探偵のいらない事件⑩
HRと一限目の授業が終わる。
「先生!」
大声を出して、職員室へ向かうために廊下に出た樫村先生を呼び止める大川。
「コレ! 見てください!」
といってスマホを取り出しWeb上の画面を見せる!
「ん~? どれどれ~?」
先生はみんなの前ではキリッとした感じの振る舞いだが、対面するとフレンドリーなやわらかい感じで話す。
「……ッ!!」
そんな先生は明らかに一瞬、顔をしかめて動揺した。焦っているし焦りを隠せていなかった。
てか学校内で携帯全般を使うのは禁止だぞ。怒んないのはえこひいきだぞ。
「この村から大出世した政治家の舘神さんね。すごい人なのよ。でもよく知ってるわね」
「この人、この村に帰ってきてるんですよね?」
「ッ……。えーと」
「このケガ」
わたしを指さす。
「この舘神って人にやられました」
「おい!」
言っちゃうのかよ。
「これだけの殺人が、明らかにこの村の、この学校の女子生徒ばかり狙われてるのに、一向に学校を休校させないようにしてるのも、この人なんですよね!?」
え? そんなことできるのか? たかが政治家が。
いやいや、さすがに。
「くっ……」
え!? マジで!? そうなん!?
うろたえる先生にわたしはうろたえさせられる。
「ふぅ~……」
ガマンを諦めたように息を吐き、
「そうよ……。ほんと、あなたには敵わないわねえ」
「おいおい、なんでわかったんだよ」
「別に。できるのが彼しかいないってだけよ」
「いや~。そうか。てか、その辺があんまり頭の中になかったわ。でも、こんなことやってジーさんに得があるってことはどういうことなんだろうな」
「それ。その考えは、自覚ないのかもしれないけど、『動機を考えてる』ってことなの。悪いクセよ。やめなさい」
「はい……」
「あの~、それで、もう聞きたいことはないの~?」
困る先生にはっと振り返り、
「先生、先生から見て、この村にいたころの舘神はどんな感じでした?」
「ん~、私も若かったからかなあ。とにかく怖かった。みんなビビってた。でも人気もあった」
「黒い噂が絶えないと聞いてます」
「手腕はすごいけど手段も選ばなくてねえ。暴力団とのつながりもあったって言うし、何より本人が傷害事件を起こしてはもみ消しての連続だったからね~。でも、黒い噂であって悪い噂でなかった。誰も悪く言わなかったのよ」
とんでもない野郎だな。
怪しすぎるけど、さすがに怪しすぎて怪しく感じない。逆に犯人じゃなさそうだ。
「怪しすぎて怪しくないって考えてるでしょ? そういう認識で考えを狭めるのも、動機から入る推理と同じで最低レベルのことよ」
「うるさい! どう推理しようが勝手でしょ!」
間抜けな考えが見透かされることの恥ずかしさよ。
「もう、いいわよね?」
「最後に! いつ、帰ってきたかわかりますか?」
「……、事件の一週間前よ。もういいかしら」
「はい、ありがとうございます。お忙しいところ申し訳ありませんでした」
「でした」
つられたわたしも一応お礼。
立ち去る先生が足早に見えたのは気のせいではないだろう。
……さて。
「大川さんは何が知りたかったの?」
「正直、この動画だけでは信用がなかったから……。でも、今この村にいることが確定したわ。ルルム、この舘神とコンタクトをとるわよ!」
まさかやる気になったとか?
続く
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