第4話
「適性試験は簡単です。この魔水晶に全力の魔法を放ってください。ウィザードは一番攻撃力の高い魔法を、プリーストは全力の支援魔法を水晶にぶつけてください」
床から出てきた高さ十メートルほどの大きさを持つ水晶の元へ近づき、改めてその大きさに驚いた。
少し青みがかった巨大な水晶は傷が一切なく、透き通る青に目を奪われた。
「驚きましたか? 皆さん、最初は同じ反応をするんですよ。ここまで大きな魔水晶は世界のどこを探しても我がコルトナール王国に二つしか存在しません。一つは王都にある城の中。もうひとつはこのギルドです。魔法を全て吸収するので、傷が付くどころか吸収した魔力で自己再生しますから、壊れることはないんですよ」
僕達がフリーズしていると、職員さんがペラペラと喋る。でもなんでそんな貴重な物がこんな所に? と疑問を抱いていると、職員さんが僕の考えていることを見透かしたかのように説明を続けた。
「コルトナールの国王はうちのギルマスと仲がいいんです。昔、宮廷魔術師だった時に気に入られたみたいで、引退した後にここのギルマスになって、その時のお祝いの品にと、この魔水晶を譲ってくださったのですよ」
「凄い人なんですね、ここのギルドマスター」
「はい、それはもう。それでは、試験を始めましょう。どちらからでも構いませんよ?」
「シルファ、先にお願い」
「はい。頑張ります!」
張り切っているシルファの背中を見つめながら考える。
いくらこの魔水晶がすごいと言っても、僕のもらった『力』は常人より遥かに凄いものらしいし、出しすぎればもしかしたら魔水晶が壊れるかもしれない。
まあ、壊れても事故だ。全力でやろう。
でも、普通の人の魔法の威力が分からない以上、少し不安な面もある。だから、シルファを先に行かせてその結果を見てからにしようと思う。
シルファが位置につき、魔力が高まるのを感じる。
「いきます!」
シルファの突き出した両手はゆっくりと輝き、青白い光が放たれて一直線に飛んでいく。
シルファの放った魔法が魔水晶に当たると、魔水晶が青白く輝き、勢いよく中央に光が集まり輝きは消えた。
これで試験は終了だそうだ。魔法を放ち、魔水晶がそれを吸収して威力を測定し、ランク付けされる。魔水晶を支える台座の部分にモニターがあり、そこに何やら文字が浮かんでいる。
モニターに近づいてみると、そこには【高位神官S】と表示されていた。
「え、ええ!? S、ランク……」
「おお! 凄いねシルファ」
職員さんが顎に手を当てて何やら考えている。まあ、一つの時代で二、三人しか現れないSランクが凄いのは説明からして明らかだ。
そのSランクが目の前で、しかも自分のギルドで発掘されたら、そりゃいろいろ考えるだろう。
シルファ自身も、自分の事を覚えていないのでとても驚いている。
「わ、私が……Sランク?」
「シルファって凄かったんだね」
「みたいですね……びっくりです」
「あ、あの! シルファさんとユウマさんはご兄妹なんですよね? もしかして……いや、ないと思いますが、ユウマさんも今すぐ試験を開始してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。分かりました」
職員さんには悪いが、もう一度驚いてもらおう。
さっき職員さんはもしかしてと言っていた。ランクは遺伝子的なもので決まるのかな?
