13
「ふむふむ、Cカップか。小柄なわりに結構あるわね」
奥の椅子に腰を下ろして足を組みながら、流里はご満悦の様子で手帳に得たばかりの情報を記入している。
誠護たちはその前に椅子を下ろして並んでいた。
誠護の横で、しくしくと涙を流す蒼空を汐織が抱きしめて背中をさすっていた。
「うぅ、先輩たちひどいです……」
「ご、ごめんね。私も何度やられてるから安心して」
安心できるわけもないことを汐織がいう。つまり今後もされる可能性があるということである。
「ああ、汐織先輩の胸はいいわよね。Dカップの上に形も感触も男の理想よ。ね、誠護?」
「……俺に振るな俺に」
げんなりとして肩を落として頭を抱える。
蒼空が目尻の涙を拭い、鼻をすすりながら恨めしげな視線を誠護に向ける。
「せ、誠護さんがその対価とやらを支払ってくださいよ。男の人だったら胸を触られても問題ないじゃないですか……」
「いや、男の対価は胸じゃない」
泣きながらもきょとんとする蒼空に、流里が嫌な笑みを浮かべながらいう。
「男は逸物を触ることが条件よ」
「い……なんて……?」
蒼空が引きつった顔で聞き返す。
「逸物よ逸物。一般的にいうところのぺ――」
「止めろそれ以上セクハラするな」
ばんばんと机を叩きながら言葉を遮る。
意味を理解した蒼空は顔を赤くしながらこちらに視線を向けてくる。
「……こっちを見ないでくれ」
「あうっ……す、すいません」
顔をこれ以上ないほど赤くしながら俯き、汐織が慰めている。
「あ、今から誠護の方も対価としてくれてもいいわよ? 以前の大きさからどれくらい成長しているかを確かめるわ」
「ふざけるなバカ。大体男のあれがそう簡単に成長するか」
「そんなことないわよ? 女の胸なんて二年でAからDに上がる人間だっているのよ?」
びくりと横で肩を震わせているが気にしない。
「それ自分の胸を見ていってよ。そのパンケーキのようなぺったんこな胸は、いつになったら膨らむの?」
「ばっ、膨らむもん! 大きくなるもん! あんたなんかパパに頼んでけちょんけちょにしてもらうんだから!」
「親を頼るな親を。それに親父さんもきっと同意してくれる」
「そそそそそんなことないもん!」
だだっ子のように机をバンバンと叩く流里。
彼女の胸は、果たして女性の胸があるのかと疑いたくなるほど真っ平らだった。
「……誠護君何いってるの?」
バカな話にバカな応対をして、汐織がどん引きしている。
「はぁ……ごめん。ペースに乗せられた。占いの対価がこれだから」
嘆息を吐きながら頭を押さえる。
この占い部では、占いをしてもらうのに対価を要求される。
その対価は人や状況によって様々ではあるが、図書部の場合は今いった内容が占ってもらえる対価となっている。
ある程度情報ととっかかりがわからない場合は、誠護たちはこの変態に占いを頼むのだが、ことあるごとに対価を要求されている。
誠護や汐織が触られたことも一度や二度ではない。
だからこの部屋に入るとき、誠護や汐織は蒼空を先頭にして部屋に入ったのだ。そうすればほぼ間違いなく対価に蒼空を選択するからだ。
誠護や汐織では初めてではないので結局蒼空もとなりかねないため、申し訳ないがここは蒼空に生け贄になってもらった。
さらに、この流里という人物は触れるだけで胸や逸物の大きさを正確に測定するという謎の能力を持っている。
今流里が持っている手帳には、誠護や汐織のこれまでの成長記録が記されている。
呆れてしまうがこれは流里が決めているルールだから仕方のないことだ。
「それで、蒼空がせっかく対価を差し出したんだ。しっかり占ってもらうぞ」
泣き止んだ蒼空が恨めしげに見てくるが、謝罪はあとでたくさんする予定なので今はスルーだ。
手帳を片付けながら流里はふふんと笑う。
「私は対価をもらった上で約束を破ったことは一度もないわ。しっかり力を使わせてもらうわよ」
流里の目がぎらりと光った。
すると、後ろから取り出した大きな巻物を机の上に広げた。
机一杯に広げられたのは、彩海学園を中心としたこの辺り一帯の大きな地図だ。
高級紙によって作られた重量感ある地図は、以前大物を占ったときにお礼としてもらったものらしい。
「占いに地図が必要なんですか?」
ようやく調子を取り戻した蒼空が尋ねる。
この好奇心は蒼空の強みだ。
流里は自慢げに笑いながら手の上にペンをくるくると回す。
「私の占いはただの占いじゃないわよ。なにせ幻視を使うからね」
幻視の単語を聞いた瞬間、蒼空は驚いたように目を見開いた。
「もしかして、流里さんも未来が見えるんですか?」
「ううん。私は違うわよ。図書部の先輩に未来視系の幻視を持っているからその辺りのことがわからないんだと思うけど、未来視の能力は私たちにとっても稀少なの。私が見るのは未来でも過去でもない。現在よ」
いって、流里は両手を机に突きながら立ち上がった。
「それで、あなたたちが占って欲しいことは何?」
誠護は上着のポケットから一枚の紙と何枚かの写真を取り出した。
「この写真の人物とこの紙に書かれている内容について、手がかりが欲しい」
「相変わらず曖昧なことをいってくれるわね」
「その方が役に立つ情報が得られることが多いってことを、経験的に知っているの」
渡した写真は蒼空が合宿時に撮影したカレンの写真だ。そして紙の方には、カレンや涼馬の名前、星詠教や予測される幻視の能力など、誠護がピックアップした情報が記載されている。
流里は渡された写真と紙を眺めながらふむふむと首を振っている。
しばらく情報を頭に入れた流里は、それらを端において深呼吸をした。
「私の占いは、まったく根拠のないものに基づいているのであしからず」
決まり文句をいって、流里は再び机に手を突いた。
そして、伸ばした人差し指を地図上の彩海学園の上に置いた。
目を閉じて地図を前に項垂れた。
流里は幻視を使って占う。だがそれは一般的に根拠として取り扱われない。統計を取れば信じてもらえるかもしれないが、表だって出てこないのが幻視なのだ。
事実表だってそんなことをすればもみ消される。
本当の占いには根拠がある場合は多いと聞く。
しかし、流里がいう占いは100パーセント幻視に頼った占いだ。
だから流里は事前に自らが占うにはなんの根拠もないと明言する。普通そんなことをいってしまえば占いに来る人が少なくなるのだが、幻視の力を使っている以上、限定された条件下であればそれは通常の占いなどからは考えられないほど確定的な事実を導き出す。
もっとも、対価に様々なものを要求するため来る人はそれほど多くないのが現状だ。
それに流里は、私利私欲で占いに来る人間に力を貸すような人間ではない。誠護たちに協力してくれるのは、誠護や汐織が幻視能力者であり、同朋のために動いているから力を貸してくれると本人はいっている。それなら対価を要求しないでもらいたいものだが、それは流里のポリシーなんだ。
長々と息を吐き出しながら、流里が目を開けた。
そしてそのまま、地図上の彩海学園に立てていた人差し指をすっと動かした。
「この方角よ。距離は大体二キロから三キロといったところ」
いわれたことを、既に出していた自分の手帳へと書き込んだ。彩海学園からほとんど北へ真っ直ぐだ。
手帳を閉じて、誠護は立ち上がった。
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