第三話
我々アオイスペシャル探検隊は、森の奥をさ迷い歩いていた。
かれこれ二日は経過したであろう。隊員たちの疲労も隠せない。
と、その時である。
あれは二つの首に分かれている蛇だ!
まさしく双頭の蛇は実在したのだっ!
……と、某探検隊ゴッコの出だししてしまいましたが、まさしく私たちはダークエルフが住んでいる森の端っこを歩いています。
ついでに二つ首の小さな蛇を、杖代わりに拾ったそこそこ太めの木の枝でつっついて追い返しました。
こっちでは、あんな蛇はありふれていますしね。
トレックを出発し、山を迂回するコースを選びましたが意外と時間がかかっています。
海岸沿いに歩いていけば近かったのですが、意外と海のそばは魔物も多いし、何より大雨で海が時化っていて流されてしまう可能性もありましたからね。
逆側から迂回したのが敗因です。
やっぱり大人しくトレックで時間を潰していれば良かったです。
まさに後悔先に立たずです。
そして迂回して山の反対側まで行ったのは良いのですが、反対側がすぐ森になっているとは思ってもみませんでした。
幸い大雨は迂回している途中で止みましたが、この森はとても歩きにくいのです。
私だけならば、半分ダークエルフなので森の中でもそれなりに速く歩けますが、アリスさんがいらっしゃいますしね。
しかしこの鬱蒼としている森のどこかに、ダークエルフの住む里があるのですね。
このまま直接彼らに会いに行ってもいいのですが、どこにいるのか不明なのです。
ミヤキスという、この森に一番近い町を拠点として行動したほうが安全ですね。
そして町につかないまま、今日も日が暮れようとしています。
「アオイさん、そろそろ一旦休憩しませんか?」
「そうですね、体力的には問題ないのですが精神的に辛いですしね。休憩を挟んでこのまま夜通しでミヤキスまで歩きましょう」
「はい、それにしても歩きにくいです」
「木の蔓が、人の足を引っ掛けるためだけに育ったような配置していますしね」
お猿さんのように木の上を飛んでいきたいです。
もしくは力技で木々をなぎ倒しながら走ってやりましょうかね。
でも腕が真っ赤になりそうですし、それはやめておきましょう。
私は木の枝を集めて、火の魔法で燃やしました。
そしてその上に鍋をセットして、トレックで買っておいた魚をぶち込みます。
そろそろ魚も賞味期限が切れそうですね。
全部入れてしまいましょう。
ついでに生のお米も入れておきます。
そして一時間後、無事雑炊が出来上がりました。
簡単ですね。
「夕飯できました~」
「わぁ、とてもおいしそうですね」
「はいどうぞ、熱いので気をつけてください」
さすがにここ数日お米を使った料理をしているからか、結構上手くなってきました。
雑炊おいしいです。
夕飯も食べ終わって一息ついてから、焚き木を消して出発しました。
「あとどれくらいかかるのでしょうか」
「さっぱり分かりません。でも地図によると、山沿いに歩けば町につく感じですので迷うことはないはずです」
山のこちら側へ来る場合は船を使うのが一般的ですから、わざわざ山を迂回するようなルートを通る人はいません。ですので道は全くありません。しょんぼり。
トレックから山の反対側にある港町ベンドルまで、二日もあればついてしまう距離ですしね。ベンドルからならば森の中にあるミヤキスまでは、ちゃんと街道は整備されているはずですけどね。
とまあ愚痴を言っても仕方ありません。
さくさく歩いていきましょう。
森の端っこのためか、魔物も見かけませんしね。
そして夜通し歩き、更に翌日の夕方まで歩いたとき、ようやく森が開けました。
「も、もうすぐですね……」
「はい……」
私もアリスさんも、もはや惰性で歩いてる感じです。
森が開けてから三十分ほどで、やっとミヤキスにたどり着きました。
トレックから実に八日間かかりましたよ。
アリスさんには悪いですが、帰りは大人しく船に揺られて戻りましょう。
さて、ミヤキスは森の中にある人口数百人程度の比較的小さめの町です。
