第六話


~~~二日目~~~


 昨日は泣きながら外に出て、近くに流れている川に飛び込んで体中ごしごし洗ってしまいました。

 洗い終ったあとに気がついたのですが、吸血鬼って流れる水は苦手なんですね。

 戻ろうにも足がすくんで動けなくなりましたよ。

 結局魔法で水を凍らせて歩いて戻りました。


 もーほんっと、昨日は散々でしたね。


 でも今日のアオイさんは一味ちがいますよ?

 あげ的な気持ちで新たにがんばりますっ!



 さて、昨日は猪突猛進すぎました。Bランク冒険者のアオイさんにしては珍しい落ち度ですね。

 敵を知り己を知れば百戦しても危うからず。有名な兵法書の一番最初に載っている言葉です。

 己は可憐な美少女冒険者と知ってますし、敵も骨だけのおじいさんと知っています。

 つまり百回戦っても必ず勝てますねっ!


 ……何か違う気がしますが気のせいですね、きっと。



 さて、まずは風の精霊を呼びましょう。

 こう見えてもハイダークエルフの血も流れているんです。

 精霊魔法もお手のもんですよっ!


 私は両手の平を正面に合わせ、呪文を唱えました。


「世界の流れを知る風の精霊よ、我アオイの名においてここへ来たれ」


 呪文が完成すると同時に、不意に風の流れが変わり私の周りをぐるぐる回り始めました。

 良く見ると羽の生えた小さな男の妖精のような姿が見えます。


 そう、この子が風の精霊シルフさんです。

 小さくていたずら好きな精霊さんなのですが、その力は下位精霊とは思えないほど強力なんです。


 って、きゃぁ!?


 突然周囲の風が、私の足元から上に吹くような流れに変わりました。

 すなわち……スカートがめくれちゃいますっ!


 普通の布のスカートであれば、中学生のいじめのようにスカートが完全に捲れて、頭まですっぽりと覆いかぶさっていたでしょう。

 しかしながら、私は革製のスカートなのです。オーダーメイドなので私の身体にぴったりフィットする形で作られているのです。

 そうそう簡単に私の下着をあらわにさせることはできませんっ!


 しかしシルフさんはあきらめず、必死で風を吹かせてきます。



 もー、いいかげんにしろーーーーーっ!



 手を出してシルフを掴みました。

 そしてそのまま口を開けて、鋭い牙でエロシルフに噛り付こうとします。


(ちょ、ちょっとまって! ごめんなさい!)


 慌てたような声が頭の中へ直接響いてきました。おそらくこのエロシルフが念を送ってきているのでしょう。

 しかし、そんなことで私は止められないっ!


 かじっ!


 その瞬間、吹き上げてきていた風がぴたりと止まりました。

 よし、悪は成敗されましたっ!



(ごめんなさいって謝ったのに、噛り付くなんてひどいよ~)


 頭に大きな絆創膏を×印に貼っているエロシルフが、涙目で訴えてきました。

 しかしこの可憐な美少女のアオイさんの下着を見ようとするなんて、たとえ世界が許しても私が許しません!


「自業自得ですっ!」


 まったく、この世界は男だと精霊ですらエロいんですねっ!


(それはそうと、何で僕を呼んだのさ)

「ああ、そうでした。実は二つお願いがありまして」

(じゃあパンツ見せて)


 無邪気ににこっと笑ったエロシルフの頭を、再び手で掴んでやりました。


(じょ、冗談だよっ! アオイの為ならタダで何だってしてあげるよっ!)

「そうですかーありがとうございますー(ぼうよみ)」


 手を離してエロシルフを自由にさせてやりました。懲りない野郎ですね。


(ふぅ、死ぬかと思った。これでも僕精霊なのに、なんで掴んだりあまつさえ噛んだりできるのか不思議だよ)

「一応私はハーフですがハイダークエルフですしね。あなたたち精霊に近い存在なのです」

(あー、通りで親近感を覚えるわけだ。ついうっかりスカートを捲りそうになったしね)


 あれはうっかりというレベルじゃありません。

 しっかりというレベルです。


(で、お願いって何?)

「実はですね、一つはこのダンジョンなんですが中の構造知ってますか?」

(あー、確か半年くらい前に骸骨が中へ入っていったね。中はあいにく入ったことないけど、風で調べることはできるよ)

「ではそれと、もう一つ」

(うん)

「この中ってすごく臭いんです。私の周りに風を循環させて匂いが届かないようにしてください」

(わかった。これでいい?)


 エロシルフが言った途端、私の周りに風が流れました。

 今度は下からの強風ではありません。

 やればできる子ですね。


「はい、これでばっちりですっ」

(じゃあ僕はアオイのスカートの中で待機してるね)

「いい加減にしてくれませんか? エロシルフさん」


 私の赤い目がエロシルフを捉えます。

 ひっ、と怯えたようにして飛びずさりました。


(でっ、でも僕が近くにいないと、風は維持できないよ!?)


 さすがにおびえさせすぎた模様です。少々涙目になっていますね。

 仕方ありません。腰にぶら下げたポーチを指差しました。


「そうですか、ではこのポーチの中」(なので、スカートの中を諦める代わりに、そのあるのか無いのか不明な胸の間でいいよ!)



 ……………………。



 私の神速の手がエロシルフの身体を鷲づかみにしました。

 そして私の目の前へゆっくりと持って行きます。


「エロシルフさん」

(は、はいっ)

「私はあなたが生まれた日は知りません。知る必要もありませんが」

(そ、それがなに?)

「でも命日なら分かる気がするんですよ。今日にならないことを祈っててください」


 そしてそのまま首をもって、捻じ切ってやりました。ちーん。




 さて、遅くなりましたがリッチのダンジョンへ突入ですっ!

 やはり精霊という外部の人を雇うなんて、私の主義じゃなかったですね。

 しかも何ですかあのエロシルフはっ!

 いくら風を自由に扱えようと、あれじゃ私の足を引っ張りまくるに違いありません!

 ぼっちはぼっちらしく、一人で生きていきますっ!


 ……くすん。


 ダンジョンの中へ入った私は、昨日大量のどMなアンデッドが居たところまで問題もなく、移動することができました。

 さすがに昨日の今日では戦力を補充する時間も無かったようです。

 となると、この手は使えますね。


 ここのダンジョンの階層がどの程度あるのかは不明です。

 しかしあちこち走り回ってアンデッドを大量にひきつけて、一気に炎の嵐で焼き尽くします。

 そしてダッシュで入り口まで戻ります。

 これ繰り返せば、時間はかかるかも知れませんが一番安全に攻略できますね。


 ゲームで有名なトレイン作戦ですっ!

 では、Go!




 一時間後、三百匹ほどの大量のアンデッドに追われて泣きながら入り口へ戻る私がいました。

 さすがにこれだけの数だと、呪文唱える暇もありません。


 こうして二日目も私の敗北となりました。

 あうぅ~。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る