探偵の動機⑨
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 何なんですか! ぼくがノアちゃんを殺す!? そんなわけないじゃなですか……」
お前は何を言ってるんですか?
「あ! 城中さん!?」
って叫んだのは背後の空で、わたしはちょっと意味がわからない。
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↓↓ここから今回の分↓↓
「ああ、どうもどうも。ノアちゃん」
知り合い? ノアってのは空のことか?
「え……? えと、城中さん、どうしたんですか? お家がこの辺、なんですか……?」
「ん? いやいや、あははー、うんふふふ」
わたしと大川を一瞥しては歯切れの悪い返事。
どうも空に対しても答えたくないようだ。
だからとりあえずできることは、聞くことだけ。
「おい、空、この方はなんなんだよ」
「ん~、バイト先のお客さん」
お客さん……。
「ルルム!」
大川だ。大川が、何かカードのようなものを見ている。
「今、この人がアナタに殴られた時にサイフを落としたのだけど、これ、免許証には畑中と書いてあるわね。ちなみに名古屋市在住」
城中は偽名? しかもちょっと見栄を張った偽名だし。んで、この辺に住んでるわけでもないと。
「てか、なんのバイトよ」
「ん? ん~と、か、観光案内業……」
観光案内……?
「も、もしかして金受け取ってデートするやつか?」
「え、あ……、うん」
「お散歩じゃねえか!」
「ふええ……」
JKお散歩。観光案内と称して未だにぽつぽつ生き残っている現状だ。
「で、アンタはそこのお客さんと」
「あはは。はい、そうですね」
後頭部を掻きながら答える。
「なんでここにいるんだ? 名古屋に住んでるんだろ?」
「あ~、なんかもう証拠を撮られちゃったみたいだし、殺人犯と疑われるのはマジ勘弁なので言いますけど、まあ、何度か後をつけてるうちにノアちゃんの家がわかるようになりまして……」
「え? ちょっと、ちょっと待って? じゃあ、ここ最近、私についてきてたストーカーって城中さんなの!?」
空が驚くような声で質問する。
てかストーカーされている自覚はあったのかよ。
言えよ。
「あはは。はい……。あ、でもですよ? ぼくはですね、ちょっと違うんです。ストーカー行為そのものよりも、ストーカーされてびくびくしている顔や、あと、今日するつもりだったんですけど、『君のお家、わかったよ』って家の近くで伝えてびっくり絶望に恐怖する顔に大興奮するんですね」
「キエエエエエエ!」
わたしは男の首を蹴る。男は意識を失い崩れおちた。
「逮捕?」
「逮捕逮捕」
大川が小刻みに何度もうなずく。
電話で通報し、すぐに警察が駆けつけた。
経緯を話し、もしかすると本当に殺人犯かもしれないと言うと、DNA鑑定もするつもりだと教えてくれた。
ちなみに空のバイトは観光案内業ということにしたが、一瞬でお散歩を疑われた。けど、特に犯罪としての明確な定義とかもないしで今回はお咎めなしのようだった。
でも、やっぱり幼なじみとして言う。
「大丈夫だったか? もう、こんなバイトやめろよ」
「え、で、でも、みんなが思ってるほど危ない仕事じゃないよ! 売りもやってないし!」
「今! ストーカーにあってたじゃん」
しまった全然こりてない。もっと恐怖心植えつけておくべきだったか。
「そ、そうだけど~」
「だいたい、仕事の人も怖い人ばっかりだろ?」
「う~ん。確かに一見怖そうだけど、とってもやさしいし、心配してくれるんだよ~」
「商品だからな! 親は何も言わないのかよ」
「言ってない。知らないと思う。たぶん怒られる」
「ホラ。悪いことしてる自覚あるじゃん」
「違うもん! あの人たち、悪いことしてなくても、気に入らないだけで私のこと、怒るもん! お兄さんたちの方がずっと大人だもん!」
なんか微妙に家族仲が悪いんだよな……。
「もういいや。今日は温かくして寝ろよ」
「ねえ、私が心配なの?」
上目づかいで空が聞く。かわいい。やさしく応じよう。
「そりゃ……、そうだよ。すぐに辞めてほしいな」
「じゃあ! だったらサナちゃんだって、それ辞めてよ!」
な……。突然めっちゃ怒られた。
「あ……、ご、ごめん。また、明日……」
もうこの辺りは空の家にかなり近い。
さすがに殺人事件は起きないだろうし、1人になりたいのかと思ったわたしは空とわかれた。空の姿が闇に消える。
「さて……、」
大川だ。
「時間はあるかしら? ルルム?」
「まあ、別に……」
「では、ちょっとお話しましょう」
大川は唇に指を当て、いたずらするような笑みを浮かべる。
「アナタがあの畑中という男に、最初に叫んだ言葉から、なんとなくわかっちゃったの」
はあ。
「何が?」
「本当は人の行動理由を含めた、動機なんてものは推理できないと思っているけど、今回の場合は、動機によって誰かを特定する、というわけじゃなく、特定の誰かの動機を推理する、のだから、まあ、なんとか、かなり正解に近いと思うわ」
「? いいからはよ言えよ」
「私、わかっちゃったの」
ふわりとほほ笑んで言う。
「どうして、どこにでもいるごく普通の男子高校生、
それは、将来に絶望して早く死にたいけど恐怖心と生存本能で自殺ができないから、都合よく現れた女子高生無差別連続殺人の犯人を見つけて、その犯人に殺してもらうため、だったのね?」
わたしは答える。
「そうだよ」
オレはウィッグを外した。
この妹から勝手に借りてる冬服のセーラー服も、カツラも、全ては女子高生として犯人に接触し、無差別に殺してもらうための装置なのだ。
だからこんな、好きでもなんでもない推理なんてものに時間を割いているのだ。
続く
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