ラウンド16

 ラウンドが始まると、アンジェは一気に攻めてきた。

 威嚇射撃で相手の出方を伺うようなことはせず、ガンガン前に出る。ヴァルミリアの牽制攻撃を確実にガードしながら、隼斗の立ちC、相手に向かって大きく踏み、前進しながら攻撃する必殺技『強行突破』を使い、攻めを継続していく。

(そうだった。内山アンジェリーヌは、攻めに特化した立ち回りをしてくるんだ……!)

 ゆみは、思い出す。

 インターミドルで対戦したとき、アンジェがどんな動きをしてきたか。使っているキャラクターこそ違えど、性質は変わっていない。ヴァルミリアの攻撃に少しでも隙があれば、強行突破を使って前に出てくる。

(くっ……!)

 ゆみは、苦しい状況にあった。

 強行突破は、相手にガードされても数フレーム隼斗側が有利になる必殺技だ。通常技からキャンセルはできず、発生も遅い。

 しかし、ヒットすると相手が吹っ飛んでいき、画面端やカウンターヒットした場合、そこから高威力コンボを決められる。

 ヴァルミリアの場合、防御力が低い為、一発でも喰らうとライフゲージがごっそり減ってしまう。

 通常なら、ヴァルミリア側は立ちAや立ちBなどを置いておき、隼斗側が安易に使えないようにしていく。

 しかし、アンジェは強行突破の使い方が、絶妙だった。

 隼斗側の攻撃の連係が切れ、ヴァルミリアが動き出そうとした所に、強行突破を合わせてくる。これはアンジェが持つ、天性の攻め勘、とでも言うべきだろうか。ゆみにとって、非常にやっかいであり、トラウマであった。

 ゆみは耐えきれず、ガードストライクを使った。

 隼斗がダウンし、わずかに距離が離れる。

 アンジェは、どうくるか。

 ゆみは、隼斗が低空ダッシュで攻めてくると判断し、立ちBを置きにいく。

 しかし、アンジェが取った行動は立ちBが当たらないギリギリの距離までダッシュで近づくことだった。

(警戒されてる……)

 ゆみがそう思った次の瞬間、アンジェは強行突破を出していた。

 ゆみは、眉間に皺を寄せた。

 意識をするのを、忘れていた。

 ヴァルミリアは、画面端まで吹っ飛んでいき、隼斗がそれをダッシュで追いかけていく。

 リベレイションゲージはまだ溜まっていない為、リベレイションバーストは使えない。ガードストライクも、先程使ってしまったため、エナジーゲージはほとんど残っていない。

 ここは、素直にコンボを喰らうしかなかった。

 アンジェは、リズムよくボタンを押していき、コンボを完走させた。

 ヴァルミリアのライフゲージが、半分ほどなくなっていった。さらに、画面端を背負うことになってしまった。

 ゆみにとって、かなりまずい状況になった。

 そこからのアンジェの攻めは、まるで飢えた獣のように、激しいものだった。 次から次へと攻撃をしていき、連係が切れたらすかさず強行突破。油断していると、今度は投げを狙ってくる。 ゆみはエナジーガードで隼斗との距離を離し、ジャンプで画面端から脱出するも、アンジェはすかさず強行突破を出す。

 強行突破。

 強行突破。

 強行突破。

 すべて、絶妙なタイミングで出してくる。

 よく、強い技ばかり振ってくるプレイのことを『厨房プレイ』と言って、バカにするプレイヤーが一部いる。

 強い技ばかり振ることは、そんなバカにされるようなことではない。強い技をたくさん使うのは、当然のことだ。

 それを咎められないプレイヤーが、未熟なだけである。

 だがアンジェの場合、あまりにも技を出すタイミングがうますぎる為、厨房プレイとは言えなかった。

 その後、ゆみは善戦したものの、アンジェの強烈な攻めに崩され、

『DOWN!』

 二ラウンド目を、アンジェに取られてしまった。

「ふー……」

 ゆみは深呼吸をし、再び集中力を高める。

「よかった。あまり、引きずっていないようだな」

 華澄は、ゆみの顔を見ると安心そうに笑った。

「華澄、どうしよう! あの金髪ハーフも、ラウンド取っちゃった!」

「落ち着け、遥之。まだ、勝負はついていない。大事なのは、次の最終ラウンドだ」

「でもでも、何かさっきと全然違うよ? やばくない?」

「対戦中に戦い方を変えることは、よくある。重要なのは、動揺しないことだ。髙野を見てみろ。あれだけ落ち着いていれば、充分勝機はある!」

 華澄は、不安でオロオロしている遥之のお尻を叩いた。お尻を叩かれた遥之が、無言で華澄の脇腹をつつく。脇腹をつつかれた華澄は、声を出さないように我慢し、意識をそらす為に、ゲーム画面に目を移した。

 ゲーム画面は、わずかにフリーズしかけたように見えたが、何事もなく最終ラウンドのコールを始めた。

『Last Game……Duel!』

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