ラウンド24
静かな、立ち回りだった。
開幕、ゆみはゆいかのダッシュ攻撃を警戒していた。
ゆいかのダッシュは他のキャラとは違い、相手に向かって飛びかかる動きをする。これは空中に浮かび上がりながら前進していく『ホバーダッシュ』と同じタイプの特殊移動だ。
ホバーダッシュは、スピードはそこまで速くないが空中を移動する為、ダッシュ中の攻撃は中段となる。ゆいかのダッシュの場合、空中を移動するがダッシュ攻撃は中段にならない。その代わり、前進スピードがホバーダッシュよりかなり速い。もの凄い勢いで、キャラが突っ込んでくる。
ゆいかはこのダッシュを使った奇襲攻撃と、自分の体力を消費して発生の早い中段攻撃を出すパーソナルアクションでガード崩す戦法が非常に強力だ。
nao/はダッシュ攻撃をせず、ゆみの操るヴァルミリアと距離を取る立ち回りをしていた。
ゆいかを使うプレイヤーは、どこか攻めっ気が強い人間が、多くガンガン攻めてくる場合が多い。ゆみも、nao/が開幕ダッシュ攻撃をしてくるのではないかと警戒していた。開幕ダッシュ攻撃をしてくるようなプレイヤーだったら、戦いやすかった。nao/の丁寧でじりじりとした立ち回りは、いつダッシュ攻撃が来るのか、いつ攻めてくるのか解らない。
ゆみは、相手が攻めづらくなるよう牽制攻撃をする。
このとき、僅かに隙が出来た。
nao/は、この隙を見逃さなかった。
強烈なダッシュ攻撃が、ヴァルミリアを襲った。
(今の牽制を読んで……!?)
ゆみに衝撃が走る。
まるでこちらの攻撃を、予知していたような動きだったからだ。
nao/は、ダッシュ攻撃からコンボを決めていき、途中でリベレイション発動。コンボを継続させていく。
ヴァルミリアのライフゲージが、どんどん減っていく。
ゆみは、このままコンボを喰らうのは危険と判断し、リベレイションバーストを発動。
だが、この行動は迂闊だった。
nao/は、リベレイションバーストをガードしていた。
(しまった……! バー対コンボだ!)
ゆみが気付いたときには、もう遅かった。ヴァルミリアは大ダメージを受け、ライフゲージを大量に減らされてしまった。
バースト対策コンボ――。
プレイヤーにはバー対と呼ばれている、リベレイションバーストでコンボを中断されないよう対策されたコンボのことである。
リベレイションバーストは、相手のコンボを強制的に中断することができる防御手段だ。せっかく大ダメージを与えられるコンボでも、中断されてしまっては意味がない。
逆に、リベレイションバーストで状況をリセットされたことにより、相手に立て直すチャンスを与えてしまうこともある。
そこで、バースト対策コンボの出番というわけだ。
バースト対策コンボには、大きく二種類のもがある。
一つは、相手がリベレイションバーストをすることを読み、あえてコンボをせずにガードして、リベレイションバーストをさせるもの。バースト読みと言われるものだ。
リベレイションバーストは使用後、無防備な状態で落下する。その為、ガードされたり当たらなかった場合、コンボが確定。
さらに、自分の行動を読まれていると相手に思わせられる為、精神的ダメージも与えられる。ただし、相手が確実にリベレイションバーストを使うと読んだとき以外は止めておいた方がいい手段でもある。相手がリベレイションバーストを使用しなかった場合、受け身を取られ、本来与えられるダメージが入らなくなってしまうからだ。
そして、もう一つのバースト対策コンボ。
相手にリベレイションバーストをされても、こちらがガードできる、もしくは当たらないようにする構成のコンボである。乱暴に言えば、リベレイションバーストされても完走できるコンボだ。
コンボを構成するコンボパーツを工夫することにより、リベレイションバーストをされてもガードが間に合うようにしたり、当たらないようにすることができる。キャラクターによっては大量にゲージが必要だったり、ダメージが少なかったり、状況が限定されていたり、難易度が高かったり等欠点がある。
しかし、上を目指すなら必要になってくるコンボだ。
一般的にはこちらのことをバースト対策コンボ、前述のものをバースト読みとプレイヤー間では呼ばれている。
ゆみも、バースト対策コンボのことは勿論知っていた。
だが、ゆいかのバースト対策コンボは決められる状況が限られていて、さらに高難易度である為、トッププレイヤーでも使う者は少ない。なのに、nao/は当たり前のように使ってきた。これだけでも、相当な実力なプレイヤーだと解る。
コンボを完走され、画面端までヴァルミリアは運ばれてしまった。
ゆいかの、起き攻めがくる。
ゆいかは攻めのバリエーションが多く、起き攻めが強力なキャラクターだ。
ゆみは全神経を集中させ、なんとしても防御しようと構える。
しかし、nao/がとった行動は意外なものだった。
起き攻めを、しなかったのである。
(なぜ……?)
ゆみの頭の中を、疑問が回った。
nao/は、決してゆみを舐めているわけではない。
画面内には、ゆみが牽制攻撃の合間に設置したアンタレスがある。nao/は、これを警戒していた。
何気なく、設置されているように見えるアンタレス。だがこれは、ゆみが先のことを考え設置した罠でもあった。
部室での華澄との対戦で思い出した、戦い方だ。
アンジェとの対戦時には、すぐにシリウスを出してしまって失敗した。同じ失敗は、二度もしない。そのつもりだった。
だがnao/は、ゆみの設置したアンタレスが偶然出されたものではないということを読んで、起き攻めをしなかった。
それに、nao/独特の丁寧な立ち回りからの奇襲。
普通に攻められるより、行動が読みづらく戦いにくい。今も、ヴァルミリアと一定の間隔を開けながら、通常技で牽制して行動を制限させてくる。
ゆみが、状況を打開しようとヴァルミリアを動かしたその時。
ゆいかのパーソナルアクションが、ヴァルミリアを捉えた。
右手の爪で叩き斬るようなモーションの攻撃が、ヴァルミリアにヒット。
そこから、手痛いコンボを貰ってしまった。
『K.O』
気がつけば、ゆみは一ラウンドを取られたいた。
(この人……強い!)
ゆみは、nao/の強さを実感した。
戦績通りの、強さだ。
ゆみは深呼吸をし、両頬を叩いて気合いを入れた。
そうだ。
この程度では、心は折れない。
今は、内山アンジェリーヌを倒すという目的があるんだ。
気合いを入れたゆみは、再びnao/に立ち向かった。
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