第3話 励め! ライバルを倒すために!

ラウンド18

「っていうーか、部員一人でも部活って作れるんだね」

「まあ、色々根回ししたからな! こういうことは得意だ!」

「何というか、華澄らしい、色々と……」

「南城さん、謎が多すぎます……」

 ゆみとアンジェが対戦した翌日。e格闘技部に入部したゆみと遥之は華澄に連れられ、共に部室に向かっていた。

「南城さん、部室に機材はどれくらい揃っていますか?」

「モニターとゲーム機本体が三台ずつあるぞ。アケコン(ゲームセンターにあるゲーム筐体のコントローラーに近づけて作られた家庭用ゲーム機のコントローラー。主に一本のレバーと六~八つのボタンで構成されている)はメーカーはバラバラだが、三つ揃えてある。色々工面したが、今はこれが限界だな」

「いえいえ、それだけあれば充分ですよ。揃えるの、大変だったんじゃないですか?」

「それはほら、私は優等生だからな! 信用があるんだ!」

 華澄は、悪い笑顔でゆみにウインクした。

「あはは……」

「悪人め」

 ゆみは苦笑いし、遥之はジト目で華澄を見た。三人で会話している内に、いつの間にか部室である社会科準備室に着いていた。

「さあ、着いたぞ。ここが、私たちの部室だ!」

 華澄はポケットから部室の鍵を取り出し、慣れた手つきで部室の鍵を開けた。華澄が、ドアを勢いよく開ける。

 部室は、綺麗に整理整頓されていた。

 壁には、様々な格闘ゲームのポスター。各種機材も、机やラックに並べられていた。

「おお……」

「ちょ、出来上がりすぎ!」

「いやー、気合い入れたからな! ささ、適当に座ってくれ」

 ゆみと遥之は、部室に置いてある椅子にそれぞれ座った。華澄は椅子に座らず、部室に置かれているホワイトボードを三人がよく見える位置に移動させる。マーカーを取り出し、華澄は大きく達筆な文字で『打倒内山アンジェリーヌ!』とホワイトボードに書いた。

 華澄が、ホワイトボードを強く叩く。

「さて、二週間後に行われる市民eスポーツ大会。我々の目的は、この大会でサンティエモン女学院と、内山アンジェリーヌと対戦し、勝ってギャフンと言わせることだ!」

「はい」

「あの金髪ハーフには、色々思うことがあるしね」

 遥之がメラメラと熱くなっていた。そんな遥之に笑顔を向け、華澄は話を続ける。

「まず、現状を把握しよう。髙野、昨日の対戦では結構動けていたが、ブランクはどれくらいあるんだ?」

「インターミドル以来、一度も触っていません……」

「そうか。その割には、内山アンジェリーヌとの対戦では動けていたな」

「いえ、全然ダメです。彼女はメインキャラではありませんでしたし、私も忘れていることが多くて、全然対戦になっていませんでした……」

「半年以上のブランクがありながらも、あれだけ動けたんだ。大丈夫、焦らずにいこう。時間はある。で、遥之は……私と遊びで何回か対戦したぐらい、だな」

「うん、完全に初心者。正直、わかんないことだらけ」

 遥之は、気まずそうに言った。

「よし、とりあえず遥之への説明も込めて、一度対戦してみよう! 髙野、遥之と対戦してもらえないか?」

「はい、解りました」

 ゆみと遥之は、モニターとアケコンが置いてある机に移動すると、ゲーム機の電源を入れた。ゲーム機が起動し、モニターにゲーム機メーカーのロゴが映し出される。しばらくすると、ブラッド・リベレイションのオープニング画面が流れた。

「ところで遥之ちゃん。何回か格ゲーやったことあるって言ってたけど、レバー操作は大丈夫? 必殺技とかはできる?」

「うん、そこら辺は華澄が教えてくれたから解るよ、一応。ただ、対戦のノウハウというか、どうやって動かしていけばいいのかわかんないかな。読み合い? とか、そういう用語もわかんないし」

