ラウンド34
一ラウンド目。
ゆみはヴァルミリアの立ちC、立ちBを使い、ゆいかが動きづらくなるよう牽制していく。
nao/との対戦のおかげで、以前より通常技の使い方が上手くなっている。焦ることなく、じわじわとゆいかを攻撃しつつ、動きを押さえていく。
アンジェも、無理に攻めようとはしなかった。ガードを固め、僅かに生まれる隙を見逃さないよう、慎重に立ち回っていく。
オフェンス力は、ゆいかの方が上だ。少しでも隙があれば、ダッシュC攻撃からのコンボ、その後は強力な起き攻めが待っている。
油断できない。
ゆいかが、じりじりとヴァルミリアとの距離を詰めてくる。アンジェは、ジャンプを控えた地上戦メインの立ち回りのようだ。
ヴァルミリアの対空能力が強い立ちB攻撃を警戒しているのか、慎重になっているだけなのか。理由は解らないが、アンジェはそんな大人しい戦い方をするプレイヤーではないことを、ゆみはよく理解している。
一瞬の、間が空いた。
ゆいかが、ジャンプC攻撃で一気に攻めてきた。
あらかじめ対空を意識していたゆみは、ジャンプA攻撃で迎撃する。
地上に着地するとすぐに、アンジェはゆいかのダッシュC攻撃を放ってきた。
ゆみは、なんとかこれをガードすることに成功。しかし、アンジェの攻めは終わらなかった。
ダッシュC攻撃がガードされると、アンジェはリベレイションを発動。ヴァルミリアのガードを崩す為、次々と攻撃していく。
立ちA。
しゃがみA。
しゃがみB。
しゃがみC。
パーソナルアクション――ゆいかのライフゲージを消費し、発生が早く追撃可能な中段攻撃を繰り出す。
下段攻撃からの中段攻撃。
リベレイションで行動速度が上昇した状態でのゆいかのパーソナルアクションは、強力なガード崩し手段だ。
ゆみはこれをファジーガードで防ぐ。
ファジーガード――。
通常技より中段攻撃の発生が遅いことを利用し、しゃがみガードから立ちガードと切り替えて下段と中段攻撃をガードする技術である。
下段攻撃で固めてからの中段攻撃は、意識が下段攻撃に向いている為、中段攻撃を喰らってしまう場合が多い。
そういった事態を防ぐ為の手段の一つだ。
ただし、あくまで読みでガードをする手段である。
ファジーガードを潰す行動は各キャラクターに沢山ある為、あくまで読み合いの一つとして意識しておくのが大切だ。
ゆみはアンジェの対戦動画を見て研究していた為、今はファジーガードを使う場面だと判断した。
こういった相手の癖を理解し、実戦で生かす為にも、動画で相手プレイヤーを研究することは大事なことである。
だが、アンジェの力はゆみが研究したキャラ、プレイヤー対策を上回っていた。
完全に攻めに一本に切り替えたアンジェは、ゆいかのリベレイションゲージがゼロになり、回復を始めても次々と攻めていく。
ヴァルミリアのガードを、崩しにかかる。
(アリーナで対戦した時よりも、動画で見た対戦よりも、さらに攻めに磨きがかかってる……!)
ゆみは苦しみながらも、アンジェが操るゆいかの怒濤の攻めをガードしていく。ここでリベレイションバーストを使うわけには、いかない。なんとか、立ち直さなきゃ……。
そう考えたゆみは、アンジェの立ちC攻撃をガードすると、ガードストライクを使った。
一旦、仕切り直そうと距離を離す。
次は、どうくるか。
ゆいかのリベレイションゲージがMAXになるまで、あと僅か。
序盤のように、じりじりと立ち回ってくるのか。
再び、ガンガン攻めてくるのか。
ゆみは、ゆいかの動きに集中した。
ガードストライクでダウンしていたゆいかが立ち上がった、その時。
言葉にし難い、恐ろしい何かが、ゆみの体を通り抜けた。
(何……? この感じ……一体何なの?)
体が、震えていた。
何か説明できない恐怖を、頭より体が先に感じていた。
気がつくと、ゆいかがダッシュCでヴァルミリアに襲いかかってきた。ゆいかの攻撃がヒットすると同時に、リベレイション発動。アンジェが選んだ行動は、リベレイション発動中限定の高難易度、高威力のコンボだった。
ゆいかのリベレイション発動中の特殊能力は、一部必殺技の性能変化だ。これにより、使いやすくなる必殺技もあれば、使いにくくなる必殺技もある。その為、通常状態でできたコンボが、できなくなっているものもある。ダメージを伸ばそうとすると難易度が高くなり、完走できなかった場合のリスクを考え、リベレイション発動中はコンボをしないプレイヤーも居るほどだ。 この為、ゆいかでリベレイションを発動するときは崩しや技の隙消しで使う場合が一般的には多い。
だが、アンジェは違った。
完走するのが難しく、高威力のコンボを選んだ。
このコンボは、目押し(特定のタイミングでボタンを押すこと)、一定のタイミングをとって繋げるもの、発動位置限定など厳しい条件があるが、完走した時のダメージは凄まじいものになる。
数える程のプレイヤーしかできないコンボを、アンジェは使ってきた。
(こんなことまでできるなんて……!)
ゆみは、驚いたと同時に恐怖を感じた。
アンジェは、こんな高レベルなことまでできるのか。
ゆみは、悩む。
ここでリベレイションバーストを使う訳にはいかない。
今使ってしまったら、次のラウンドが苦しくなる。
ここは、素直にコンボを喰らうしかない。
苦渋の決断だった。
ゆみは、アンジェがコンボをミスることを祈る。
(お願い、完走しないで)
ゆみの願いは、届かなかった。
アンジェはコンボを完走し、ヴァルミリアのライフゲージを八割近く減らした。
さらにそこから、強力な起き攻めが待っている。
ゆみは必死にガードを固め、ゆいかの攻撃に耐え続けた。だが、それも長くは持たなかった。
『K.O』
気がつけば、ゆみの操るヴァルミリアは地面に倒れていた。ゆみは、一ラウンド目を圧倒的な力でアンジェに取られてしまった。
「ゆみ…………」
遥之が消え入りそうな声で、ゆみの名を呼んでいた。
「遥之、おまえがそんな弱気でどうする」
遥之の横で対戦を見ていた華澄が、真剣な表情で遥之に話しかけた。
「でも、あんなに圧倒的にやられちゃったら……」
「遥之、髙野の顔をよく見てみろ」
華澄は、遥之にゆみの顔を見るよう促す。
遥之は、ゆみを見た。
ゆみは、戦意を失っていなかった。勝負を、諦めてはいなかった。
(よし、なんとかリベレイションゲージを温存できた)
ゆみは深呼吸をすると、頬を叩いて気合いを入れる。
(これで、次のラウンドは大丈夫!)
心の中で呟くと、ゆみは気持ちを切り替えた。
『Next Game……Duel!』
第二ラウンドが、始まった。
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