暁桜編〈優しい悪夢〉
梅雨が終り、ジメジメした空気が払しょくされてセミが外で泣き始めた5年生の6月の終り。
チャイムが鳴り、授業が終りを告げ、休み時間に入る。
隣の席に座る涼香が唇を噛んで、上目遣いでじっと見つめる。
それだけで察し、席を立って二人で立ち上がり、教室を出ようとドアに向かう。
「おお~? また裕貴達がトイレに行くぞ!!」
「トイレでナニするんだ~?」
「だからアレだろ? や~らしいねえ」
乱暴な口調の男子生徒がわざと声を張り上げ、俺達を指さす。
周りの男子生徒達がニヤニヤしながら口々にからかいと嘲笑の言葉を投げかける。
涼香がビクついて、そう言った同級生男子を見る。
「ちょっと! あんたたち! 真面目な事なんだからからかうのやめなさいよ! 」
庇うようにそう叫ぶのはクラスメイトの女子、西園寺雨糸(さいおんじ ういと)だった。
俺は怒りのせいで礼も言う余裕がなく、彼女を一瞥(いちべつ)するに終わってしまう。
「……行くぞ」
退院した涼香が登校するようになって4日目、うんざりした気持ちの蓄積に限界を感じ、ある決心を固めるが、とりあえず涼香の方の用事を済ませる為に涼香を促す。
(あいつら……)
「…………」(ぺこり)
俺の代わりに涼香が雨糸に頭を下げると、雨糸が笑って手を振る。
そうして職員室脇の学校で唯一ウォシュレットのあるこの女子トイレへ行き、涼香のスカートの中へ手を入れ、パンツを膝まで下ろし、便座のフタを上げて外へ出る。
そうしてドアの外で待つ間、消音用BGMである小鳥のさえずりが響く中、事情を知っていて出入りする女教師達に、“ごくろうさま”とか、“大変ね”と声をかけられる。
流水擬音が響き、しばらくすると涼香に中から声をかけられる。
「……いいよ」
涼香が消臭の為に振りまいたシトラスの香りが充満する中へ入り、カギを閉める。
トイレットペーパーを手に取って数回折り、涼香の右側に立って肩を抱き寄せ、太ももの間へ右手を入れて拭き取る。
「んっ……」
涼香がぶるりと震えて強張るが、かまわずに3回ほど拭いてやり、ペーパーを捨てて水を流す。
そして涼香の可愛らしいヒップをキチンと包むよう、パンツを上げて端をつまんで直す。
「おし、完了。いいぞ」
「……おっお兄ちゃん……めっ面倒かっ……かけて、ごごめんね」
上を向いて涙ぐんで恥ずかしげに涼香が謝る。
「何言ってるんだ、俺が連れ回したからこんな事になったんだから当然だ、それにそもそも謝るのは俺の方だぞ?」
「でっでも……お兄ちゃんが、みっ……みんなにかっ………………からかわれて……」
涼香が言い終えられず、胸に顔をうずめて泣き始める。
当の涼香もからかいの対象であり、加えて自分のはしたない姿をさらしているのに、まったく気にしない風を装って俺を気遣う。
自分の事はすべて後回しにするように育ってしまった幼なじみに、今更ながら愛情とも憐憫とも諦めともつかない感情を抱き、それでも笑って頭を撫でる。
「ふふ、姫香に比べたら、暴れないし泣かないしワガママも言わないから、涼香の方が全然やりやすいじゃないか。だから助かってるのは俺の方だぞ?」
「そんな事………………………………(ふるふる)」
言葉を詰まらせ、代わりに胸に頭を押し当てて首を振る。
「ああ~、それにアレだ。もう姫香も俺を“お兄ちゃん”って呼べるようになったんだから、涼香も前のように俺を名前で呼んでいいんだぞ?」
ネガティブな思考から逸らせようと話題を変え、涼香の顔を両手で挟んで上を向かせるとまだ泣いていた。
(まったく…………この泣き虫め)
自分の袖を親指までたくし上げて、涼香の目元をぬぐい、笑いながら抱きしめる。
「うっ……くっ……」
さらに泣いてしまうので、腰まで伸びた、涼香の少し波打った栗色の髪を手櫛(てぐし)でいじりながら泣き止むまで待つ。
「大丈夫だ。俺が守ってやるから……………」
そう言って腕に力をこめて目をつむると、立ちくらんだように目が回り、平衡感覚を失う。
„~ ,~ „~„~ ,~
――そして再び目を開けるとベッドに横になっている事に気付いた。
(………………………ああ、夢か)
ぼんやりと思い出しながら今が何時(いつ)なのか思い出そうとしていたら、シトラスが香る薄闇の中、夢の中と同じく“誰か”の頭を腕枕のまま抱きしめ、髪を右手ですいていた事に気付く。
寝ぼけて状況が飲み込めず、抱えた頭の髪の中へさらに左手をすき入れ、その感触を確かめると、シルクのようにしなやかなストレートのロングヘアーなのに気付く。
(涼香じゃない……ストレートのロング……小さい頃の姫香?……いや、それ以上に細い………………誰だ?)
