第四話
エリックさんを施設に連れて行ったあと、私はギルドマスターへ報告をしにいきました。
今はこの町は復興途中ですし、彼でもできる仕事はたくさんあるでしょう。
報告にはリリックさんも同席です。魔人や高位の吸血鬼とか、重要そうな情報がありますし、脳筋のギルドマスターだけですと不安ですしね。
「魔人ねぇ、しかも翼が生えてたのか」
「はい、それと白い目は多分魔眼の一種じゃないかなと」
「石化させる光線を出してきたんだな?」
「はい、リリックさん」
「石化の魔眼など聞いたことはないが、あの石像がその魔人のせいだと」
しかも私の目からビームを打ち消してきましたしね。
かなり強力な魔眼ですよ。普通目からビームなんて出ませんしね。
「それと蝙蝠の羽が生えた吸血鬼か。たぶん獣人の吸血鬼かと思うんだが、蝙蝠の獣人なんていたかなぁ」
「古い文献で見たことはある。最低でも数千年は昔の本だ」
そういった文献には全て保護の魔法がかけられていて、何千年と保管することができます。
定期的に保護の魔法は掛けなおす必要はありますけどね。
「数千年!? となると、そのねーちゃんは
「ああ、しかも真祖の二世だろ? しかもその真祖ってのがアオイの親ときたもんだ。もはや驚きの連続で感覚が麻痺してきたぞ俺は」
「お前がそんな事を言うなんてな」
吸血鬼は長く生きていればいるほど、力が増します。
レムさんは数千年は最低でも生きていて更に真祖の二世ですよ。
もはやどのくらいの力を持っているのか、さっぱり妖精さんです。
吸血鬼といっても元人間の吸血鬼はせいぜい千年程度までしかいません。
大抵飽きて病んで自殺するからです。
そういった意味では、バーのマスターなんかは珍しいですよね。
あの人、千年くらい生きているはずですが未だにあれだけ感情豊かですしね。
また元々長寿の種族、エルフやドワーフなどは数千年を生きている吸血鬼もいます。
今いる数千年以上の吸血鬼は、大抵元エルフが多いですね。
そして獣人は人間よりも短命です。
獣人の吸血鬼なんて長くても数百年がいいところで、百年で自殺する人もいるそうです。
それが数千年以上も生きている、あのレムさんは一体何者なんですかね。
真祖の二世はそこまで力と精神が強くなるんですかね。
「それでそのレムとかいう吸血鬼は、ダークエルフのところへ行ってみろと言っていたんだな」
「はい」
「で、どうするんだ?」
「もちろん行きます。今すぐに、という訳ではありませんが近日中には」
何しろ真祖を殴りにいくんですからね。
何か得られるのであれば、チャンスはものにしたいですよね。
確かダークエルフの里はバル連邦国にある森に住んでいると聞いたことがあります。
途中、山を越える場所がありますので、移動に半月は見ておいたほうがいいでしょうね。
「ならばアリスの奴を連れて行ってくれないか」
「え? なぜアリスさんを連れて行くのですか?」
半月の旅は意外と遠いです。しかも途中山越えもあります。
正直な話、素人さんを連れて行くほど私にも余裕はありません。
「アリスはお前の眷属だろう。その獣人の吸血鬼が言うには、お前が何かを得られると言っているんだし、アリスにも何らか良い事があるかもしれん」
「その間の彼女のお仕事はどうするんですか?」
「いくらアリスの奴が優秀だとしても、他に人はたくさんいるんだ。十分カバーできる。それにアリスもこれからずっと受付をやってる訳にはいかんだろ」
いえ、私的にはそれで十分なんですけどね。
アリスさんのいない受付なんて、餡子のないおはぎです。
それはおはぎじゃなく、単なるもち米ですね。
しかし、どうしましょうかね。
アリスさんと二人っきりの旅は楽しそうなんですが。
観光旅行ならば問題ないのですけどね。
それでも今ならば、ベールの町までなら魔物の数も少ないですし。これは逆に旅行へ行けるチャンスかもしれませんね。
考えてみれば、私は冒険者になってから全く長期休暇を取っていません。
せめてお正月とお盆、ゴールデンウィークの時期は長期連休欲しいです。
この世界にはそんなものはありませんが。せいぜい新年を迎えたときくらいですね。
そろそろ行ってみてもいいのではないでしょうか。
「ま、とにかく情報はありがとよ。あとで報酬は渡してやる。それとお前今日からA-ランクな」
「えええ!? 私はあの魔人を倒して無いですよ。しかも死体もレムさんが持っていっちゃったし、証拠もないです」
「これだけ重要な情報を持ち帰ってきたんだ。それと石化の件も一応カタついたんだろ? ならば試験は成功で問題ない。それにA-冒険者なら、それなりに箔はつくだろ」
確かにAとSは別格扱いとされています。
冒険者ギルド内でも大きな顔ができるほどのレベルです。
くれるというなら、貰っておきますか。
それにAであれば確かに旅先でも、より信用度は高くなるでしょう。
女二人で、しかも両方とも吸血鬼では人間の町だと怪しまれること請け合いですしね。
「わかりました、お受けします。それとアリスさんにはお話しておきますね」
「頼んだぞ」
そして私は二百万ギルほどの報酬を貰ってほくほく顔でギルドマスター室を出ました。
このお金はへそくりにしておきましょう。
絶対アリスさんには秘密です。
「さあアリスさん、一緒に新婚旅行へいきましょう!」
「はい?」
虚を突かれたのか、驚き顔のアリスさんです。
でも私もこんな感じでいきなり言われれば驚くでしょうね。
「さあいきましょう。今すぐいきましょう! 問答無用でいき……いたっ!」
「落ち着いてください」
問答無用で頭を殴られました。お、親父にも殴られたことはないのにっ!
