暁桜編〈さくらの気遣い〉



さらに翌日。


 涼香と一緒にDOLL服研究班についていこうとしたら、涼香に怒られてしまう。

「もっ、もうっ!!おっお兄っ!!じゃない、裕ちゃん! だだいじょじょうぶだだから、つっつついてこないでっっ!!」

「だって、お前いまだにそんな噛みまくってるじゃないか。それに俺の方は帰宅部でヒマだし、そもそも帰りはどうするんだよ、3キロの距離歩いて帰るのか?」

「もっもっもちちろん!!、そそっそのつつもりだよ!!」

「でもなあ、実力主義とはいえ、イキナリ副班長だろ? 本当に大丈夫なのか?」

「くっっそっそそれは、そっそうだけど、ででも……」

 涼香は言葉を詰まらせ、一葉を見る。

「そうよ裕貴。あんまり心配されるとアタシが信用されてないみたいで気分が悪いわ」

「しかしなあ……」

 なおも粘ったら、さくらにからかわれる。

「も~~う、ゆーきったら本当に涼香が大事なんだねえ、暑い暑い。ひゅーひゅー♪」

「「…………」」

 涼香も照れて真っ赤になり、俺も口に手を当ててそっぽを向く。

(――ったく、こいつ(さくら)は~~)

 涼香が俺の右手をとり、両手で上下に挟むように答える。

「だっだっからね?、わっ私はだだいじょうぶだかから、心配ししないでね?」

 不安をしだしたらキリがないのは判っているが、ここまで言われてさらに俺が不安を口にすれば、逆に涼香にはプレッシャーになってしまうだろう。

「……判った、今日の所は図書館にでも行って時間をつぶしているから終わったら連絡をくれ。そんで一緒に帰ろう、な?」

 涼香に握られた手を握り返して聞く。

「……うん、判った」

 涼香が俯き、耳を赤くして答える。


  „~  ,~ „~„~  ,~


 そうして図書館に行くと、案の定フローラが居た。

「やあ、フローラ」

「……ん、ああ裕貴か。こんな時間に図書館なんてどうした? 勉強か?」

「まさか、実は……」

 かいつまんでさっきのやり取りを説明する。

「ふっ、本当にお前たちは仲がいいな。以前に姫香から聞いたが、よく寝泊りしたり、小さい頃は一緒に風呂まで入っていたそうだな」

 肘をついて手のひらにアゴを乗せ、からかうように聞いてきた。

「まあね、ちょっと一言で言えない事情があって、何か月か一緒に住んでた事があるんだ」

 フローラが姿勢を正し、揶揄したことをすまなそうにしながら真剣な顔をする。

「そうだったか、まあ、差支えなければまた今度話を聞かせてくれ。そうしてもらえたら、信頼されてるように思えてオレもうれしい」

 昨日の湖上舞先輩の言葉、それと俺の言葉だけで、俺と涼香の仲がやましいくない事を悟り、事情を話してくれる事で、さらに仲を深めたいとストレートに言ってくれるフローラの心遣いが素直に嬉しかった。

「うん、まあ涼香が居る時にでも話すよ」

「ああ。待ってる」

そうして、お互いなんとなく言葉に詰まりフローラの読んでいた分厚い本に視線を落とすと、題名に目が止まる。

(うん? 『長野県の地質とその分布』……?)

 フローラの目的にそぐわない気がして聞いてみる。

「その本、何の目的で読んでるの?」

「ああ、これか。桜の調査の一環だ」

(桜と地質学?)

「……ごめん、意味判らない」

「幾度か調査して気付いたんだが、本当にこの辺りは地質に多様性があるな」

「どういう事?」

「……そうだな、この辺りは薄い黄土色の土だし、少し山手は白っぽくて、黒姫まで行けば茶色とか真っ黒の土だろ?」

「ああ、そういえばそうだね、あんまり色を意識したことないけど、だいたい山ごとに土の色が違うね」

「山ごとに違うのか? こんなに狭い範囲で土の多様性があるなんて驚きだ!! オレのクニじゃ、何マイルも離れないと土に違いなんてが出ないんだ!」

「……ああ、そういえば前にシャーロックホームズ読んで、土の色でどこそこの土だって判るって書いてあったね、つか、ここらへんじゃ近所で土色なんて違うの当たり前だから、そんなにイギリスは土のバリエーションが少ないのかなって、読んでて違和感を感じた覚えがある」