それより、どんな魔法を使おうかな? 派手に雷でも出そうか。
「では、いきます」
僕が放つのは雷。両手を前に突き出し、左手の上に右手を重ね、魔力を一点に集める。それをできるだけ細くして一撃を鋭くする。
全魔力を注ぐ勢いで魔力を集め、それを爆発させるよう発射する。
放たれた雷はレーザーさながらに、歪みなく高速で音を置き去りにし、床をえぐりながら一瞬で魔水晶の元へ辿りついた。
少し遅れて轟音が部屋全体に鳴り響く。
魔水晶を貫通しても尚、勢いは衰えず部屋の壁を突き破り、衝撃波で大穴を開けた。
魔水晶は、自らに触れている部分の魔法を吸い込み、バチバチと音を立てながら傷を塞ぐ。
どうやら本当に自己修復するらしい。
「なんですか、この馬鹿げた威力……」
職員さんは、僕の放った魔法の威力に唖然としている様子だ。
魔水晶が完全に電気を吸収するのを待ってから近づき、モニターを確認すると、【大魔導師S】と表示されていた。
「こんな、ことって……」
「さ、流石ですお兄ちゃん! さっきの魔法もすごかったです!」
職員さんが今度は驚愕の表情をしている。声を出すことすら忘れるくらい驚いて、目と口を開いてポカーンとして動かない。
「あの、大丈夫ですか?」
「……え? あ、ああ! はい、大丈夫、です……」
まだ状況を受け入れることが出来ていないのか、大丈夫と言いながらもモニターと僕達を交互に見てはまた、驚いている。
しばらくそれを繰り返すと、真剣な顔をして僕達に向き直り、話し始めた。
「あの……Sランクというのはさきほど話した通り、非常に珍しいんです。それも、過去に現れたSランクは、一つの時代に片手で数えられるくらいしか存在しませんでした。そして貴女達は兄妹揃ってそのSランク。一国に二人のSランク。これは前代未聞なんです」
大事なことなので一応説明しますね。と言い、職員さんが説明を始めた。
Sランクの人間は、それだけで、富も名誉も権力も全てを手に入れられる存在らしい。
そして存在自体が国宝で、その人物を所有している国にこの世界で逆らえる国は同じSランクが居る国以外いないらしい。
Sランクは、Aランクとは差があり過ぎる。Aランクが魔法を二十人で一斉に放つとする。Sランクの戦闘魔術師が本気を出せばそれをすべてたたき落とすことも出来るとか。僕の場合はもう少しいけそうな気がする。
ヒーラーは、属性魔法の威力が落ちるらしい。シルファはヒーラーだけどSランクなので、属性魔法を使ってもAランクが十人くらいならば一人で相手を出来るらしい。
治癒魔法を使った場合、死んですぐの人なら生き返らせることも出来るとか……
そんな化物が居る国に逆らうやつは当然いない。
だが、自国に取り込もうとする他国の連中もいるらしい。そういう輩から狙われるので、降りかかる火の粉を自分で振り払う。それがSランクの宿命らしい。
ギルドや国もできる限りの支援はするが、基本的には自分で何とか出来てしまう。
「大丈夫だとは思いますが気を付けてください。一度、ギルマスと話す必要があります。今から向かいますので、ついてきてください」
「分かりました」
「なんだか、すごい話になってきましたね……」
「心配いらないよ。一人なら心細いけど、僕達は二人なんだから。お互いに分かり合えるし、助け合える」
「お兄ちゃん……そうですね。分かり合えますもんね!」
シルファを安心させて、職員さんの後ろについていく。
* * * *
部屋から一度最初の酒場に出て、受け付けの端の床に職員さんが手を触れる。
すると手元が光り、床に穴が空いて、階段が現れた。
どうやら魔法陣があったらしい。
「どうぞ、こちらへ」
職員さんに促され、階段を降りる。
薄暗く狭い通路がしばらく続き、目の前に扉が現れる。
「この先にギルマスがいます。強面ですが優しい人なので安心してください」
「はあ……」
「失礼します、ギルマス。新しく登録した冒険者を二人連れて参りました」
職員さんがノックをし、声をかけると中から「入れ」と言葉が返ってきた。
「失礼します」
職員さんが扉を開けると、そこには強面の屈強そうなお爺さんがいた。
「わざわざここに来るとは、何者だ?」
「は、初めまして。ユウマ・ナナシロといいます」
