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「一体あなたたちは、蒼空を何に巻き込んでいるんですか!?」

 図書部の部室で、蒼空の幼なじみである藤崎美波が怒鳴り声を上げる。

「蒼空はあれから家に帰ってないんですよ! おじさんやおばさんも、私も全然連絡が取れません! どういうことですか!」

 美波が机を両手で叩き、置いていたコーヒーが跳ねて机に散った。

 汐織も誠護も、図書部の部室まで出てきていた。

 今朝早く、連絡が取れないことを気にした汐織が蒼空の家を訪ねてみたが、まだ帰ってないということがわかったのだ。

 それを聞いた誠護はすぐに思い当たる節を全て確認したが、蒼空の行方はわからなかった。

 どうすることもできず、ひとまず誠護と汐織は図書部の部室までやってきた。

 もしかしたら蒼空がいるかもしれないという希望もあったのだが、湿気のこもった生暖かい部室には誰の姿もなかった。

 誠護の未来視は危険しか見ることができない。それが、ひどくもどかしかった。

 朋香にも連絡を入れ、これからどうするかを汐織と話し始めようとしたとき、図書部の扉を壊さんばかりの勢いで開かれ、美波が現れたのだ。

「やっぱり、俺の情報を信じすぎたか。下手なことを教えるんじゃなかった」

 誠護は唇を噛みながら頭を押さえる。

 昨日、美波は蒼空と一緒に遊んでいたそうだ。だが雨が降り出したこともあり、どこかによって雨宿りをしようとしたときに、蒼空が行きたい場所があるといってある場所に向かった。

 それが、カレンたちのいる施設、アザレアだ。物騒なことが続いているからこそ、気になって行く機会を窺っていたに違いない。

 しかし、星詠教が関わっている以上、本来であれば近づいていい場所ではない。そんなことは蒼空自身もよく理解していた。だけど誠護が余計なことをいってしまったがために、蒼空はそういう行動を取ってしまったのだ。

「もし蒼空に何かあったらどうするんですか!」

 再び美波が机を叩く。

「少なくとも、蒼空には今日一日そういう危険が及ぶことはないよ」

「そんなことわからないじゃないですか! 何を根拠にそんなでたらめを――」

「わかるんだよ。俺は」

 美波の言葉を鋭く遮り、誠護は瞼に指を乗せる。

 誠護には危険がはっきりと見えていた。

 そして、図書部を休みにし、ゴールデンウィーク中に蒼空に会うことがなくなることを踏まえ、誠護は少し先の未来までを見ていたのだ。漠然とした、たとえば自分たちにこれから起きる危険は一度にいくつも見ることができる。

 だが、狙いを絞った未来危険視は、最大で四十八時間ほど先まで見ることができる。ただこの使用方法は非常に体力を消耗する。誠護が昨日の昼過ぎまで寝てしまっていたのはそれが原因だ。

 今回は蒼空に対する肉体的損傷、つまるところ怪我を負うかどうか、それから精神的に追い詰められる、精神にダメージを負うようなことになるかどうか。

 この二つを視野に入れて未来視を行っていた。

 その幻視の結果から考えても蒼空にその危険はないと判断されていた。だが実は、一つだけこの危険視を通り抜ける道がある。

 それは、蒼空が誘拐、肉体的にも精神的にもダメージを受けずに連れ去られた場合は、誠護の危険未来視をすり抜けてしまう。

 誠護の幻視は誘拐という曖昧な情報に対しては効力を発揮しにくい。それが十秒後というすぐ近くの情報であればまず間違いなくわかるのだが、曖昧な情報になるほど先に見ることができる時間も短くなる。その場合は、精神的なダメージを多少は負う。

 だが、蒼空はその辺り鈍感というかなんというか、心臓が強すぎるきらいがある。これまでの度重なる危険に身を置かれながらも、図書部を離れなかったことがそれを物語っている。

 美波の鋭い視線が頬に突き刺さる。

 美波にしてみればこの非常時に何を意味不明なことをいっているんだというところだろう。

「でも、時間がないね」

「ああ」

 汐織の言葉に頷きながら、誠護は部室に掛けられている時計を見る。

 現在時刻は午前十一時。

 一昨日蒼空の危険を見た時間は午後五時。

 蒼空の身に及ぶ危険視の確定的な安全が得られるのは、残り六時間。

 誠護はコーヒーを一気に飲み干し、机に手を突いて席を立つ。

「藤崎さん、だったよね。ちょっと協力してもらうよ」

「は? この非常時に一体何を協力しろっていうんですか? ふざけるのも大概にしてください」

「ふざけてなんかいない。大まじめだ。それに何をするかなんて決まってるだろ」

 誠護はスマホを操作し、ある人物を呼び出しながら怒りを露わにする。

「うちの大切な部員を攫ってくれたんだ。俺たちがやるべきことは一つ」

 汐織もいつになく真剣な表情で頷き、誠護の言葉を引き継ぐ。

「もちろん、絶対に取り返すよ」

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