23

「嫌な感じの雨……」

 誠護はすっかり日が暮れた夜に、しとしとと降り続ける雨をアパートの窓から眺めていた。

 この日誠護は一歩も家から出なかった。

 ただ単純に最近動き詰めだったこともあり、目が覚めると昼の二時を回っていた。昨日までは二週間ほど雨が降っていなかったが、今日になって緩やかな雨が降りている。幸い冷蔵庫には買い溜めしているものがあるので、特に外出する予定はないのでのんびりとすることができる。

 図書部は事前にゴールデンウィークの残り二日間は休みにすることにしていたので、取り立てて汐織や蒼空から連絡がないのは不思議なことではない。

 蒼空は幼なじみの美波と一緒に遊びに行くとラインでいってきたきり特に連絡を取っていない。汐織は昨日喫茶店で別れたきりラインに既読すら付いていない。あの人に限って取り立てて問題が起きるとは考えにくかったが、誠護はスマホを取り出して汐織の名前を呼び出した。

 長いコールのあと、一度切ろうかと耳からスマホを離したところで画面が発信中が通話中に切り替わった。

「んん……なにー誠護君……。こんな夜中に……」

「夜中って、今何時だと思ってるの?」

「えぇっと、夜十時でしょ……?」

「いっとくけど月曜日じゃなくて火曜日の夜十時だよ」

「ええ!?」

 電話の向こうで驚いてドスンと落ちたような音が響いた。

「いったーい。もう何するのよー」

「何もしてないよ。まさかとは思うけど一日中寝てたの?」

「……最後の記憶が大体夜十時だったから、たぶん」

 誠護のさらに上がいた。

「それで、何か用?」

「いや、安眠を妨害して申し訳ないけど、これといって用があったわけじゃないよ。ただ」

「ただ……」

「俺の家の前でずっと張ってる変な車があるからそっちは大丈夫かなと思って」

「それ十分大事だよ!」

「汐織先輩もその辺りは大丈夫だと思ったんだけど。どう?」

 電話の向こうでカーテンを引くような音が響く。

「見える範囲では私の方には特に何も来てないようだけど、まあ私だからねー」

 誠護はその言葉に対して何かいうことはできなかった。

「念のため朋香さんに連絡して蒼空の家の周りを見てもらったけど、特に誰もいなかったみたいだから」

 これは誠護だから張られていると考えるべきだ。

 桐澤に直接喧嘩を売ってしまったこともあるだろうが、こんな状態になっているのは誠護ならではなのだ。

「んん-、蒼空ちゃんでも街に遊びに行ってるみたいだね」

 スマホは電話に使っているのでパソコンでラインの履歴を見ているようだ。

「でも、蒼空ちゃんは大丈夫だったんでしょ?」

「うん、ここ二日ほどは大丈夫のはずなんだけど……」

 どうしても胸騒ぎが収まらない。

 蒼空が、誠護の言葉を鵜呑みにしなければいいが……。

「明日は一緒にいた方がいいかな。部室に集合の連絡出しとく?」

「ん、それがいいかも。汐織先輩とりあえず明日、蒼空の家まで迎えに行ってもらえないかな。俺が行くと見張られてるやつが面倒だから。とりあえずこっちも朋香さんに追っ払ってもらう」

「オッケー。また明日連絡するね」

「わかった」

「おやすみー」

 一言残して、汐織は通話を終えた。

 おやすみというのは、またこれから寝るということなのだろうか。

 聞きそびれてしまったが、誠護はまず間違いないと確信していた。


 しかし結局、水曜日の朝になっても蒼空と連絡が付くことはなかった。

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