「そう!、イギリスじゃそもそも土地の成り立ちが違うせいで、ここら辺の様に土の変化はあまり見られないんだ」

「へえ、そうなんだ、具体的にどう違うの?」

「まず、グレートブリテン島には火山がなく、古生代に形成された島で新しい地質がない。その為に土地がなだらかで4000フィート、いや1200メートルを超える山がほとんどないんだ」

「へえ、日本の数倍もあるのに、火山も無くて平坦な土地なんだ」

「ああ、オレは最初長野(ここ)に来た時、周りの山の高さに驚いたぞ」

 地元民(ジモティー)にフローラの驚きには共感しかねるが、逆に自分が初めて東京に行って、平野部の山のない景色を見た驚きを想像して納得する。

(……そうか、俺がだだっ広い平野を見た時と同じ種類の驚きを感じたわけか、なるほど)

「ん~~それは判ったけど、桜とどう関係……そうだ!!“フォッサマグナ”だ」

 以前お父が言っていた事を思い出す。

「そうだ。だがまだそのせいかは確信がない。そして調査に行く度に違う桜の分布が見られるので、関連があるのかこの本で調べていたんだ」

「へええ、そうなんだ、たしかに戸隠の一部の山に行けば海の貝の化石が出るし、その手前の飯綱のふもとの西側じゃ、白っぽい石灰岩質でセメントの採掘場がある。南の茶臼山に行けば落ち葉の化石がでて、黒姫山のふもとの野尻湖じゃナウマンゾウの化石が出て、まっ黒い土は大昔の妙高山の火山灰土って聞いたことがある。どこもここから十数キロ圏内の地質だね」

「だろう? この本をみても古生代に近代、海や山の隆起した地層が表面を覆っている。しかし本当に“山ごとに土の色”――地質が違うというのは、オレにはにわかに信じがたいことだが、桜の分布状況と合わせても、裕貴がそう言うならそうなんだろう」

「そんなに特異な事なのかなあ」

「そうだぞ。地質が違えば当然PH(ペーハー)値やミネラルや養分、土中生物や細菌まで違ってくる。ましてや変異の差の激しい桜なら、その地質に適応した桜の個体が繁殖するだろう」

「ペーハー……そうか、日本の地層は大体酸性を示すっていうけど、セメントの原料になる石灰岩土はアルカリ性だったっけ?」

「セメントの原料は正確にはポルトランドと呼ばれるが、ペーハーはその通りアルカリ性になるな」

「そういえば、お父からこの間、桜の実生の特異性を教わったけど、それを含めてて地質の豊富さがここら辺の桜の品種の多様性を生んでいるんだね?」

「桜の実生の事まで教わったのか。そう、その通りだ。……ふふ、」

 子供がお使いをこなしたかのような、暖かい笑みをフローラ向けられて照れる。

「そっそういえば、日曜に涼香と庭の桜の害虫退治(ケムシトリ)をしたんだ」

 緩んだ顔を少し引き締め、フローラが聞き返してきた。

「ほほう、ここら辺ではどんな害虫が桜に付くんだ?、判るか?」

「ん、ああ、俺が知らないのもあるけど、今の時期(梅雨前)なら、イラガとシャクトリムシが数種類、リンゴケンモン、シモフリスズメが単体でついて、モンクロシャチホコとアメリカシロヒトリが生まれたての群塊(コロニー)って段階かな」

「そうか、意外に少ないな」

「少ない? そうなの?……そうか、そういえばフローラの家って植物園があるんだったね」

(植物園の管理……そんなのやっていれば確かに、日本の一般家庭の庭レベルじゃ少ないな)

「まあな、向こうでは南部の温暖な気候とバラが盛んなせいで、害虫の種類もものすごく多いんだ」

「バラの栽培? ってなんで?」

「桜もバラ科の植物だから、バラに付く害虫もたいてい桜にも付く。だから向こうでは本当に桜の世話は大変なんだ」

「そうか。うん、俺もあの庭を毎年涼香と手作業で駆除してるからほんのちょっと判る」

(ましてや種類が多ければなおさら、……て所か。お父に桜の特性を聞いてなかったら世話の苦労は想像できなかったな)