ですが森林資源が豊富であり、また魔物の数もそこそこ多いため冒険者たちも何人かいるとの事です。
とりあえず今夜は早く宿に泊まりましょう。ベッドの上で寝たいです。
町の門番にギルドカードを見せます。
「ほお、ラルツの冒険者か。こんなところまで来るなんて珍しいな」
「少々用事がありまして」
「ふむ、ダークエルフの……ダンピール? という事はこの森出身か。今回は帰省なんだな」
「はい、そんなところです。ところで冒険者が泊まれるような宿ってありますか?」
「一軒だけだがあるぞ。森の憩い亭っていう名前だ。この先まっすぐ進めば右手に見えてくる」
「ありがとうございます」
私は門番に礼を言って、ゾンビのようにふらふら歩きながら、教わった宿へ歩いていきました。
そして暫く歩いていくと、右手に宿っぽい建物が見えてきます。
私たちは無言で宿の中へと入っていきました。
一階が酒場、二階より上が宿泊部屋というよくあるタイプの宿ですね。
「いらっしゃい。酒か? それとも泊まりか?」
渋いおじさんがカウンターから声をかけてきました。
夕飯はまだ食べていませんが、とにかく休みたいですよね。
「取りあえず今夜一晩泊めてください。二人部屋で」
「一人一晩五千ギルだ。夕飯と朝飯両方つければもう五百ギルずつ追加。どうする?」
「アリスさん、夕飯食べます?」
「おそらく朝まで寝てしまう自信があります」
「ですよねー。マスター、夕飯はいりませんが朝ごはんだけ用意お願いします」
「夕飯なしでも値段は変わらないが、それでもいいか?」
む、それは損です、夕飯も食べたいですね。
でも私も多分朝まで寝てしまうでしょうし。
ここは涙を飲んで朝ごはんだけにしましょう。
「はい、それでお願いします」
「なら、ここは先払いになってるから、二人で一万千ギルだな。三階の四号室を使ってくれ」
マスターに言われたとおりの額を払って、私たちは部屋へと入り即効寝てしまいました。
目をふさいだ瞬間に意識がなくなったのは初めてです。
翌朝、まだ太陽が昇りきらない時間帯に目が覚めました。
あれだけ疲れていたけど、目が覚めるのは早かったですね。
でも昨日は夕方くらいに寝てしまいましたので、十二時間ほどの睡眠ですか。
……十分寝ていました。
アリスさんはまだ寝息を立てています。
うーん、せっかく起きましたし、少し外を散歩しますか。
暫くここで活動しますし、ついでに町の様子もチェックしましょう。
アリスさんを起こさないよう気配を消して、静かに部屋から出て行きます。
夜は好きですが、明け方もいいですよね。
きらめく朝日を浴びながら、徐々に力が抜けていく感覚がまたたまりませんっ。
脱力系女子になれそうです。
ちからぬけぬけ~。
宿を出て、取りあえずは町の中心部へと移動していきます。
昨日はあまりにも疲れててよく見てませんでしたけど、人口が少ないためか比較的町の土地にも余裕がありますね。
家も大きいですし、更に家と家の間隔も開いています。
そして中央に近づくにつれて商店街っぽい雰囲気の道になりました。
この時間でも起きている人はいますね。
こんな朝早くからご苦労様です。
食堂からは朝ごはんを作っているのか、良い匂いが漂ってきています。
そういえばおなか空きました。
宿に戻ったらアリスさんを起こして朝ごはん食べましょう。
商店街を起点として三十分ほど散策しました。
大体のお店の位置も把握できましたし、そろそろ戻りますか。
商店街もそろそろ人も多くなってきましたね。朝ごはんの時間ですしね。
忙しそうにしている人たちを眺めていると、一人の女性が目に入ってきました。
あれはダークエルフ……ですね。
プラチナブロンドの長い髪に、レイピアを腰にぶら下げ、革鎧と緑色のマントを格好良く着ています。
あの出で立ちは冒険者ですよね。
しかもかなりの美形さんで、身長も高くスタイルが良いです。さすがダークエルフ。
それにしても、身長があるって羨ましいです。
三十cmくらい分けて欲しいですね。くすん。
でも私もあと何年かすればあそこまで成長する見込みはあるということです!
