玄関を開け、靴を脱ぎ、そのままの勢いで右手にあるリビングのドアを
…………ついんてーる?
「あー、お兄ちゃん、おかえり」
……おかしい。そこには天使がいたはずだ。なのに、今そこでソファに寝そべっているのは、ただのおっさんじゃないか。なのに女だ。なのに春絵ではない。ともかくおかしい。
要するに、なぜか瑠花が俺の家のソファにてゴロゴロしていたわけなのだが、どうしてこうなったのか、ご説明頂きたいと思う。
「……おい」
「うん?」
「なんでお前がさも当たり前のように俺の家にいるんだ」
場合によっては不法侵入にて
「うん? あー、だって私、悠くんの家族みたいなもんじゃん。だから別に家にいたっておかしくないと思うんだよねー。ね、お兄ちゃん?」
小首を
「そういうことを言ってるんじゃない。というか俺はお前の兄じゃない。要するに、どうやって入って来たのかって聞いてるんだよ」
俺が言うと、やっとこさ瑠花はソファから立ち上がって俺の方へと歩み寄る。
「ふふーん、愛の力で扉なんて簡単に開いたよ?」
「よし、お
そう言いつつ本当に受話器に手を伸ばすと、さすがに慌てた様子で手をバタバタと振る。
「ちょいちょいちょい、悠くん! 仮にも従兄妹に向かってそんな対応する? もー、冗談通じないんだから!」
俺は受話器を取り、一を押す寸前まで手を伸ばしていた。やっと従兄妹だと認めたか……。本当に通報する寸前だったんだぞ。
「ったく、別に家くらい普通に来たらいいだろ。で、鍵は姉貴に借りたとして、何の用だ?」
そう言うと、瑠花は少し驚いた様子で首を傾げる。
「あれ? 私、晴美ちゃんに鍵借りたって言ったっけ?」
言ってない。だが、言う必要なんてない。
「そんなこと、聞かなくたって分かるだろ。お前がこの家に入って来れるとするなら、誰かに鍵を借りる他はない。両親はここのところ家に帰ってくる気配もないから、借りたとするなら春絵か姉貴かのどっちかだ。で、この様子を見ると、まだ家に春絵は帰ってきていない。春絵も鍵は持ってはいるが、中学校まで鍵を借りに行くのは現実的ではないし、今日の朝に借りに行ったというのもまた、現実的ではない。何より春絵は携帯電話を持っていないから、誰かと連絡を取る手段といったら家の電話くらいのもんだしな。というわけで、消去法的に姉貴が残る訳だ」
それに大学なら簡単に入ることができるし、姉貴は携帯を当然持っているので、連絡も簡単に取れる。姉貴に鍵を借りたと考えるのなんて非常に簡単な話なのだ。
「へー、春絵ちゃん、携帯持ってないんだ。それでも、そこまで考えが行きつくなんて
どこか含みを持たせたような言い方に、俺は少し
「どういう意味だ」
「そのまんまだよ。昔っから、悠くんは物事をしっかりと考えることができるタイプだったよね、って意味」
言葉の表面だけなぞると俺のことを
「はあ、まあそれは正しいから素直に受け止めておこう。で、何の用だ?」
まあ、久々に会ったから積もる話もあるのだろう。……いや待て、でも春休みに会ったばかりだろ。積もる話なんてあるのか? この学校に入学してからのこととか色々あるのかもしれないけれどさ。
「うん、もちろんお兄ちゃんに会いたかったんだよ!」
「おう、ありがとう。で、何の用だ?」
大体そもそもの前提として俺はお前の兄貴ではない。
「むすー。ちょっとはジョークに対する受け答えとかちゃんとしておいた方がいいよ? じゃないと女の子は寄ってこないよ?」
「余計なお世話だ。お前基準で女の子を考える気もないしな。俺の考えだと、いい男には自然と女の子が寄ってくるもんだ。言葉なんて必要ないのさ」
要するに伊勢谷拓とか。あれは
「ただしイケメンに限る」
「……用がないならそろそろ追い出すぞ?」
勝手に人の家に上がり込んでおいて要件も話さないとは何事か。こんな
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