第五話
日が暮れた深夜、私はラルツの町を出て一路お宝、もといリッチが住んでいるダンジョン目指して走り出しました。
リッチは自分のおうちに引きこもって怪しい研究をしている人が殆どです。
それだけなら人間には関係の無いことですので、放置されています。
巨大迷宮の奥底に住んでいるリッチロードなんかはそのパターンですね。
でも中には研究材料として人間や亜人間を攫ったり、或いは新魔法の発表会とやらで人間相手に魔法をぶっ放してくるのがいます。
そういったものが、討伐の対象となっています。
今回のリッチは、人間の子供を攫ったために討伐対象となりました。
しかも十歳前後の女性ばかり、分かっているだけでも八人ですよ。
実際の被害はもっと多いでしょう。
将来その攫われた中から、私の夢となる人が含まれているかも知れません。
とんでもない悪事ですねっ!
きっと「お嬢ちゃん、おじいちゃんと一緒に魔法の研究でいい事しないかい?」とか言ってるロリコンに違いありませんっ。
そして最後には「わしと契約してアンデッド少女になってよ!」と言って永遠にリッチの助手としてこき使われるのでしょう。
そんなふざけた幻想は、私の右手でぶち殺すしかありませんね。
そんな事を考えながら二日目にはリッチの住んでいるダンジョンに到着しました。
さすが夜中走ってきただけのことはありますね。
三倍速は伊達ではありませんっ!
本当であればギルドから馬とか借りられたのですが、世話するの面倒ですし、私が走るのとそんなに速度は変わりませんしね。
さて、ついたのはいいですがそろそろ夜明けです。
夜明けのコーヒーでも飲みたいところですがお相手もいませんし、そもそもこの世界にコーヒーなる存在はありませんので、残念ながらスープでも作って飲みますか。
鼻歌を歌いながら鍋に水とスープの素を入れて、沸かします。
沸かしている間、近くに生えているキノコとかを取ってきて、適当にぶち込みます。
あとは沸いたら鍋のままスプーンですくって食べちゃいます。
燻製肉も短剣で切ってスープにつけて食べます。
何となく、ザ・男の料理、って感じですね。
……淑女として、料理スキルもあげたほうがいいんでしょうね。
さておなかも膨れた事ですし、そろそろダンジョンに入るとしますかね。
ダンピールの私は、人間に比べ遥かに体力があります。
一週間くらい徹夜しても問題ありません。
でも吸血鬼は寝るときは百年くらい平気で寝られるお寝坊さんです。
それにお日様が照っている場所では、かなり体力が削られますけどね。
一長一短。難しいですね。
しかーし!
ダンジョンの中は当然お日様は照りません。
つまり私の天下です。ダンジョン内は常に三倍速ですっ。無双できますっ!
それではいざ出陣ですっ!
~~~一日目~~~
あれから一時間が経過しました。
どうしてアンデッドってこうも嫌な敵ばかりなんでしょうか?
殴っても引っ叩いても倒れるどころか、もっと殴ってー、的に襲ってきやがります。
みんなドの付くMさんですねっ!
アリスさんがここにいたら、きっとみんな狂喜乱舞して昇天しますよね。
私も昇天しそうですが。
私はゾンビのひっかき攻撃を避けつつ、足をひっかけます。
簡単に転んだゾンビを足で踏んづけてやりました。
その間に他のゾンビが私の腕を掴んできます。
ゾンビの力はかなり強いのですが、光の無い場所での私ならば簡単に振りほどけます。
というか、腐った手で掴まないでください。匂いがついちゃいます。
掌底でゾンビを吹き飛ばして、錆びた剣を振ってくるスケルトンにぶつけます。
がらがらと崩れたスケルトンですが、時間が巻き戻ったように骨がまたくっついて元通りになりやがります。
……さすがにそろそろうざく感じてきましたね。
周りを見ると、まだまだ三十体くらい腐った死体や骨がうごめいています。
前世でホラーに強くなかったら、失神するような光景ですよ。
というか、見た目だけなら井戸から出てくるさだちゃんの方が怖いですね。
では可憐な美少女冒険者のアオイさんが、そろそろ本気を出しましょう。
ダンピールの能力は魅了だけではありません。
驚異的な(三倍速の)身体能力に加え、首を切っても繋がるほどの再生力、身体を霧状に変化させたり、目からビームだって出せます。
更にはエルフの高魔力も合わせています。
血統だけなら私は一流です。新世界の神にだってなれます! ひれ伏せ愚民(アンデッド)どもよっ!
「アオイが契約する、火の四階梯、炎の嵐」
私がポツリと短い呪文を唱えた途端、私を中心とした炎が吹き荒れました。
周囲にいたドの付くMなアンデッドの身体に火がつき、そして燃えていきます。
火属性魔法中級の第四階梯に位置する、炎の嵐(ファイヤストーム)ですっ。
ふはははは、どうですかアオイさんの本気の魔法は!
アンデッドは火の魔法に弱いことは事前調査済みですっ!
そして炎の嵐が消えたとき、周りには私以外、火で焼かれた腐った肉が落ちているだけでした。
……失敗しましたぁぁぁぁぁ!
この強烈な悪臭はオークの比ではありません。
なんですかこの匂いわっ。目が沁みてとても痛いですっ! 目が~目が~!
えーん、もうやだぁ。かえるぅ~。
こうして初日は泣きながらダンジョンを出る私の敗北となりました。
あぅ~。
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