みなぎってきますね!
私の将来に希望が見えてきました。わーい。
そして彼女も私に気がついたのか、じっと凝視してきました。
ダークエルフは数が少ないですし、あちらも私の事が気になるのでしょう。
そして互いに近づいていきます。
先手を取って挨拶しましょう。
「おはようございます」
「あ、ああ。おはよう」
値踏みしているような目ですねー。取りあえずこちらの事を先に話してみましょうか。
「私はラルツの町に所属しているA-冒険者のアオイと申します」
「ラルツに在住? ダンピールとはいえダークエルフが、そんな遠いところに住むなんて珍しいな。もしかしてどちらかの親がラルツに住んでいるのか?」
「いえ、私は独り立ちしていますから。それにこの森で生まれたわけではないので、実はここに来るのも初めてなのですよ。ところで失礼ですけどあなたは?」
「あ、すまない。申し遅れたがあたしはここを拠点としているC+冒険者のサラだ。半分だが同族に会えて嬉しく思う」
「私もダークエルフにお会いするのは初めてなんですよ。宜しくお願いします」
挨拶を済ませた後、サラさんが神妙な様子で聞いてきました。
「ところで、もしかしてアオイ殿はシルフィード家の者か?」
「シルフィード家?」
「いや間違っていたらすまない」
おおっと、新しい単語が出てきました。
シルフィードって風の精霊の名前ですよね。
シルフが男性型、シルフィードが女性型でしたね。
そういえば、エルフ族は風の精霊に好かれている人が多いんでしたっけ。
だとするとシルフィードの名前を家名につけていても変じゃないですね。
「実は親の名前もアベリアという事しか知らないのです」
「アベリア様だとっ?!」
アベリアという名を聞いた途端、サラさんの表情が驚きへと変化しました。
「サラさんはご存知でしたか?」
「まさかとは思ったがやはりシルフィード家だったか。しかもアベリア様のご息女とは、これまでの発言、平にご容赦ください」
この人、いきなり片ひざをついて臣下の礼をしてきましたよ。
でもよく考えてみれば私って半分ハイダークエルフでしたね。
最近吸血鬼の能力ばかり使っていたのですっかり忘れていました。
それにしても私のかーちゃんは偉い人だったのですね。
口調はやけに軽い雰囲気のイメージでしたけど。
と、それより。
「サラさん、こんな所でそんな格好しないでください。みんな見ていますよ」
「いやしかし、王家の方にご無礼を働いてしまいましたし」
「私は単なるダンピールです。しかも生まれてすぐ捨てられましたしね。だから気にしないで普通に接してください」
「しかし……」
「いいからさっさと立てっ!」
「はっ!」
思わず怒鳴ってしまいました。
反射的にサラさんも立ち上がってくれた様子ですが。
「とにもかくにも、少しお話したいですね。この後お時間ありますか?」
「はっ、王家の方に誘われた以上断ることはできません」
「いやそーじゃなくって、サラさんは用事ないのですか?」
「パーティーを組んでいる奴らの朝食を買いにきただけですので、時間はありますですっ!」
「では朝食をそのパーティーの他のみなさんへ持っていってから、森の憩い亭へきてくれませんか?」
「あたし達もそこに宿泊しておりますので、お部屋の番号をお教えくださればあとでお伺いいたします!」
そういえば宿屋は一軒しかありませんでしたね。
「三階の四号室です。ではまた後で」
「すぐにお伺いいたします!」
サラさんはそういうが早いか、駆け足で行ってしまわれました。
うーむ、王家って私の柄じゃないですよねぇ。
ハイがつくとそこまで偉くなるのですかね。
これからは私のことを、王女さまとおよびっ! と言えますね。
でもサラさんダッシュで行っちゃったし、私も早々に戻らないと朝食を食べる前に来てしまいそうですね。
それとサラさんから色々と聞けそうですし、楽しみになってきました。
しかしまさか町についた翌日にダークエルフさんと会えるとは、運がいいです。
まさに日ごろの行いですね!
ま、とにかくまずは朝ごはんです。
そして私は商店街を離れ、宿屋へと戻りました。
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