「解った。じゃあ、一緒に動かしていこう」

 ゆみはアケコンを動かし、トレーニングモードの画面を映した。

「とりあえず、格ゲーの基本的な知識について説明するね。遥之ちゃん、2P側のコントローラーを使って操作してね」

「了解了解~」

 遥之は、もう一つ用意されたアケコンを、ぎこちなく触った。その間に、ゆみがキャラクターとステージ、トレーニングメニューを設定する。

 華澄は、その様子を後ろで静かに眺めていた。基本的な説明については、ゆみに任せるようだ。 

「えーっと、ざっくりと言うと、格闘ゲームはボタンとレバーを動かして、先に画面の上にあるライフゲージが0になったら負け、ってルールになってるの」

「うんうん」

「一回一回の試合のことをラウンドって呼んで、先に2ラウンド、設定によっては3ラウンド先取したほうが勝ち。ラウンドにはタイムカウントが設定してあって、これがゼロになるとタイムアップでラウンド終了。タイムアップ時のライフゲージの量が多い方が勝ち、同じ場合は引き分け。ここまでが、格ゲーの基本的なルール」

「こういうことは、無意識に理解してたっぽい」

 遥之が、人懐っこい笑顔で答えた。

「そうだな、そう言う情報は私と対戦した時に、理解していったみたいだな。髙野、ブラッドリベレイションがどういうゲームか、ざっくり説明してやってくれ」

 華澄が、ゆみに目でコンタクトを取った。

「はい。ブラッドリベレイションがどういうゲームか……。ラッシュをかけて相手を崩して、コンボ――連続技でダメージをとっていくゲーム、かな?」

「それって、攻めが強いてこと?」

「うん。ブラッドリベレイションは、『リベレイション』っていう自分のキャラクターをパワーアップさせたり、攻撃の隙消し、コンボの延長に使えるシステムがあるの。このシステムを使った攻めが強力で、攻撃側は上段、下段、中段、投げといった攻撃手段とリベレイションでラッシュをかけて、いかに相手を崩すかを考えながらキャラクターを操作していくの」

「そう聞くと、守りに入ったら大変そうだね」

「そんなことないよ。相手と距離を離す『エナジーガード』にガード中に攻撃を出す『ガードストライク』、相手の攻撃を喰らってる最中にも出せる『リベレイションバースト』っていう防御手段があるから、防御側が何もできないって状態にはならないよ。ただ、それぞれに使う条件があるし、自分の置かれてる状況によって何をして何を我慢するかっていうことも考えなきゃいけないから、大変といえば大変、かもしれないね」

「うーん、なんだか難しそう……」

 難しい顔をしている遥之の肩を、華澄がポンと叩いた。

「まあ、言葉にすると難しく感じるが、ぶっちゃけゲームやってれば嫌でも身につくから、安心しろ! 基本的なことは、ゲームのチュートリアルモードのほうが詳しく優しく教えてくれるから、遥之には後でやってもらうとして……」

 華澄が、ゆみに視線を向ける。ゆみも華澄の視線を受け、華澄が何を言いたいか理解した。

「遥之ちゃんには、一番大事なことを決めて貰わないといけない」

「ああ。このゲームを始める際に、一番重要なことだ」

 ゆみと華澄が、真剣な表情で遥之を見つめる。

「な、何? 一番大事なことって、何!?」

「それはね……使用するキャラクター、だよ」

「キャラクター……って、そんなに大事なことなの?」

 遥之は、キョトンとした表情でゆみを見た。

「うん、すごく大事。どんなキャラクターを使うかで、今後の方針が変わるから」

「そ、そうなの?」

「ブラッドリベレイションのキャラクターは、全員癖が強いから。自分がやりたいことは何か、どういうスタイルのキャラクターがいいのかを考えてキャラクターを選ばないと、自分とキャラクターの長所が合わなくてうまく使えない、ってこともあるから」

