大人と子供⑤
「ど、どうしたのよ? ルルム」
わたしの異常な食いつきに気づいてか、大川が顔を覗き込んで聞いてきた。
そしてわたしはようやく思い出す。
……ああ、わかった。それだ。やっぱり見たことあるんだ。
「コレ! 空が拾い食いしようとしてた奴だ!」
↑↑ここまで前回の分↑↑
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↓↓ここから今回の分↓↓
……いつだっけ、あの舘神に殴られた次の日だろうか。一緒に帰った気がする。
ガタン! と床と家具がこすれ合いぶつかり合う音。
「な! そ、それは!」
「え~! それってつまり……! そ、そして上乃さんの生活態度はいったい……」
礼さんと大川が驚きの声を上げている。
さすが大川は名探偵なだけあって余計な部分が気になっているようだが、わたしはそこに構っている場合じゃない。
「あの飴は事件の日に鎌倉さんが落としたやつだったんだ!」
言葉にして確認し合う。2人はうなずく。
「おい、探偵ファイルのマップ見せろ!」
「え、ええ」
さっきまでメモに使っていた探偵ファイルを頭の方のページへ戻す。
「はい」
「殺されたのは、ここか!」
「ええ、見つかったのはここだけど、殺されたのもこの場所ね」
争った形跡があるんだっけか?
確かに、鎌倉さん宅とこの店通り道ではある。でも、
「あの飴が見つかったのはここ!」
わたしは指を突き立てる。
普通に通学路だったので覚えている。
「ここは、確かに鎌倉さんにとっての通学路でもあるが、しかし、このお店から鎌倉さん宅への帰り道ではない! これは……、どういうことだと考えればいい?」
わたしにはわからん。
そんなバカなわたしに大川が答える。
「寄り道してたってことでいいと思うわ」
「おお! ど、どこに?」
「さあ、ここなんてどうかしら」
大川がマップをさす。
そこは、この村にしてはあまり人の手が届いていない公園だった。広場、と言った方が近いかもしれない。
説明すると、この飛島村、狭いし人口は少ないがその割に公園はたくさんある。
まあ、税収がたくさんある割に市街化調整区域で土地が余りまくってるからなんだろうけど、そんな感じでちょいちょい手の行き届いてない錆びた公園も多い。
ここはそんな感じの公園だ。遊具も少ないし草も多い。
基本的に静かで、バカな子供も少ないから落ち着くにはいい場所なんだけど。
「ここには監視カメラもない。例え立ち寄ったとしても警察は気づかなかったかもしれないわね」
大川はそう言って、
「行きましょう! 貴重な情報、ありがとうございました!」
店を出て走り出した。
「ちょっと、急になんなの!?」
わたしは走りながら、名探偵の行動を問い詰める。
「いいから!」
わたしの発言を制止し、大川はとにかく走り続ける。
恥ずかしい。
女子高生が町中を走り回るとか超恥ずかしい。
やっと公園につく。身体的にも精神的にもボロボロだ。
「ハァ……、ハァ……、おい、今気づいたけど、この公園なら、飴の落ちてた場所と事件現場と、鎌倉さんの家が、多少曲がるけど道はムリなく繋がるな」
「ハァ、ハァ、そんな、ハァ、ヒィ……、わかりきったこと、ヒィ、ヒィ、言わない……で……。マップの時点で、ハァ、わかったでしょ……」
疲れすぎだろ。
「じゃ、なにしに来たの?」
「これよ」
大川が指をさしたのはクズかごだ。
「漁りましょう!」
と言って、クズかごに細い腕をつっこむ。
「ちょ、ちょっと待って。何? 何がしたいの!?」
「ペットボトルよ!」
そう言われて、そのかごをよく見ると、そこは資源ごみのかごだった。
「いい!? この公園の資源ごみの回収は2週間に1回。まだ、鎌倉さんの捨てたゴミは回収されていないの! そして、ある! やっぱりあるわ!」
利用者の少ない公園だけあって、ゴミの量はかなり少なく6本程度しかなかったが、その内3本ほどが、あの丸桂商店に行くたびに鎌倉さんが買っていたというお茶のペットボトルだった。
「いや、でも、これが本当に鎌倉さんのものかは……」
「いいえ。可能性はかなり高いわ。わざわざこの公園にきて一服して飲み物捨てる人間なんて限られてる。少なくとも1本は、いえ、ひょっとしたら3本とも鎌倉さんのものかもしれない。本当は警察なんかに頼んで、DNA鑑定でもすれば確実なんだろうけど、アナタのためにそれはしないであげる」
警察に情報を渡して、先を越されて犯人が逮捕されてしまったら元も子もないからな。
「とにかく、鎌倉さんはこの公園に来た可能性は、これでかなり高いということになったわ。それも事件当日だけでなく、頻繁にきてきた可能性もかなり高い。確証は得られず、可能性の話でしかないけど、私たちの立場としてはこれが限界。ここは確証を得ることに関しては素直にあきらめて、この可能性を信じ、今後はそれを前提として推理をしていきましょう」
「わかった」
大丈夫。大丈夫だ。確実に事件の真相へ向かっている。
そもそも、この事件は始めからガサツでたいして複雑なものではないのだ。
「さて、そんじゃ、次はどこいくよ」
「うーん、そうね……」
公園の蛇口で手を洗いながら、大川は考える。
けど、わたしはちょっと気になることがあったことを思い出して、
「あ、ごめん! やっぱり、せっかく市街化調整区域にいるから、ちょっと行きたいとこがあるんだけど、いい?」
大川は蛇口をキュッと閉めて答えた。
「……? ええ、いいわよ」
というわけでやってきたのは、夜逃げして今は舘神が住んでいるのかもしれない黒石さんの家だ。
多分だけど、舘神は日中は忙しくて、この村にはいない。
あとこれも予想だけど、舘神は夜逃げした黒石さんに会うことができていなくて、たぶんこの家の鍵を貰ってなんかいない。
あの時のアレはわたしたちをビビらせるために言った嘘だろう。
だからこそ、あの時も鍵が開いていて、容易に侵入することができたのだ。
大丈夫。中には誰もいない。
鍵も開いているはずだ。
心の中でそう願い、扉に手をかけようとしたその時だ。
「何や」
!?
「あああああああああああ! ひいいいいいいいいいいいいい!」
ビビって大声だして振り返る。
そこにいたのは、いつも舘神と一緒にいるヤクザなのか秘書なのかよくわからん汚い男だった。
続く
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