「し、シルファ・ナナシロでしゅっ……です」
今、噛んだよな? か、かわいい……
思わず笑いそうになってしまったが、ギルドマスターの前なので必死に堪える。
「ギルマス、実はこの子達は、Sランクなんです」
「……詳しく聞こうか」
職員さんの真剣な顔を見て嘘ではないと思ったのか、それとも相当信頼のある職員さんなのか。
唐突に告げられた信じ難い言葉にギルドマスターも真剣な顔つきになる。
職員さんは、手に持っていたパネルをギルドマスターに渡した。
それを見た瞬間、目を見開き、何かをぶつぶつとつぶやき出した。しばらくそのまま考え込み、こちらに向き直る。
「申し遅れた、私の名前はスタッド・メイズリーという。ここのギルドマスターをやっている者だ。ようこそ我がギルドへ。ギルドマスターとして、君たちを歓迎しよう」
「「ありがとうございます!」」
スタッドさんは、こちらに笑いかけながら僕達を歓迎してくれた。見た目より優しそうで二人とも胸を撫で下ろす。
「さて……君たちは、Sランクがどのような存在なのかは知っているか?」
「はい。先程、この方に――」
「あ、私のことはステラとお呼びください」
「先程、ステラさんに教えてもらいました」
「そうか、なら話は早い。君たちは一度、城に顔を出さなくてはならない。だいたい一週間後くらいだと思うが、正確な日程は後ほど決めるとして、準備だけはしておいてくれ」
「分かりました」
まあ、予想通りだった。国宝だなんて言われてるんだから王様に会うのは当然だ。
当日までは時間があるし、図書館みたいなところがあったらいろいろ学ばないといけないな。
シルファは城と聞いて、不安そうな表情をしていたから、そっと手を握ってあげれば、一度僕の顔を見た後にぎゅっと握り返してきた。
たとえ妹(仮)だと言っても、会って間もないかわいい女の子だ。手を握るなんて前の世界でもした事ない。めちゃくちゃドキドキするし緊張するし恥ずかしい。
もし振り払われたり、やめてください、何するんですかと真顔で言われたらこのペンダントがあっても死んでいたかもしれない。
「では、これを君達に渡そう。君達二人分のSランク手当だ。本来なら登録料がかかるが、Aランク以上の冒険者には逆に手当が支給される。あと、これが冒険者である証のギルドカードだ。君達のそれはSランク仕様だからそれを持っているだけで何かと優遇される」
「あ、ありがとうごさいますっ……」
渡されたのは金色のカードが二枚と、僕達の下半身なら埋まってしまう位の大きさの袋にパンパンに入ったお金だった。中身を見ると全て金貨らしい。
この世界のお金の価値は分からないが、金貨だから一枚でも大金だろう。それが袋いっぱいである。
シルファは価値がわかってるようで、唖然としていた。
「とにかくそういうわけだ。日程が決まればステラを向かわせる。それまでは自由にしててくれ」
「わかりました。失礼しました」
「し、しました……」
スタッドさんに半ば追い出されるように部屋から出て、再び酒場に出る。
当然、視線が集まる。新人が試験を受けに行ったと思ったら今度はギルドマスターの居る部屋へ向かい、出てきたと思ったらジャラジャラとお金の音が鳴る袋を担いでいる。
それだけで、僕達がAランク以上の冒険者だと分かったのか、みんなポカーンとして視線を向けてくるだけだった。
とにかく、早足で逃げるようにギルドから出る。
「まずは宿でも探さないとね」
「そう、ですね……なんか、いろいろびっくりです」
「はは、そうだね。まあ、考えるのは後にしようか。落ち着く場所が欲しい」
「ですね。あ――」
「ん? どうした――ッ!?」
シルファが視線を向ける先は、二人の繋いだ手だ。さっきからずっと繋ぎっぱなしだったらしい。
「ご、ごめん!」
「い、いえ、大丈夫です! むしろ……」
「え?」
「何でもないです! 早く行きましょう!」
「ちょ、シルファ!」
シルファは顔を真っ赤にして早足で逃げた。怒っては…ないよね?
まあ、そんなこんなで色々あったけど、無事に冒険者登録を終えて、寝泊まりするための宿を探すためにシルファの後を追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます