ラウンド30

「まもなくDブロック三回戦を開始します。先鋒の方は準備をお願いします」

 スタッフのアナウンスにより、市民eスポーツ大会三回戦が始まった。各ブロックの先鋒プレイヤーたちが、一斉に準備を始める。その中には、遥之の姿もあった。

「あ~緊張がMAXだよ。あたし、うまくやれるかな……」

「緊張してるってことは異常なしってことだ。大丈夫、なるようになるさ」

「遥之ちゃん、今日までずっと頑張ってきたんだから絶対大丈夫だよ!」

「遥之っち、考えるんじゃなくて感じるのよ!」

「みんなありがとう。でも、初戦より三回戦の方が緊張するっていうのも変な話だよね」

「相手が相手だからな。さすがはサンティエモン女学院、一年生でもすごいプレッシャーだ」

「でも、同じ人間です。向こうだって多少は緊張しているはずですから、そこをついていけば勝機はありますよ」

「技術はあってもメンタルが強いとは限らないしね! ましてや、数ヶ月前は中学生だったんだから遥之っちにも充分チャンスはある! まあ、遥之っちもそうだけどさ!」

「あはは。そうだよね、あっちも同じ女子高生だしね! 何かそう考えたら楽になったかも!」 遥之に、いつものような明るい笑顔が戻ってきた。 体はまだ緊張で固くなっているが、対戦するには良いコンディションだ。

「よし、じゃあ行ってくるね!」

「あ、待って遥之ちゃん」

「遥之、ちょい待った」

 ゆみと華澄が、同時に遥之を呼び止めた。

「何々二人とも、もう大丈夫だって」

 ゆみと華澄は、お互いの顔を見合った。どうやら、考えていることは同じらしい。

「遥之ちゃん、チャンスが来るまで我慢だよ」

「ああ。我慢して勝機を常に伺うんだ。投げキャラは我慢が大事だからな!」

「我慢……。いつも言ってるやつね! わかった!」

 遥之はゆみと華澄に手を振ると、小走りで筐体へと向かった。向こう側の筐体には、すでにサンティエモン女学院の生徒が座っていた。背中にかかるくらいの長さの黒髪をポニーテールにした、活発そうな少女だった。遥之と目が合うと、笑顔で「よろしくお願いします」と挨拶した。

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 礼儀正しい挨拶をされて、遥之は少し驚いてしまった。

 遥之の中ではサンティエモン女学院=内山アンジェリーヌというイメージが出来ていた為、みんなアンジェのような失礼な性格だと思い込んでいたからだ。

(ダメダメ、集中しなきゃ!)

 遥之は筐体の椅子に座ると、自分の頬を軽く叩く。心の準備、完了。戦闘モードに入る。

「それでは、Dブロック三回戦先鋒戦を開始します。レディー、ファイ!」

 明陽高校とサンティエモン女学院との対決が、始まった。

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