夢の続きを見ているような錯覚に囚われたので、顔を上げさせて確かめようと額に手を当てると、風邪を引いた病人のように熱かった。
(あつい! 病気か?)
驚き、一気に目が覚めてそのまま顔を上げさせると、なんとその人物はフローラだった。
「フッ――
「シイッ!!!!!」……………………………」
口に手を当てられて叫びを止められる。
俺がフローラの額を押さえ、フローラが俺の口を塞いだまましばし見つめあう。
「「……………………………………」」
フローラの息遣いは荒く、薄闇でも判るほど目が潤んで、触れた手からは熱が伝わってくる。
フローラの額から静かに手を離すと、フローラもまた手を引っ込めた。
呼吸を整え、現状を確認してみる。
――フローラがベッドにもぐりこんでいて俺が腕枕をしている。
(……なんだこの状況!?)
グルグルまわる思考と格闘していると、フローラが深呼吸をして口を開いた。
「…………“さくら”を見た」
「!!」
その言葉で我に返る。
「“アレ”は何だ? なぜDOLLが呼吸をしている様に“眠って”いる? 裕貴が今起きたのになぜ“起動”しない?」
「……俺も聞きたい」
„~ ,~ „~„~ ,~
――フローラに寝る前に渡したメモ。
“さくらの、DOLLの規格とはかけ離れたこれまでの異常行動”
“一葉をインストールした時のセキュリティと、その下位A・Iの扱い”
“なんらかの実験の一環であり、上位(マスター)A・Iの開発の可能性について”
これらをかいつまんでメモに書き留めて渡していて、『部屋の鍵は無いし、明かりも手動設定(アナログ)にしておくから、起きられたら“さくら”の様子を見てくれ』と、書き加えておいたのだ。
そして今のフローラの疑問。
これに気付いたのは偶然だった。
先日、就寝後に目が覚め、トイレに向かうために起き上がり、なにげにツインを外した。
(あ、いけね。DOLLが未確認で外したらさくらが通報しちゃ……わない?)
さくらを見ると、起動して安全システムが作動する風でもなく、通信中を示す緑のLEDが額の下で明滅し、バッテリーと演算装置(プロセッサ)を冷却する膨縮(ぼうしゅく)機構が動き、さらにはカメラアイを閉じたまま表情が目まぐるしく変化していた。
通常、マスターの安全、危機管理もDOLLの規定事項(デフォルト)であり、当然“ツインを無断で外す行為”は、マスターの“生命信号の消失(ロスト)”と同義なので、それを乱すようなキャラクターマスクは法律違反とされ、製造者(プログラマー)は処罰対象になる。
そしてその機構は主人格(メインパーソナルキャラ)とセットになっていて、そうそう干渉できる機構ではなく、、SM的なリアクションをする18禁のキャラや、さらにはそれらを魔改造した通称“裏キャラ”も犯す事ができないシステムとされる。
――そんな厳重な機構がたやすく破られている、“さくら”がインストールされたこのDOLLをまじまじと見つめる。
(なんだこれ? なんか変だ。……うなされてる?…………そう、まるで“悪夢をみているみたい”だ!!)
