ラウンド22

 ゲームセンター『ビムス』では、すでにフリープレイ対戦会の受付が始まっていた。プレイヤーの層は幅広く、スーツを着たサラリーマンから学生といった人々が談笑したり、対戦を行っていたりしていた。

「うんうん、今日も人がいっぱいいるね~!」

 愛衣は背伸びしながら、ブラッドリベレイションの筐体に集まっている人たちを眺めていた。

「私、実はゲーセンで対戦するの初めてです」

「え、そうなんだ? 格闘ゲームやってる人は、みんなゲームセンターで対戦してると思ってた」

 ゆみのカミングアウトに対し、遥之は意外だと少し驚いた。

「髙野、練習はどうしてたんだ?」

「部活では監督の指導を受けながら、部員同士で対戦してました。部活以外は母が経営してるゲームジムでずっと練習してましたし……」

「ゲームジムか……。東京ではプロが運営やコーチをしている施設が多いみたいだからな。ちょっと羨ましい」

「華澄は中学のときはどんな練習してたの?」

「私も部員と対戦が主だったな。後は家庭用のネット対戦とゲーセンだな」

「ふーん。部活でしかやらない、って訳じゃないんだ~」

「はいは~いそこの三人さん、お喋りもいいけどこっちでエントリー済ませてね~!」

 会話が弾んでいる三人を、先にエントリーを済ました愛衣が呼んだ。愛衣に呼ばれたゆみたちは、順番にエントリーを済ませる。 愛衣は、三人がエントリーを済ませたことを確認すると、説明を始めた。

「みんなエントリーはOKだね。遥之っち、左端の筐体が初中級者台になってるから、そこで対戦するといいよ! ゆみりんとカスミンは真ん中と右端の無差別台でやるのがいいと思うんだけど、どうだい?」

「わかりました」

「腕が鳴るな!」

「あたし、勝てるかな。同じくらいの実力の人がいたらいいな」

「格闘ゲームが上達するのに一番良い対戦相手は、自分と同じくらいかちょっと強い人だからね。実力が離れ過ぎちゃうと、力の差に心がポキっと折れちゃうのよね~」

 心配している遥之に、愛衣がアドバイスをした。

 強くなりたければ、強い人と対戦しまくれ――。

 よく、このようなアドバイスをする方がいるが、初心者には中々きついものがある。

 愛衣の言うように、あまりにも実力差があるとなぜ負けたのか解りづらく、心が折れてしまうこと多い。

 なるべく自分と実力が近い人と対戦して、「今、出来ないこと」を出来るように練習するのも、一つの上達法だ。

「うーん、そういうものなんだね~」

「でも、強い人と対戦すること自体は悪いことじゃないよ」

「ああ。ただ何も考えずがむしゃらに対戦するのはオススメしないってことだ。そういうことだよな、愛衣ちゃん?」

「まあ、そういうことよ!」

 なぜか、愛衣はドヤ顔で頷いた。

 ゆみたちはしばらく会話を続けた。

少し経つと、フリープレイの設定を終えたビムスの店員が、マイクテストを始めた。

「あー、あー、マイクテスマイクテス……」

 マイクテストを終え、準備が整ったビムス店員は、参加者たちに聞こえるようにアナウンスをする。

「おまたせいたしました! ただ今より、ブラッドリベレイションフリープレイ対戦会を始めまーす! 皆さん、空いてる台でどんどん対戦しちゃって下さい!」

 店員のアナウンスを聞き、フリープレイ参加者たちが続々と対戦を開始する。

「では、我々もいくか!」

「はい!」

「ゆみ、頑張ろーね!」

「ぐふふ、先生も参加しちゃうからよろー!」

 ゆみたちもそれぞれ筐体に移動し、対戦を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る