ラウンド23
フリープレイ対戦会が始まってから、二〇分程経ったであろうか。ゆみは順調に勝利を重ね、徐々に知識やテクニックを思い出してきた。
いい感じだ。
華澄は、勝ったり負けたりを繰り返しているようだった。自分から積極的に対戦相手に話しかけ、アドバイスを貰っているようである。面識のない他のプレイヤーから直接意見を貰えるのは、ゲームセンターならではといった所であろうか。
「やったー! ゆみ、華澄! あたし勝てたよー!」
遥之は、初勝利に喜んでいた。どうやら対戦会には遥之以外にも初心者が参加していたらしい。
実力的にも、今の遥之と同じくらいのようだ。
ゆみは、喜んでいる遥之に笑顔で微笑みかけた。
(遥之ちゃん、楽しそうでよかった)
心の中で安心したゆみは、ゲーム画面に向き直ると、手元を軽やかに動かす。流れるような手つきで情報が入力され、ヴァルミリアがダンスを踊るかのように華麗に画面内を舞った。
『K.O』
また一つ、ゆみは勝利を重ねた。
ゆみは、今の所負けなしだった。だが、負けていないからといって、それが良い状況であるかと言えば、答えは否だ。
確かにここ二〇分程で、ゆみはかなりリハビリが出来ている。昨日のアンジェ戦より、確実に強くなっている。
しかし、運が悪いのかアンジェがメインで使っているキャラクター『ゆいか』のプレイヤーがいない。キャラ対策として対戦経験を積みたいゆみにとって、少しがっかりなことだった。
(今日はしょうがないよね。また別の機会に対戦できるかもしれないし……)
ゆみがそう思ったそのときだった。
フリープレイ対戦会の参加者たちが、急にざわつき始めた。
「おい、見ろよ」
「すげー、本物だ! 後でサイン貰おうぜ!」
「今日は参加しないもんだと思ってたよ」
「ふっ……今日も相変わらず美しい方だ……」
(何だろう?)
ゆみは、突然ざわつき始めたプレイヤーたちを眺めていた。すると、突然ゲーム画面が切り替わった。
『HERE COMES NEW BLOOD』
誰かが、ゆみのプレイしている筐体に乱入してきた。乱入者のプレイヤーネームには『
プレイヤーネーム――ブラッドリベレイションはICカードに対応しており、データを登録すると様々なコンテンツを利用できるようになっている。
さらにデータを登録すると、ゲーム画面に自分のプレイヤーネームを表示することが出来るようになる。
ゆみたちe格闘技部のメンバーももちろん登録しており、それぞれ好きなプレイヤーネームを付けている。
ゆみは『弓使い』、遥之は『ハルーノ』、華澄は『ツァラストラ』といった感じだ。
乱入者――nao/が使用するキャラクターは『ゆいか』だった。アンジェのメインキャラと、同じだ。
ゆいかは、ブレザーの制服にセミロングの黒髪という外見は普通の女子高生のキャラクターだ。だが、突如謎の力に目覚めてしまい、大きな戦闘能力を得たという設定がある。攻めに特化した性能の、非常に強力なキャラクターだ。
ゆみは、ゲーム画面のnao/と書かれている文字の下に出ている、対戦戦績を見た。
六三五〇戦六〇〇〇勝三五〇敗――。
驚異的な、数値である。
格闘ゲームをやり込んでいる人で、こういうことを言う人がいる。
『格ゲーは一〇〇〇戦やってからが、始まりだ』
これぐらい数をこなさないと、強くなれないという意味だ。
多少は大げさだとしても、全国大会で活躍するレベルになるには他人の何倍も対戦をしなければならないのは、事実だ。nao/の数値は、トッププレイヤーの中でも最上位のものであるのは間違いない。
ゆみは、自分の手が震えているのに気付いた。
(この人はプロ、もしくはプロに匹敵する強さを持ってる。それに、使用キャラは内山アンジェリーヌと同じ……)
手の震えを止める為、ゆみは両手を強く握る。
(こんなチャンス、二度とない……!)
ゆみの顔は、笑っていた。
自分でも、気が付かなかった。
この、感覚。勝負でしか味わえない、独特の緊張感。
ゆみは昂ぶる気持ちを押さえようとはせず、対戦に臨んだ。
『The die is cast……Duel!』
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