ラウンド21

「……え」

「誰!?」

 突然の来訪者に、ゆみと遥之は言葉を失った。

 二人が知らない人物だったのと、

「ほほー、この二人が噂の新入部員ちゃんかい? かわいい顔してるのー!」

 この妙に高いテンションに圧倒されたからだ。

「お、意外と早かったな」

「そうなのよー! 職員会議が長引いちゃってさもー。パッとやってパッと終われないのかしらね?」

「はははっ! 相変わらず教師らしくないな!」

「だって心はJKだし~、なんてねー!」

「あの、南城さん……」

 ゆみは、このハイテンションな女性が誰なのか気になり、華澄に問おうとした。ゆみが何を言いたいのか察した華澄は、ゆみの疑問に答える。

「ああ、紹介しよう。彼女は我らe格闘技部の顧問で教師の、加賀愛衣かがあい先生だ!」

「はじめましてこんにちーっす! 日本史教えてる加賀愛衣、まだ誰にも貰われてませーん! 私のことは愛衣ちゃんって呼んでね!」

「あはは……濃い先生だね」

「うん……」

 ゆみと遥之は、完全に引いていた。

 ポニーテールにまとめた、光沢のある黒髪。化粧はあまりしていないようだが、つるつるで張りのある肌をしている。服装は派手すぎず、地味すぎない。アウターには黒のテーラードジャケット、インナーは白のタンクトップ。ボトムスはベージュのスキニーパンツ。

背も高めで、『かっこいいお姉さん』という言葉がぴったりの外見を、加賀愛衣はしていた。だが、喋るとすべてが台無しという、残念な人だった。

「二人のことはカスミンから聞いたよーん! 髙野ゆみりんに、上原遥之っち! 今は対戦中かな~?」

「ああ。髙野のリハビリと、遥之へのレクチャーなんかも兼ねてな」

「ほほー。それでどうなん? 二人とも、慣れてきた?」

「んー、華澄とゆみが色々教えてくれるんで大丈夫でーす」

「私は感覚は取り戻せてきましたけど……細かいキャラ対なんかが全然です」

「すまんな、髙野。内山アンジェリーヌのメインキャラを使えればよかったんだが……」

「そんな、南城さんは悪くないですよ」

 ゆみたちの会話を興味深そうに聞いていた愛衣は、何か思いついた様子でゆみ、華澄、遥之の三人の前に出た。

「よし、今からゲーセンに行きましょうか!」

「ゲーセンってゲームセンターのことだよね? 何で?」

「今から、ですか?」

 愛衣の突然の提案に、ゆみと遥之はキョトンとする。

「そう! ちょうど今日は『ビムス』ってゲーセンで、フリープレイ対戦会があるのよ~。毎回参加者多いし、強さ別で筐体が分かれてるから、初心者の遥之っちと上級者のゆみりんにもばっちりじゃない? それに、ビムスは強豪プレイヤーが集まる場所って聞くし! ここで解らないこと聞いたり、意見交換して、少しでも強くなろうよ!」

 愛衣はハイテンションで、ゆみと遥之の疑問に答えた。

 フリープレイ対戦会――。

 一定の参加費を払うことで、決められた時間まで好きなだけ対戦をすることができる、ゲームセンター側のサービスの一種のことだ。

 一回一回お金を入れて対戦しなくて済むので経済的に優しく、さらに数多く対戦できる為、積極的に参加するプレイヤーも多い。

 お金をなるべくかけないで対戦経験を積みたい人には、もってこいのサービスだ。

「ビムスか……。確かに、あそこは環境が整ってるしプレイヤーのレベルも幅広いからな。愛衣ちゃんよ、ナイスアイデアだ!」

 華澄は、満面の笑みで愛衣の肩をぽんぽん叩いた。

「そうと決まったら、早速行こう! ビムスまでは先生が車で乗せてってあげる。あ、参加費は部費で払うから心配ないさ~!」

「よし、では早速行こう! 二人とも、急いで準備をするんだ!」

 興奮している華澄は、光の速さで準備を済まし、猛ダッシュで部室を出ていった。

「あ、ちょっと待っててば! 戸締まりとか片付けしないで部長が一番に行くな!」

 遥之は、慌てて機材を片付けると華澄を追いかけていった。そんな遥之と華澄を、ゆみは微笑ましく眺めていた。

(本当に、仲が良いんだな)

 素直に、羨ましかった。

 そんなゆみの肩に、優しく手が置かれる。愛衣の手だった。

「大丈夫。みんなゆみりんの味方だよ!」

 愛衣はウインクしながら、ゆみに優しく笑いかけた。

「はい!」

 ゆみは愛衣の言葉を聞き、自然と胸が熱くなっていた。

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