ラウンド19

「それで、まず何をしたらいいの?」

 キャラクターを決め、いざ第一歩という段階で、遥之は自分が何をすればいいのか、ゆみと華澄に問いかけた。

「まずは……チュートリアルだ!」

 華澄は気合いの入った声で席を立ち、手で空をなぎ払った。

「チュートリアル? そういえばさっきもそんなこと言ってたね」

「うん。チュートリアルモードは、キャラクターの操作の仕方からシステムの解説、選んだキャラクターのコンボや必殺技の練習ができる便利なモードなの」

 ゆみが、遥之の疑問に答える。

「へー、便利なんだね」

「遥之ちゃんは格ゲーをプレイした経験が少ないから、チュートリアルで一から学んでいった方がいいと思う。私や南城さんだと、どうしても専門用語ばっか使ったりしちゃうから、最初は解りにくいと思うし……」

「格闘ゲームを始める人は、チュートリアルを面倒くさがってやらないことが多いからな。ゲームの基本を知るには、一番いいのだが」

 ゆみの言葉に、華澄が一言付け加える。

「やっぱ、何でも基礎が大事ってことなんだね~」

「そうだね。最初のうちは、しっかり基本の動きやシステムを覚えていったほうがいいと思う」

「いきなりコンボの練習をしたり、対戦で学んでいくっていうやり方は、格闘ゲームに慣れた人じゃないと身につかないからな。よし、遥之はまずそこの席でチュートリアルをクリアするんだ! クリアできたら、私か髙野に一声かけてくれ」

「はいは~い。よっし、ちょっくら頑張ってみますか!」

 遥之は、今座っている机から少し離れた場所にある机に移動する。その机にも同様に、モニターとゲーム機、アケコンが置いてあった。

 ゲーム機の電源を入れ、遥之は説明書を読みながらゲームを進めていく。その様子を、ゆみは子供を見守る親のように見守っていた。

「髙野、人の心配ばかりしてる場合じゃないぞ! 髙野は私と、ひたすら対戦だ!」

「は、はい。解りました」

「昨日の対戦を観た限り、ブランクの影響はゼロではなかったからな。少しでも全盛期の感覚を取り戻す為に、今は数をこなそう!」

 そう言うと華澄は、ゆみの横に座った。

 ゆみには、解っていた。今のままでは、いけないと。

 昨日のアンジェとの対戦は、まったく満足のいくプレイが出来なかった。

 しかも、相手が使用したのはサブキャラだ。そのサブキャラに、苦戦をした。

 これが意味することは、今のゆみではメインキャラを使用するアンジェに、まったく歯が立たないということ。インターミドルの時のように、完敗してしまうだけだということだ。

 少しでも、少しでも対戦数をこなし、アンジェに追いつかなければならない。

 今のゆみに、迷いはなかった。

 少し前までは、二度と格闘ゲームはやりたくないと思っていた。なのに、今は格闘ゲームがやりたくて、うずうずしている。

 きっかけは、華澄と遥之を侮辱したアンジェに対する怒りからだったが、いつの間にか自分の意志でアケードスティック――アケコンのレバーを握っている。

 人間とは、不思議なものである。

「よし。じゃあ始めるぞ、髙野!」

「はい。よろしくお願いします」

 ゆみと華澄の、対戦が始まった。

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