「そんなことまで考えるんだ……」

 遥之は、再び難しい顔をした。

「キャラを自分の長所に合わす選び方もあれば、キャラの長所に自分を合わせて選ぶ方法もある。まあ、好きなキャラを使うのが一番だけどな! そう考え込むことじゃないさ!」

 華澄が、遥之の背中をバンバンと叩いた。

 ジト目をしながら華澄にやり返す遥之に、ゆみが質問する。

「遥之ちゃんは、どんなキャラクターがいいの?」

「あ、あたしはもう、使いたいキャラクターは決めてるの」

「え、そうなの?」

「それは初耳だな。どのキャラにしたんだ?」

 ゆみと華澄は、遥之がどのキャラを選んだのか、興味津々だった。格闘ゲーム初心者が最初に選ぶキャラクターは、その人のセンスや好みが現れるので、結構面白いのである。

「あたしが選んだのは……この人!」

 遥之は、ブラッドリベレイションの説明書に載っている、あるキャラクターのページを開いて、ゆみと華澄に見せた。

 そこに載っていたのは、迷彩服とタクティカルアーマーに身を包んだ、険しい目付きとひげが特徴的な大柄な男性のイラストだった。

 何より、渋いキャラクターだ。

「いやー、なんて言うか、こういう渋いおじさん好きでさ~。それに、なんか強そうじゃん? マッチョだし」

「遥之ちゃん……」

「遥之……」

「え、何? あたし、おかしい? 渋いおじさんの方がなんというか色々経験多くて強そうじゃん? ……って理由じゃダメ?」

「ううん。まさか、このキャラクターを選ぶとは思ってなかったから……」

「私もだ。だが遥之、良いチョイスだぞ!」

 華澄は、遥之に向かって親指をぐっと立てた。

「何? そんなに強いおじさんなの?」

「えっと……すごく強いってわけじゃないんだけど……」

 説明に困っているゆみに代わり、華澄が説明を始める。

「強いか弱いかは、プレイヤー次第というキャラだな。この『ギデオン』というキャラは、高い防御力とダメージの大きいコマンド投げを持つ、投げキャラというスタイルのキャラだ」

「コマンド投げ? 投げキャラ?」

「えっと、コマンド投げっていうのは、特定のコマンドを入力すると出せる、投げの必殺技のことだよ。このコマンド投げをメインに使って戦うキャラクターを、投げキャラって呼ぶの」

 今度は、ゆみが遥之に説明した。

「へ~。このギデオンっておじさんは柔道でもやってるの?」

「柔道よりだいぶワイルドな投げをするキャラだな。爆発したりするし」

「おじさんスゲー!」

「アメリカの特殊部隊に所属している軍人で、とある任務の為に戦ってるって設定のキャラクターだよ」

「軍人か~。そりゃ、渋いわけだ。でも華澄、なんでこのギデオン選んだのが良いチョイスなの?」

「さっき言ったように、ギデオンは防御力が全キャラで一番高い。その上、コマンド投げが決まれば大ダメージを与えられる。他のキャラに比べてコンボの重要性が少ないから、忙しい操作が苦手な初心者に意外とオススメなキャラなんだ」

「まったくコンボができなくていいかと言われると、答えはノーなんだけど……。ただ、他のキャラよりはコンボが短くて、簡単だよ」

「そうなんだ! あたし、昨日のゆみの対戦観ててあんなコンボできないって思ったんだけど、このキャラならOKだね!」

「ただし、他のキャラより機動力がないから、対戦するキャラによっては大変だぞ。他のキャラがダッシュを持っているのに対し、ギデオンはステップだからな。とにかく、粘り強く戦うメンタルが必要だな。ま、遥之なら大丈夫だ」

 華澄に大丈夫と言われ、遥之は安心した表情になった。

「そっか~、あたしなら大丈夫か……。よし、あたしはギデオンで市民eスポーツ大会、頑張ります!」

 遥之は、右手を空高く上げ、宣言した。

 そんな遥之に、ゆみと華澄は祝福と激励を込めた拍手を送った。

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