殴られる以前に生まれてすぐ捨てられましたが。くすん。
「それより試験は無事に終わったのですか?」
「はい、先ほどギルドマスターにお話して無事A-ランクにあがりました」
「それはおめでとうございます。ではギルドカードを更新しますね」
「ところでアリスさん、先ほどの続きですが今夜お話しますね」
「結婚旅行ですか? 誰がいつどこで誰と結婚するのですか?」
あうぅ~、アリスさんの目が怖いです。ぞくぞくしますっ。そんなに見つめちゃだめぇ~。
「く、詳しくは今夜ですっ。ギルドマスターからの依頼です」
「ギルドマスターからですか? わかりました、今夜お聞きいたします。カードは今夜持って帰りますね」
信頼はギルドマスターのほうが高いようです。おかしいですね、私はアリスさんの親のはずなんですけどねー。くすん。
「はい、わかりました。では先に帰ってますね」
「夕食はお先に食べていてください」
「はーい。ではあとで」
さて、夜まで時間が空きましたね。
時間つぶしに、どの程度復興したのか町中でも散策してみましょう。
まずは雑貨屋さんです。
以前エロシルフを縛るときに使った縄はとても便利でした。
あれもう一本欲しいですよね。
それと、旅行用に大きめのテントも欲しいですし、調理器具も少し追加したいですね。
この際ですから買っちゃいましょう。
そして意気揚々と到着したはいいものの、見事お店は半壊していました。しょんぼり。
半壊した店の中に人影が見えたのに気がつきました。
あの時のおじさんが一生懸命瓦礫を動かそうとしています。
でもかなり重いのか、全然片付けは進んでいません。
仕方ありませんね。
「こんにちはっ! また来ちゃいました」
「ん? おお、あの時のお嬢ちゃんか。悪いけど見ての通り店はこんな状態でな。まだまだ開くのに時間がかかりそうなんだよ」
「よろしければ、お手伝いしますよ」
そう言いながら私は瓦礫を片手で持ち上げます。
「うぉっ、お嬢ちゃんずいぶんと力持ちだな」
「あはは、私はこう見えてもA-ランクの冒険者なんですよ?」
「A-!? ずいぶんと高位ランクの冒険者だったんだな。じゃあギルドからきたのかい? でも俺は依頼した覚えはないんだが」
「いいえ、今日は夜まで時間が余っちゃいまして。散歩していたら偶然見かけましたのでつい。お邪魔でしたか?」
「まさか! かわいいお嬢ちゃんを邪魔扱いなんてしないよ」
「ありがとうございます。じゃあ私は瓦礫の片付けやっちゃいますね」
「おお、悪いね。もうすっかり年をとってなぁ。昔のようにはいかんな」
「ではそこで見ていてくださいね」
片手で次々と瓦礫を掴んでは外へ放り投げます。
ちゃんと外に人がいないことを確認してますからね。
そして三十分ほどですっかり瓦礫はなくなりました。
「わざわざありがとう、店が直ったら是非きてくれ。色々と目一杯サービスするからな」
「ありがとうございます。また寄らせていただきますね」
ふぅ、次は防具屋さんでも覗いてみましょう。
そういえば、アリスさん用の武器と防具も買わないといけませんね。
いくら魔物が少ない時期とはいえ、最低限の武具は必要です。
特に防具は!
……アリスさんにはぜひとも危ない水着とか着せたいかもです!
そして再び意気揚々と到着したはいいものの、見事にお店は焼け落ちていました。しょんぼり。
そしてここでは、木材やアルジロの皮を運ぶお手伝いをしました。
さて次は武器屋さんですかね。
静御前のメンテナンスもついでに頼んじゃいましょう。
そしてまたまた意気揚々と到着したはいいものの、見事にお店は跡形も無く、焼け野原状態になっていました。しょんぼり。
それよりどんどん状況が酷くなっていませんか?
本当に復興しているのでしょうかね。
「さあ武器屋のおじさん! 勝負ですっ!」
「おお! 小娘なんぞに負けるわけにはいかぬわ!」
店を建てる材料を次々と二人で運んでいます。
さすが武器屋のおじさんです。人間にしてはかなりの量を一気に運んでいますね。
でも私は彼の倍以上の重さを運んでいますけどねっ! えっへん。
そして最後に金属屋さんから炉の元となる鉄の塊を二人で運びました。
さすがにこれは一人では厳しいですね。
「助かったよ、店が直ったらその武器を見てやるからな」
「はい、そのときは宜しくお願いします」
その後も私は壊れたお店のお手伝いをしました。
ふぅ、バイト代でも貰えばよかったでしょうかねー。
でも二百万ギルも報酬でもらいましたし、これもサービスですね。
久々に肉体労働をしました。
夕飯は久々にティスの定食屋さんにいきましょう。
今なら大盛りだって食べられる気がします。
アリスさんの家に住むようになってから、ずっと家で食べていましたからね。
それと旅行はいつにしましょうかね。
道中の彼女の血も考えないといけませんし。
誰か処女の美少女でもパーティを組んでくれませんかね。
日も落ちたラルツの町を、そんな事を考えながら私は定食屋さんへと向かいました。
がーん、ティスの定食屋も壊れてる!?
仕方なく保存食をかじりながら、家に帰りました。くすん。
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