„~ ,~ „~„~ ,~
「……って事に気付いてさ」
薄暗がりの中、赤面したフローラを腕枕したままという奇妙な状況の中、話し終えてフローラの反応を待つ。
「……ん、そうだな。なんだか“只事でない状況”というのは理解できた」
(“さくら”が? “腕枕”が?……それってどっちの意味だろう? イヤイヤそうじゃない!)
などと目の前にフローラの息遣いを間近に感じながら、動揺して思考があさっての方向にズレてしまうのを必死に元に戻す。
「うん。だから“俺もこれからどうしたらいいかと思ってる”んだ」
「害する意志は感じられないから、“裕貴の……好き……にしていい”」
なんだか力が抜けたように、眠たげな口調でフローラが言うが、肩に触れたフローラの手は少し震えていた。
「好きに?」
「ああ、“可愛がる”……でも、“捨てる”……でもな」
「そんな……、捨てるなんてできないよ。イジられはしたけど、“可愛いところはいっぱい見ている”し助けられてもいるんだ!!」
フローラに似つかわしくない、投げやりでうわの空な口調で言うので思わず声に力が入る。
「――裕貴!」
そう言うとフローラが首に手をまわして抱き付いてきた。
それとともにTシャツ越しに知覚された、圧倒的な物量を誇る異物感が俺の後頭部に衝撃を与えた。
「ええええっ??」
わけが判らないまま、わずかに残る理性を振り絞って、うろたえつつも声をひそめる。
「“可愛い”……そう思っているのか?」
泣き出しそうに切ない声でフローラが聞いてくる。
「おおお? うっ、ううん。思ってるけど……フローラ?」
そう聞き返し、フローラの肩の下、体を離そうと右手を伸ばして脇へ触れると、トンデモない事に気が付く。
(ノーブラっ!! つか服も着てねえっ!!)
「裕貴っ!……」
地肌に触れた瞬間、フローラがビクンと震え、切なげに俺の名を呼び、さらに抱きしめる腕に力がこもる。
「どどどどどどどぅううううししししっ、たたたたののの????ふふふふフっっロラ」
目がグルグルと回り、涼香よりひどく噛みまくったまま聞き返す。
「「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」
お互いに荒い息遣いを感じつつ、しばらく沈黙する。
そして沈黙を破ったのはフローラだった。
「……いや、すまない裕貴。さっきの涼香からメールで“シトラスのコロンをつけて裕ちゃんのベッドにもぐりこめば、裕ちゃんの面白い寝相が見られるよ”ってあってな。――それで興味が湧いたんだ」
首に回した腕をほどき、体を離してフローラが説明する。
それに合わせて俺も手を引っ込める。そして涼香の名前が出たとたんに動悸が収まり始めた。
「お?……おおっ そっ………うか、…………ふう……って、涼香が?」
「ああ」
「はあ、、、 ……で、?どうだったの」
布団の下、ノーブラのフローラの裸身を意識しながら天井を見上げる。
「ふふふ、確かに寝相は悪かったな」
「くっ、……くそう、涼香め……」
「……まあ、さくらの事は情報が少なすぎてどれも推測の域を出ない。悪意を感じない以上、早急な判断は必要ない気がするから、もう少し様子を見てみよう。――それに……」
「それに?」
「これほど綿密に設計されたA・Iなら、いずれ向こう側から何らかのリアクションがあるかもしれない」
「なんでそう思うの?」
「裕貴をパートナーに選んだ時点で、何らかの結果が出たら秘密にしている理由を感じないからだ」
「……それは俺が意に介さなくてもいいくらいの小物だから? って事?」
「判らなくていい。おそらくそれが裕貴が選ばれた最大の理由だからな」
意味ありげに笑うと、またしても頬にキスをくれた。
