第3話

「まずは店を探さないと」


 異世界に来て初の町についたばかりだから、この世界の食文化とか色々気になるが、あの女の子が待っているので急いで店を探す。まあ、人の名前についての情報くらいなら時間も掛からないだろう。


 町の人たちの服装は貧相でもないし、地球の服とそんなに変わらないくらいである。だからただの旅人だと思われているのか、それとも外部の人の出入りが多いのか誰も僕に不思議そうな視線を向ける人はいない。


 そこでふと思いつく。空間探知で見つけたが、この町にはギルドらしき場所がある。女神様が言うには文字も読み書きできるようになっているらしいし、空間探知を使えば直接見たことがあるかのように全てが分かる。

 だから、ギルドで書類なんかに書いてある名前を見つければ、名前について分かるかもしれない。

 まあ、多分英語名と変わらないと思うけどやってみるか。


 空間探知を発動させる。

 ギルドの受け付け? で冒険者だと思われる人物の書いている書類には、予想通り英語名と変わらない形式の名前が書いてあった。

 あと、空間探知の範囲内にあった家の中など全部見えてしまった。

 空間探知、プライバシーも何もあったもんじゃないな。

 とにかく、これで女の子の名前を考えられる。


「……あ」


 重大な事に気がついた。

 お金がない!

 どうしよう、服が買えない。倒した魔物の素材とか持って来くればよかった。


 そうこうしているうちに、店に着いてしまった。ツケとかできるかな? 常連客でもないのに流石に信用されないかな?

 ここは考えるより行動だ。

 店に入ると、可愛らしく元気な声が響いた。


「いらっしゃいませー!」


 出迎えてくれたのは小学生くらいの女の子だった。

 なぜこんな小さい子が? もしかしなくても店員?

 とにかく、一か八か言ってみるか。


「あのー、実は今お金なくて……後で絶対! 必ずお金払うので、至急女の子用の服を譲って貰えませんか?」

「いいよー」

「え? いいの!? ありがとう!」


 予想外の即答だった。こんな子供を働かせて大丈夫なのかな?

とにかく、OKを貰えたのでさっそく服を選ぶ。


「ねえねえ、何で女の子の服が欲しいの? お兄さんが着るの?」

「いや、僕が着るんじゃないよ! ちょっと必要でね」

「誰かにあげるの?」

「そ、そうなんだ! これは贈り物でね」

「ふーん、そうなんだ」

「じゃあ、この上下と下着の四点と、そこの靴も貰えるかな?」


 危うく変態になるところだった。贈り物と認識してくれて本当に助かった。


「……下着も贈るの?」

「あ、いや、下着も欲しいって言われたんだ!」

「なんだ、本人の要望なのね。いいよ、持って行って」

「ありがとう! 後でちゃんと払いに来るから!」


 小さな店員さんにお礼を言い、早足で逃げるように店を出た。

 そして、人がいないのを確認してから路地裏に入り、瞬間移動で女の子の待つ部屋の前に移動する。




* * * *




「ただいま……」

「あ、お帰りなさい! 早かったですね。どうかしたんですか?」

「ちょっとね。はいこれ、服」

「あ、ありがとうございます!」

「じゃあ、外に出てるね」


 彼女が着替えるため、部屋の外に出て待つ。

 そうだ、名前どうしようかな。銀髪だからシルバーっぽい名前とか安直すぎるかな? シルバー…………よし、決めた。


「お待たせしました」

「うん、似合ってるね」

「あ、ありがとうございます……」

「ねえ、名前についてなんだけど、考えたよ」

「本当ですか! どんな名前なんですか?」

「君の名前は――『シルファ』だ。由来は銀の妖精。どうかな?」


 銀の妖精。

 銀色の髪だからシルバーと、この子がまるで妖精のように神秘的で可愛らしいからsillverとfailryを掛けてsilfaだ。

 シルバーとちょっと発音が似ていたから思いついたのだ。

 さあ反応は!


「シルファですか……悪くないですね!」


 よし! どうやら気に入ってくれたようだ。


「あと、名乗る時はシルファ・ナナシロでお願い」

「ナナシロ? どうしてですか?」

「僕の名前がユウマ・ナナシロなんだ」


 なぜ同じ姓なのか説明すると、彼女……シルファは自分の事だけは何も思い出せない、限定的な記憶喪失みたいなものだ。

 僕が彼女を拾ったからには記憶が戻るまで、もしかしたら戻らない場合もあるが、その間何かと動きやすいように「兄妹」という設定で行動しようと考えているからだ。


 少し名前に違和感が残るが、そのことをシルファに伝えると、納得した様子だった。気に入ってくれたようだし良しとしよう。


「なるほど。名案ですね」

「うん。そういう事だから、これからよろしくね、シルファ」

「はい! よろしくお願いします……お、お兄ちゃん!」

「~~~ッ!? いや、確かに兄って設定だけど無理に呼ばなくても……」

「今、満更でもなさそうな反応しましたよね?」

「しししししてないよ! とにかく、ユウマでいいから!」


 確かに、妹が欲しいって思ったことがあったけど、別にお兄ちゃんって呼ばれるのが夢だったとかじゃないから!

