ラウンド28

 それは、ゆみたちが受付を済まそうとしていた時だった。

 受付場で、内山アンジェリーヌ率いるサンティエモン女学院とばったり会ってしまったのだ。

「む」

「あら♪」

 お互い目が合った華澄とアンジェ。冷静を装っていたが、二人の間には明らかにバチバチと音を立てている火花が見えた。

「ちゃんと逃げずに来たわね、ゆみ♪」

 アンジェは華澄からゆみに視線を移すと、どこか余裕のある笑顔でゆみの目を真っ直ぐ見つめた。

「私は、もう逃げない。あなたからも、格ゲーからも」

 ゆみは、強い決心を込めた瞳でアンジェに向き合う。

 今度は、あの時のようにはいかない。強い決心を表すかのように、ゆみの瞳は熱く燃えていた。

「ふふん♪ いい瞳をするようになったわね。そうそう、ゆみがもしわたしに勝てたらそこのお友達をバカにしたことを謝る、って約束してたっけね」

「……うん、そうだね」

「ま、ゆみがわたしに勝つなんて絶対ないだろーけど♪ ねえ、ゆみ。わたしが勝ったら、わたしの言うことも聞いて欲しいなー。そうすれば、もっと盛り上がりそうじゃない? そう思うでしょ?」

「あなたが私に望むこと……って何?」

「それは勝ってから言うわ。どうせわたしが勝つんだもの♪」

 アンジェは、言い切った。どうせ、自分が勝つのだと。

 決して、口だけではないと言うことはゆみ自身が一番理解していた。理解してはいるが、自分が負けることなどこれっぽちも考えていないその絶対的な自信が、ゆみには恐ろしくもあった。

「あんた、また勝手なことを……」

 今まで黙ってアンジェの話を聞いていた遥之が、アンジェを怒ろうとした。ゆみは遥之の肩を優しく掴み、それを制した。

 ゆみの顔を見た遥之は、怒りが自然と収まっていった。とても、穏やかな顔をしていたからだ。

「わかった、約束するでも、勝負に絶対はないよ」

「それは楽しみね♪ ま、わたしと対戦する前に負けないよう頑張ってね」

 アンジェは鼻で笑いながらそう言うと、その場を立ち去っていった。

「はははっ! 髙野、言うようになったじゃないか!」

 華澄が、ゆみの背中を勢いよく叩いた。

「はは……。足、まだ震えてます……」

 華澄は、ゆみの足を見た。

 がくがくと、震えていた。どうやら、無理をしていたらしい。

「良い根性してるな! これなら、大会の方もバッチリだ!」

「また華澄は適当言って……。こっちは頭きてたんだから!」

 遥之は、アンジェに対してえらくご立腹なようだった。

「私は大丈夫だよ、遥之ちゃん。……南城さん、私絶対に内山アンジェリーヌに勝って見せます」

「うむ。私と遥之も、出来る限りのフォローをさせてもうぞ! まずはサンティエモン女学院と当たるまで、頑張って勝とう!」

「はい!」

「りょーかい!」

 三人は気合いを入れ、互いの手を合わせた。

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