薄暗がりの中、フローラが立ち上がって部屋に戻ろうとするので、後ろを向いて聞いてみる。
「とっ……ところ何でハダカ?」
「いや、ブラもショーツもは締め付けるようでいつもしてないが、今日は泊まるからと思って下は履いているぞ」
「左様ですか……」
「ふふ、涼香や実の妹相手にスカト〇プレイしていた裕貴なら、オレの胸くらいどうという事はないだろう?」
「ス〇トロと違うし!!」
思いっきり反論した。
„~ ,~ „~„~ ,~
フローラが姫香の部屋に戻ると、床に敷かれた布団にぺたりとへたり込み、自分の両肩を抱いて震え始めた。
微かに嗚咽を漏らし、座り込んだ足に滴が数滴落ちる。
(危なかった……、もう少しで……)
そう思っていたら微かな声でささやかれる。
「裕兄の所に行ったんじゃないの?」
それでも飛び上りそうなほどフローラは驚いて姫香を見つめる。
「あっ、……ああいや様子を見に行っただけだ」
「……ね、フローラ、こっちに来て一緒に寝よ?」
うろたえた様子には触れず、姫香がフローラを見つめて、嬉しそうにごはんをねだる子犬のようにストレートに聞いてくる。
姫香のこの子供らしいストレートな言葉にフローラが微笑む。
「ああ、いいよ」
潤んだ瞳ををぬぐい、裕貴に触れられて湿ってしまった下着を替えると、姫香のベッドに潜り込む。
「うふふ♪」
フローラのふくよかな胸に顔をうずめ、幸せそうに笑う姫香。
それを優しく受け入れ、先ほど裕貴にされたように頭をかき抱いて髪を撫で上げる。
「ね。フローラはどうして裕兄に告白しないの?」
「なぜそんな事を聞く?」
否定も肯定もせず、淡々と受け答えて聞き返すフローラ。
「なんか、涼姉がそれを望んでるみたいだから」
「それなんだが逆に聞きたい。なぜ涼香は裕貴を望まない? 好き――いや“愛している”んだろう?」
「ふうぅ、…………うん、あのね? フローラ。むか~し、とあるところにすっごくワガママなお姫様がおりました」
長いため息の後、姫香がゆっくりと語りだす。
「うん? それ――」
「そのお姫様には優しい兄と姉がおりました」
「……そうか」
姫香がフローラの唇を人差し指で触れ、言葉を遮る。
「その妹は優しい二人に思いっきり愛されて甘やかさえて育ち、だいぶ……少しワガママに育ってしまいました」
「……うん」
フローラはもう遮らず微笑みながら姫香の話に聞き入る。
「……ある時、お姉さんの方が大けがをしてしまい、自分の事がまったくできなくなってしまいました。
仕方なく、お兄さんがお姉さんの世話を四六時中することになりました。
同じ布団で眠り、学校に行く時もランドセルを持ってもらい、食事も食べさせてもらい、お風呂やトイレでも綺麗にしてもらう生活が続きました。
それまでは二人から思いっきりかまってもらっていたお姫さまは、突然孤独になりほとんどかまってもらえなくなってしまいました。
でもお姫様は、お姉さんが“ケガで自分の事が出来ないので仕方がない”と、頭では判っていたので、何とかガマンしていたのですが、ある時、お兄さんとお姉さんがお風呂から上がった後、髪を乾かしてもらって、お姉さんがお兄さんに三つ編みをお願いしているのを聞いてしまいました。
お兄さんは嫌がりもせず二つ返事で“いいよ”と言い、お姉さんの髪を編み始めました。
お姉さんはとても嬉しそうにお兄さんに髪を結わえられているのを見て、お姫様がついにキレてしまいました。
そしてお兄さんがいない時にお姉さんに詰め寄り、溜まった怒りをぶつけます。
“裕ちゃんに髪を編んでもらうのはわたしなの! 涼姉は普段いっぱいしてもらっているんだからこれ以状裕ちゃんを独り占めしないでよっ!”
