大人と子供⑥


「何や」


 !?


「あああああああああああ! ひいいいいいいいいいいいいい!」


 ビビって大声だして振り返る。

 そこにいたのは、いつも舘神と一緒にいるヤクザなのか秘書なのかよくわからん汚い男だった。


↑↑ここまで前回の分↑↑

――――――――――――――――――――

↓↓ここから今回の分↓↓


 ……舘神は……、いない?


「……あ、いや、舘神さんに会いに来まして……」

「今は名古屋におるで。またにしいや」

「はい! そうします! ありがとうございました!」


 叫んで走り出す。

 アイツ、舘神がいないと偉そうだな。正直、威圧されて逃げ出してしまった。


「ねえ! どうするの!」

「舘神の件はもういいよ! いないってこともわかった。明るいウチに武器とか見たかったけどしょうがない。諦める。あとは、どっか行きたいとこある?」

「市街地」

「……」


 走っている足を止める。


「え、また~?」

「いや、だって、しょうがないでしょ。正直、市街化調整区域で見るとこなんて何にもないわよ。現場は警察があらかた片づけちゃってるし」

「だったらさ~、公園のゴミ探すのは後でよかったんじゃないの~?」

「ごめんなさい。いてもたってもいられなくなって。それは謝るわ。でも、実際に暗くなってから市街化調整区域は危ないし、ゴミも見つかりにくいから、結果的にはよかったと思ってるんだけど……」

「うわああああ。いやだ~! いやだ~!」

「そう言われてもねえ……、しょうがないのよ。ごめんなさい。頑張りましょうよ」


 妙にやさしい大川になんだか腹が立って、余計にわがままを言ってしまいそうになる。

 これが甘えだろう。わたしはバカだ。

 大川の発言は正論だ。実は言われなくてもわかってたけど全面的に正しいのは大川で、わたしがどんなにもう歩きたくても、歩いて捜査する以外にないのだ。


 ……、なんでわたしはこんなに反論したがっているのだろう?


 ふと、冷静になって、そう思った。

 その理由は単純で、わたしはこのクソ暑い中、妹の冬服を着ていて、体から汗と体力が流れ出ていて、もう動くと吐きそうなほど消耗しているからだ。

 でも、そんなこと言ってもただのわがままだから、しょうがないレベルの大川のミスを槍玉にあげて、わがままを言ってるのだ。

 外面で暴れながら、どこか冷静に自分へがっかりしている自分がいる。

 結局、今のわたしは自分の意見が正しくないことを知っているから、暴れてわがまま言って、どうにか大川を押さえられないかやってみたのだ。


 大川から見て、今のわたしはどう映っているのだろう。


 非論理的なことを叫ぶ哀れなバカに違いない。

 感情に支配された、哀れなバカとして映っているに違いない。

 でも、わたしは冷静だ。

 感情に支配などされていない。

 自分が非論理的なことを言っていると論理的に理解できている。

 つまり感情に支配された哀れなバカではなく、自分の意見の押し通し方が見つからない、どうしようもない『本当のバカ』なのだ。


 大川は言った。殺人を犯すバカな人間の動機は非論理的な場合が多く、動機から犯人をたどるのはほぼ不可能に近いと。

 その発言は、きっと今のわたしのような人間をこれまで何度も目の当たりにしてきたからであろう。

 でも、今のわたしは本当は冷静だ。

 自分のもう歩きたくないという意見が通るわけないから、ムッチャクチャなことを言って、かまってもらおうとしている。


 多くの犯罪者も、こうなんじゃないか?

 感情に支配された哀れなバカに見せかけて、自分の意見が非論理的で筋が通らないから、ムッチャクチャな方法で実行しようとする、本当のバカというだけなのではないか?

 大川は天才の名探偵だからわからないかもしれないけど、わたしは殺人犯と同じくらい、本当のバカなのだ。そして、それ故に死にたいほどの絶望も味わっているのだ。

 わたしは確信する。

 わたしにはこの事件の動機が読める。


 いつの間にか、わたし自身も市街地に行きたくなっていて、


「ごめん。落ち着いた。行こう、大川さん」

「そう、いいのね。ありがとう」

「お礼を言われる筋合いないよ」




続く

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