 父さんと母さんがいなくなって寂しかっただけだから!


「……分かりました、ユウマお兄ちゃん」

「からかってるでしょ!?」

「いいえーそんなことありませんよー(棒)」

「はぁ……じゃあ、呼ぶならみんなの前だけだからね」

「みんなの前で呼んでほしいんですか?」

「違うわ! 一応、兄妹なんだから兄を名前で呼ぶと不自然というか、違和感ない?」


 中にはそういう兄妹もいるだろうけど。

 まあ……少しだけお兄ちゃんと呼ばれたいという欲望も混じっていないと言ったら嘘になる。


「それもそうですね。分かりました。じゃあ二人の時はユウマって呼びます」

「そうしてくれると助かるよ」


 名前も無事に決まったということで、再び町へ向かう。

 お金も払わないといけないし、まずはギルドで仕事を貰わないと。


「じゃあ、町へ行こうか。まずはギルドへ向かおう」

「はい、お兄ちゃん」

「……シルファ」

「は、はいユウマ……」





 再び瞬間移動を使う。

 今回は、戻ってくる際に入った路地裏へと移動する。

 だが、今回は人がいることを確認していなかったため、現場に居合わせてしまった。


「んんっ……はぁぁ、んちゅっ、んぅぅ!」

「ああ、すげー可愛いぜハニー」

「ああん、大好きよダーリン! もっとちゅーしてぇ!」

「もちろんだ……ぜ?」

「どうした、の?」


 目が合った。


「「「「……」」」」


 一度隣にいるシルファと顔を見合わせる。

 そして視線を戻して――


「「ごめんなさい!!」」


 全力で逃げた。





「はぁはぁ……ビックリ、したね……」

「はぁ……そう、はぁ……ですね……」


 女神様、魔力の多い人は疲れにくいんじゃなかったんですか! いや、ちゃんと探知していなかった僕が悪いんだけど。

 シルファには悪いことをしたな。

 今、どんな表情(かお)をしているのだろうと気になって見てみたら、ちょうど同じタイミングこっちを見ようとしていたらしく目が合ってしまった。

 自分もそうだと思うけど、シルファは顔を真っ赤にしていた。

 何とも言えない気まずさを感じ、お互い目を逸らしてしまう。


 いや、こんなことをしている場合じゃなかった。

「ギルド、行こうか」

「ですね」




* * * *




「僕達は兄妹。僕のことは二人の時以外はお兄ちゃんと呼ぶこと。そして、僕達は名の無い小さな村に住んでいた旅に出たばかり田舎者。いいね?」

「はい、お兄ちゃん!」

「……よし!」


 確認を終えて、僕と妹(仮)は扉を開けた。

 すると、中にいた扉に近い冒険者達から順に僕達へと視線を向けてくる。

 ある人は初めて見る顔の僕達を観察するように視線を向け、

 ある人はシルファにいやらしい視線を向け、

 ある人はシルファの隣にいる僕を恨みがましそうに見る。


「お兄ちゃん……」


……なんとも居心地の悪い空間だ。この通り、シルファも怯えて僕の服の袖を掴みながら視線を向けてくる。居心地は悪いが――


(何このかわいい生き物!)


 まさか、自分がお兄ちゃんなんて呼ばれる日が来るなんて想像もして無かったし、しかもこんなにかわいい子が僕の服の袖を掴みながら泣きそうな顔をして視線を向けてくる。

 顔が熱くなるのを感じながら、シルファを安心させるようにさわやかに笑いかけながら声をかける。


「大丈夫だよ。ほら、行こう」


 ああ、今の僕ってすごく紳士……

 僕は視線を気にせず、むしろ見せつけるようにシルファの手を取りながら受け付けへと向かう。

 チラホラと舌打ちや爆発しろとか聞こえてくるが気にしない。


「ようこそ、トルガーの冒険者ギルドへ」

「あの、冒険者になりたいんですけど」

「では、冒険者登録をするのでこちらの書類にご記入お願いします」

「あ、はい」


 どうやらこの町の名前はトルガーと言うらしい。

 それにしても、冒険者登録は書類に記入するだけなのか?