するとお姉さんはとても悲しそうな顔をして謝ります。それを見てお姫様も、言っても仕方がない事だと気付くのですが、たまった不満を吐き出すためについに言葉に出してしまいます。
“……謝る涼姉も優しい裕ちゃんも大っ嫌い!! ばか~~! 嫌いキライキライ~~~”
そして部屋にこもっていたら、しばらくしてお姉さんが部屋に来ました。
訪ねてきたお姉さんを見てお姫様はびっくりしました。
なんとお姉さんは不自由な腕で不器用に鋏を使って、腰まであった髪を不格好にばっさりと切っていたのでした。
“どうして切ったの? 静香おばさんが気まぐれに手入れして、やさしくしてくれるって言ってたじゃない!”
お姫様が驚いて聞くと、お姉さんはたどたどしくこう言ったのです。
“そっ、そんなこっ、事ど……どうでもいいの。だっ、だからこれで裕……おっ兄ちゃんが、髪をあっ編むことはないよ? あっあたししの事は……きっキライでもいいいいけど、……おっお兄ちゃんはきっキライにならないであげて。……ね?”
その言葉にお姫様はたまらず泣き出してしまいました。
“ごめんなさい涼姉、ごめんなさい涼姉………”
繰り返し何度も謝りました。
お姉さんの、母親に対する拠り所を切らせてしまったお詫びに、お姫様はそれでも足りないと知りつつも同じ事をします。
――そう、自分も髪を切ったのでした。
お姉さんはお姫様を見てまた謝って泣き出して、結局二人で抱き合って思いっきり泣きました。
泣き腫らした顔をした私達を見て、お兄さんが聞きます。
“……何があった?”
お姉さんはうまく言えなかったので、お姫さまが笑いながら代わりにこう言います。
“二人で美容師さんごっこしてたの! うまくいかなかったから、裕兄ちゃんが切り直してくれる?”
お兄さんは不思議な顔をしつつも、二人で笑いあっているのを見てこう言いました。
“やれやれ、……じゃあ、どんな髪型にできそうかママが帰って来たら聞いてみる。あと二人とも髪だらけだから一緒にフロに入るぞ”
そうしてお姉さんは今の髪型に、お姫様はもう一度伸ばしましたが、背が高くなってしまってイメージに合わなくなったので、今の髪型になりました。
その後、少し大人になったお姫様は、当時のお姉さんの気持ちは判ったけど、最近は逆に判らなくなりました。
“どうしてそこまで好きなのに、遠慮してしまうのだろう?”
――と……」
姫香が長い話を終えると、いつの間にかはらはらと泣いていた姫香の瞳を、フローラが優しく唇でぬぐってくれた。
「…………ねえフローラ。どうして涼姉はああなの? さっきのメールだって、『“裕ちゃんの方”は家族愛だから……』って言っていたんでしょ? じゃあ“涼姉の方”はどうなの?……わかんない、涼姉も今のフローラもどうしてそこまでして自分の気持ちを隠すの?」
ゆっくりと、日本語を覚えた頃に喋っていたように、慎重に言葉を選んでフローラが言う。
「……姫香のその質問には答えられない。だが理由は言える」
しゃくりを上げながら姫香が聞き返す。
「どうしてなの?」
「言えば裕貴の負担になるからだ。――だから私も告白しない」
「フローラのばかあ、ますます判んないわよう……」
フローラは再び泣きじゃくる姫香を抱きしめた。
〈Japanese text〉
――――――――――――――――――――
ママへ。
ごめんなさい。
最近記憶が混乱してうまく考えがまとまらないの。
こうしてピットに座っていて報告を考えようとして、
今日の出来事を思い返そうとすると、
何だか暗い方に引きずられているみたいになって、
とっても眠たくなるの。
うん、……本当に眠い……
ごめんなさい、
報告は昼、ゆーきのフォローの合間にやるわね。
ああ……明日は何だか気が重いわ。
でも、しっかりゆーきとフローラのフォローしなくちゃ。
――――――――――――――――――――
〈kasumisakura_a.i_alpha.ver000a〉
《user.precision_mirror》
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