ファイナルラウンド
「Dブロック三回戦、サンティエモン女学院eスポーツ部対明陽高校e格闘技部。二対一で明陽高校e格闘技部の勝利となります! 両者、礼!」
「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」
大将戦終了後、サンティエモン女学院と明陽高校は整列し、お互いの健闘をたたえあった。
「やったね、ゆみ! あたしたちの勝ちだね!」
「うん。何だか、全部夢だったんじゃないかってぐらい不思議な気分」
「何言ってるんだ髙野。お前は勝ったんだよ。あの内山アンジェリーヌに!」
華澄は、ゆみの背中をバンバンと叩いた。
少し痛かったが、ゆみは我慢した。
(本当に、勝てたんだ……)
心の中で小さく喜んでいるゆみのもとへ、一人の少女が近付いてきた。
内山アンジェリーヌだった。
「な、何よ、正々堂々と勝負してゆみが勝ったんだから、文句言わないでよね!」
遥之が、不信感を抱いた顔で庇うようにゆみの前へ立った。
「待て、遥之。どうやら、そうではないようだぞ」
華澄は、遥之の肩に手を置いた。意味を察した遥之は、納得いかない顔をしながらも、その場からそっとどいた。
ゆみとアンジェ。お互いを見合うような形になる。
二人は、しばらく無言で見つめ合った。先に口を開いたのは、アンジェの方だった。
「強かったわ、ゆみ。あの時とは見違えるほどに」
「内山アンジェリーヌさん……」
「それと、その……。Je suis desolee、ゆみ」
アンジェは顔を真っ赤にしながら、ゆみに何かを言った。何と言われたか解らないゆみは、きょとんとした顔でアンジェを見た。どこか照れたような、恥ずかしそうな顔をアンジェはしていた。
「ごめんなさいって言ってるのよ、一応」
いつの間にかゆみたちの側に、サンティエモン女学院の野神唯が立っていた。
唯は、ジト目でアンジェを睨む。
「ほら、約束なんだからちゃんと謝りなさい」
唯は強めの口調で、アンジェにゆみたちに謝罪するよう促した。
観念したアンジェは、改めてゆみ、遥之、華澄に向き直った。
「ゆみ、それとゆみのお友達の二人、ひどいこと言ってごめんなさい……」
アンジェは今までの強い態度が嘘だと思えるくらい、ゆみたちに素直に謝った。アンジェが謝る姿を確認し、唯は納得いったように頷いていた。
「髙野さん、アンからあなたとの約束の話は聞いたわ。これで、許してもらえるかしら?」
「は、はい」
唯からの突然の振りに、ゆみは若干押されつつも返事を返した。
「そう。よかったわね、アン。あなたの片思いの人に許して貰えて」
「ちょ、ちょっと、止めなさいよ唯!」
アンジェは顔を真っ赤にしながら、抗議した。
「か、片思い……。えっと、どういうこと……ですか?」
ゆみは戸惑いながら、唯に尋ねた。
「アンはあなたの母親、髙野あきプロの大ファンでね。その娘のあなたとインターミドルで対戦した際、あなたがアンに完敗したのが納得いかなかったみたいでね。活を入れようと色々きついこと言ったり、あなたの動向を探ったり……。ま、つまりあなたのことが好きなのよ。プレイヤーとして」
唯は淡々と、アンジェの秘密をばらしていった。アンジェは泣きそうな顔をしながら、耳を塞いでいた。
「なんだ、髙野と友達になりたかったのか!」
「その為に随分面倒で迷惑で失礼なことしたのね。面倒くさいヤツ!」
遥之と華澄は、生意気で素直じゃない子供を見るような目で、アンジェを笑いながら見た。遥之と華澄に笑われ、再び顔を真っ赤にしたアンジェはゆみの正面に立ち、宣言した。
「ゆみ! 今日はたまたま負けたけど、次は絶対わたしが勝つから! 覚悟しときなさい!」
「うん。私も負けないよう、努力するね」
ゆみは、笑顔でアンジェに手を差し出した。
アンジェはその手を、力強く握る。ゆみとアンジェは、熱い握手を交わした。
こうしてゆみは、かつてのトラウマの相手と戦友になった。
もう今のゆみは、以前とは違う。プレイヤーとして、人間として成長した姿が、そこにはあった。
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