大人と子供③


「おい、どうしたんだよ! 確かに腹たつけど、直前まで冷静だったお前までそんなんなってどうすんだよ。暴れるのはオレの役目だぜ?」

「別に、私はもうアナタのストッパーなんてするつもりはないわ」


 早歩き中の早口で言う。


「それより、ねえ! 気づいた?」

「……何に?」

「気づかなくてもムリはないわ。私、こういうキャラの特性上、よくみんなの宿題やら勉強やら見てあげてるの」

「へぇ……」

「竹之内さんの勉強もよく見てた」


 ここで、少し大川が微笑んだ。


「竹之内さん、勉強でわからないところは私に頼るけど、宿題をやってこない日なんて1日たりともなかった」


 へ?、意外とマジメなんだな。

 オレなんて、自主学習はおろか宿題だってしない。いや、男子ならほとんどそんな感じのはずだ。

 男より豪快なイメージがある竹之内さんだけど、生前はそんな隠れた一面があったらしい……。

 ん? でも、ということは待てよ?


「気づいたようね! そう、お父様がおっしゃるには、竹之内さんは一生懸命勉強に励むような、期待した素行の女の子にまでは至らなかったそうね。だけど、実は竹之内さんは宿題や自主学習をきっちりとやっていて、つまりは外で勉強する派だったのよ!」


なるほど! すごい発見だ! 親子との間で起こった悲しき認識のすれ違い!


「竹之内さんは本当は勉強してても、家族にひけらかすような人間性じゃなかったわよね」


 うん、そうだな。

 で、それが事件と関係はあるのか?


「事件と関係あるのか? って顔をしてるわね。あるのよ! 思い出して! 2番目の被害者、中六ニコさんを! 彼女もまた、家でなく外で勉強する派だった!」


 大川は指で髪を直すしぐさをし、そのまま人差し指を天に向ける。


「これは私たちが今まで血を吐くような思いをしても見つけ出せなかった、被害者同士の共通点なのよ!」


 ということが興奮の理由らしいが、う?ん。

 名探偵は本当にこんなささいなことから推理していくのか?


「今はささいなことでいいの。そもそも、受験期である3年生の被害者2人にこの共通点は成立しているけど、3年生じゃない、あとの2人にはたぶん見られないことだわ。つまり直接的に事件とは関係しないと思う」

「自分で自分を論破していくのか?」

「結論を急がないでサナダ君。半分にしか見られない共通点だからといって事件と全く関係ないとは限らない。たとえば、その3年生の2人には共通する目に見えない傾向が奥深にあって、それが外的な要因と反応して共通点として目に見えるようになったのかもしれない。3年生の2人に見られた共通点から、奥深くにある全員にあるかもしれない傾向を引き出す、それが被害者すべてを結びつける線となるのよ。もちろんそれ意外の可能性もあるのだけど」

「つまり、この家で勉強していなかった根本の原因が、家で勉強していないにしても他2人に共通している可能性がなきにしもあらずって感じか」

「そういうことね」


 もちろん、こんなのは考え方の例だ。

 大川はそれを提示してくれたに違いない。

 まだまだ甘いし、遠すぎる。でもそういう問題じゃない。

 もっと本質的な問題でこんな感じのことが起きているかもしれないんだ。

 そこまで疑って、ようやく推理に至るんだ。

 大川はそれを前提で常に考えていて、それをオレに見せつけた。

 確かに今までのオレはそこまで疑っていなかった。頭のリソースを回していなかった。

 表面的に見えるような、被害者全員に共通する部分のみを探していた。

 よく考えたら、こんな浅い思考で推理ができるはずないのだ。甘かった。

 オレは反省すると同時に名探偵の根性に感服する。


「さ、そろそろ頃合いね。今日はもう帰りましょう。通夜の関係で夜といえども人が多い。たぶん事件は起きないし、帰っても損はないはず」

「明日は休みだな。せっかくだし、他の被害者について調べてみないか?」

「あら、うふふ。大胆ね。いいわよ。でも、デートと勘違いされたら、私は大変なスキャンダルになってしまうわね。全国の女子高生名探偵ファンを敵に回すわよ。ああ、困るわね。私もファンが減って困るかも。でも、仕方ないから付き合ってあげるわ」


 なんか嬉しそうだ。

 人が死んでいるということに関して感覚がもう鈍ってるんだろうな。




続く

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