第四話


「さて、まずは準備ですね」


 ギルドから出た私は商店街へとやってきました。

 まだ時間は十時半です。このまま午前中はお買い物、お昼はいつもの定食屋さんで食べて(ランチなら何と五百ギルで食べられるのです)、午後はお休みにします。

 だってまだ頭痛が残ってますしね。

 二日酔いに効く魔法の開発を検討する必要があります。



 さて、次のターゲットはリッチです。


 私は自分が持っている唯一の武器である短剣を取り出して、眺めました。

 この定価三万ギルを値切って二万ギルで買った短剣では、きっと何の役にも立たないかと思います。

 魔法のかかった剣は欲しいところなんですが、安物ですら一千万ギルはします。

 とてもとても買えませんね。


 そういえばこの短剣も買ってから既に七年が立ちましたね。

 もう愛用品です。これが無いと調子が狂っちゃいます。

 毎日刃を研いでいるおかげで、今でもぴかぴかぴっかぁです。

 そのうち雷属性の魔法でも付与しますかね。


 しかし、この鈍く光る刃がなんとも言えない魅力を放っていますよね。

 思わず舐めてしま……。


 っと、一瞬危険な趣味にハマりそうになりました。

 なんとかに刃物になる訳にはいきません。

 可憐な正統派ダンピールの美少女を貫きます!


 でも、この刃で美少女の指先を軽く切って、そこから垂れてくる赤くて甘い血を一滴ずつ舐め……。


 っと、刃をじっと見るのはいけませんね。

 自分を見失ってしまいます。

 私は綺麗に研いである短剣を腰のホルダーへと戻しました。



 そういえば何でリッチには、魅了効かないんですかね。

 骨だけですし、目がないからかな?

 私ような可憐な美少女の魅力が伝わらないなんて、人生の九割は損していますね。



 そういえば朝慌ててたので今日は着てませんが、革鎧もそろそろ寿命ですね。

 ダンピールですから、基本的にそうそう死にません。

 なんせ首が半分以上切れても生きてるのですから。そのままぺたっと手で押さえて十秒後には元通りでしたしね。

 腕や足が一本もげても、一日で再生しちゃいます。


 ですから、最初は防具なんて買う必要ないですね、必要経費が浮きましたっ!

 と、そう思ってた時期が私にもありました。


 しかし思わぬ落とし穴があったのですよっ! 聞いてくださいっ!


 攻撃を受けたら着ている服が破れちゃうのです。

 そりゃー単なる布で出来た服ですからね。破れるのは仕方のないことです。


 昔、迂闊にも三十体ほどのニードルラビットに囲まれて、少し角が当たったんです。

 ちょうど胸のところに……。

 思いっきり破れましたね。

 思わず「きゃぁ!?」って叫んでしまいましたよ。


 そこからが大変でした。

 町に戻ってから自分の家につくまで、破れた部分を両手で隠していったんですよ!

 これなんていう羞恥プレイ?!

 もー、めちゃくちゃ恥ずかしかったです。顔が真っ赤でした。


 そんな教訓を得て、ちゃんと防具も着るようになりました。

 もちろん予備のワンピースも常備しています。


 女性冒険者のみなさん、絶対に防具は必要ですよ!

 最初はお金が無くて大変でしょうけど、一番優先度が高いですから無理してでも買ってくださいねっ!



 では今日行く予定のお店は、雑貨屋さん、防具屋さん、あとは長期出張になりますから日持ちのするお弁当屋さんに決定ですね。


 最悪お弁当は現地調達できますので、そちらは後回しでもいいですかね。

 昔八年も森に引きこもってましたから、現地調達は得意ですっ!

 欠点は野生に返っちゃうくらいですね。生き物を襲って生肉を貪って血を啜って、その辺に生えている雑草を適当に食べる感じです。



 ……やはりお弁当屋さんは最優先にしましょう。




「こんにちはっ!」


 私は元気良く雑貨屋さんの扉を開けます。

 中には中年のおじさんが一人いました。


「いらっしゃーい……ってダンピールか。ここになんの用だ」


 そういうと、おじさんは胡散臭そうな目つきで私を見てきました。

 やっぱり普通の人ですと、こういった反応されますね。

 か、かなしくなんてないんですからねっ!


「あの……買いたいものがあるのですけど、ダメでしょうか?」


 上目遣いで、少しだけ潤した目で、両手を胸の前で合わせておじさんを見ます。

 ポイントは私のそこそこ長い耳を、くてっという感じで垂らす所です。


「うっ、わ、わかった。自由に見ていいから、泣くな!」

「本当ですかっ! ありがとうございます!」

「お、おう」


 にっこりと笑っておじさんを見つめてから、深いお辞儀をします。

 可憐な美少女冒険者のアオイさんにかかれば、この通り種族的な問題なんて解決できますねっ!

 ちょろいもんだぜ。


 では早速物色します。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 物色終了。

 たくさん買いました。

 しかもものすごくおまけして頂けましたっ!


 最後にはおじさんの両手を持って「ありがとうございますっ」って言ったらすごいにやけた顔で「またこいよ」なんて言ってくれたんですよ!


 ……あざといですかね。


 これも全て生きる術なんです。仕方のないことですっ。こうすれば定価三万ギルの短剣が二万ギルまで値切れる事も分かったんですからっ!


 欠点は男性しか通用しないことですけどね。




 さあ次は防具屋さんですっ!


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ショックです。世の中に絶望しました。世界なんて滅んじゃえばいいのにっ!


 私の身長が百四十八.九cmだったんですよ?

 どういうことですかっ!

 去年計ったときは、百四十九.三cmはありました!

 なぜ縮んだのですか! これは何かの呪いですかっ!?


 ……はっ。もしや以前オークロードの魔剣を回収した時に、僅かに呪いでもかかったんですかね?


 もしそうだとすれば、あの魔剣はこの世に存在してはいけないものです。

 絶対破壊してやりますっ!


 あ、ちなみに胸のサイズは変わりませんでした。くすん。



 さて、サイズも測ってもらえましたし、あとは防具ができあがる一週間くらいは待ち状態ですね。

 どうせなら新調した防具でリッチと戦いたいところですが、さすがに一週間も伸ばす訳にはいきませんよね。

 討伐後に受け取りにいきましょう。



 最後はお弁当屋さんです。

 お弁当といってもキャラ弁が売っている訳ではありません。

 お弁当をパカッとあけたら中にはリッチの骸骨を模したおかずが入ってた、なんていった日には食欲無くしますしね。


 リッチのダンジョンへは、片道三日と聞いています。

 往復六日、ダンジョンには最大一週間入っていると計算して、多めに二週間分の食料を買いましょう。


 棚においてある何の肉なのか不明な燻製を七個購入します。

 というか、一個六千ギルもするんですかっ!?

 高すぎます!


 でも燻製肉って作るの面倒でしたよね。

 前世の記憶では一ヵ月くらい必要とか聞いたことがあります。

 日本の文明でもそれくらいかかりますから、こちらの世界では三ヶ月かかっても不思議じゃありませんよね。

 となれば、この値段はむしろ安いんでしょうね。


 仕方ありません。


 それ以外にも塩と、スープの元になる固形物を購入します。

 鍋は自宅にありますし、水は魔法で作れますしね。


 お野菜は現地調達しますか。キノコなんてあれば最高ですよねっ。



 これでお弁当も買いました。

 もうお昼の時間ですね。

 ティスの定食屋さんに行ってランチして、午後からは寝てすごしましょう。


 そして今夜出発です!



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