 とにかく一つずつ記入していく。

 書くことは、今日の日付け・名前・生年月日・年齢・使える魔法又は特技・希望の職業だけだ。

 今日の日付けなんて知らないんだけど。

 この世界はどういう形で日付けしているんだろう?

 あと、職業は何があるんだろ?


「すいません、今日の日付けを教えてください。あと、職業って何があるんですか?」

「今日は四月一日です。職業については詳しい説明が必要ですか?」

「あ、はい。お願いします」


 四月一日? この世界も十二ヵ月で一年を区切っているのかな? 取り敢えず生年月日は四月一日にしておこう。

 それより職業だ。冒険者登録ではやっぱりどの職業を選ぶかが大事だと思う。まあ、魔法を使う僕は魔術師だろうけど。


「では説明します。職業とは、前衛職と後衛職から派生する役割のことです。前衛は大剣やナイフ、斧や槍などあらゆる武器に魔法を付与させたり、魔力を流すことであらゆる効果を表す魔法武器を使い攻撃する《戦士(ファイター)》。頑丈な鎧を纏い、大盾を持ち、攻撃を受け止めて敵を引きつける《騎士(ナイト)》があります。前衛は後衛を守り、なおかつ敵を倒す職業です。主に魔力量が少ない人や、魔法をうまく使えない人、前衛向きの特殊魔法が使える人がなります」


 なるほど。全員が全員魔法を使いこなせるわけでもないのか。


「そして、後衛は属性魔法主体で攻撃を行う《魔導師(ウィザード)》。特殊魔法の治癒魔法が使える人、その他サポートの特殊魔法が使える人のみなれる《神官(プリースト)》。あと、魔法弓を使い遠くからの狙撃に優れたい《射手(アーチャー)》があります。どれをご希望ですか?」


 《戦士(ファイター)》

 《騎士(ナイト)》

 《魔導師(ウィザード)》

 《神官(プリースト)》

 《射手(アーチャー)》


 僕はウィザード確定だな。シルファは――


「僕はウィザードで」

「わ、私は……」


 そうか、シルファは自分が何を使えるか知らないのか。

 多分、測定器的な魔道具とかあるはずだ。


「すいません、この子は自分が使える魔法を知らないんです。測定するものとかありませんか?」

「もちろんございます。では奥の部屋へどうぞ」


 職員さんに促され、受け付けの後ろにある部屋へ進む。

 中は体育館ほどの広さの部屋で、入口付近には魔道具らしきものがいっぱいあって、中に入ると闘技場のようになっていた。

 入口の魔道具で測定するらしい。


 そして、調べた後は適性試験を行う。

 試験と言っても、魔法の威力を測定する魔道具に魔法を放つだけの簡単なものらしい。

 試験が終われば希望の職業になれて、S~Fに分けられる。Sが最高ランクで、Fが最低。

 Sランクは現在、他国で現役の宮廷魔術師でも師団長一人しかいないらしい。Sランクは、一つの時代で一人か二人いるかいないかのレベルで、それくらい珍しいという事。このギルドでの最高ランクはAランクが'四人、Bランクが五十人。

 ランクの高い人のパーティーは、強い魔物の討伐依頼で指名されたりする。


 そして、Aランク以上の冒険者には、それぞれと職業の上級職の称号を得られるとか。

 《戦士(ファイター)》の上級職は《極魔戦士(ファイトマスター)》。

 《騎士(ナイト)》の上級職は《聖騎士(パラディン)》。

 《魔導師(ウィザード)》の上級職は《大魔導師(ハイウィザード)》。

 《神官(プリースト)》の上級職は《高位神官(ハイプリースト)》。

 《弓師(アーチャー)》の上級職は《狙撃手(スナイパー)》。


 以上が職員さんの説明だ。

 ランク付けされるとなると、シルファはどの辺なのか気になるな。

 とにかくさっさと終わらせてお金を稼がないと。


「では、シルファさん。この魔道具に右手を乗せてください」

「あ、はい」


 正方形のガラスのようなものに手形があり、その上に手を乗せるらしい。シルファは恐る恐る手を乗せると、魔道具が青く輝く。

 すると、魔道具と連動させていたモニターのようなものに文字が浮かぶ。


・水魔法

・風魔法

・治癒魔法

・重力操作

・浄化魔法


「っ……、測定完了です。シルファさんはプリーストですね。ユウマさんも測定しますか?」

「いえ、僕は大丈夫です」


 シルファはプリーストか。どう見ても戦闘向きじゃないからピッタリだ。


「では、適性試験を始めます。お二人共、どうぞこちらへ」


 部屋に入ると同時に地面が大きく揺れて、部屋の中央に変化が起きる。

 巨大な魔法陣が現れて、光の柱が出現する。

 やがて光が消えると、中からは巨大な水晶が出てきた。

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