「……涼香と、そうか。そうだったのか」

 妙に安心したように納得するフローラ。

「ああ、そうだ涼香で思い出した。害虫のデータが欲しいなら、一葉が超画像検索(ハイパーイメージサーチ)かけて見つけてくれたから、もしかしたらまだその時の記録(ログ)を持ってるかもしれない」

「……て事は桜の品種ごとにどんな虫がついたかもわかるか?……よし。OKAME、一葉をCallしてくれ」

「涼香(マスター)さんでなく一葉(DOLL)さんですか?」

(そうか、“通信端末(デバイス)”にコールって普通は無いよな)

 それと、コールするのが人間ならば聞かないような事を、OKAMEがDOLL(ロボット)として当然の確認を求め、改めてA・Iと普通のDOLLの違いを実感する。

「そうだ。涼香に聞いても判らないだろう」

(その通りだ つかフローラももう一葉を一個の人格として扱っているな)

「判りました…………繋がりました」

『何か用?』

ぶっきらぼうな一葉の返事が帰ってきた。

「“この間”、裕貴と害虫駆除をしただろう? その時の害虫と、害虫がついた桜の画像データが欲しい。まだあるか?」

(“この間”って、フローラはまた試すような曖昧な質問して、もしA・Iじゃなかったら通じないぜ)

『あるわ。“この間”の事は学習内容として“全部記録”してあるけど、桜の方はアタシが調べたどの品種とも一致しないものが多いから、そっちは判らないわよ?』

(全部!! って事は“あの事故”もか!! マズイ!!)

 ダラダラと冷汗が頬を伝う。

 小さい時ならいざ知らず、16歳(この年)になってハダカの付き合いがあったとはさすがに言い辛い。

「ふっ、実生桜だから当然だな。――かまわない、桜の方は自分で系統を判別するから問題ない。送ってくれ」

『判ったわ、“害虫と桜の画像データでいい”のね?』

(一葉!! お前は!!)

 機転を利かせて言い直す一葉に驚き、それをフローラに念を押す一葉にさらに感謝する。

「ああ、それでいい」

『じゃあ送るわね』

「動画データ受信開始しました」

 OKAMEが伝える。

「「………………」」

そうして一分ほど待つ。

「……動画データ受信完了しました。合計32分15秒になります」

 OKAMEがそう報告し、実際より明らかに少ない駆除時間に安堵する。

(よかった、時間が少ないって事はマズイ所はやっぱり省いてくれたんだろう)

「よし、チェックはまたにしよう。―― 一葉?」

『なあに?』

「ありがとう」

『どういたしまして』

そうして通信を切り、フローラが俺を見ると聞いてきた。

「そういえば、さっき裕貴が言っていた石灰岩地帯の方へはバスか電車で行けるか?」

「ああ、確か林間学校で使った市営施設の近くだから行けるよ。それに散策するなら自転車とかも貸し出してたと思う」

「ほう、そんな施設があるのか」

「うん、市民なら格安で泊まれて、合宿やオリエンテーリングや自然観察とかの目的で一般開放もしてるとこ」

「なら、今週末泊りがけで行ってみよう!!」

 フローラがなんのてらいもなく嬉しそうに言う。

「いっいや、仮にも公営施設だから、未成年が二人だけで泊まるのは無理じゃないかなあ」

(つか、ラブホじゃあるまいし……)

「……そうか、残念だ、それならまあしょうがない。朝一に行って周辺を散策してみよう」

「……了解」

 あからさまに残念がるフローラに少しひるんでしまう。

(フローラと二人で泊りって、なんかイヤな予感しかしないなあ)

 その考えを察したのかさらに悲しそうな顔でフローラが聞いてくる。

「わた……オレと二人で泊まるのが裕貴には嫌な事なのか?」

 ドキッ!

 そう聞き返すフローラが見せる悲しげな表情が、俺の胸をさらにざわつかせた。

「う、……いやそうじゃなくて、その……おっ俺もまあ一応年頃の男だから……ねえ?」

 そう口では言うが、実際は圭一の上をいく体術を見せたフローラを、肉体的にどうこうできるとは思っていない。だが本心は自分でもよく判らない部分でフローラに対して動揺していた。

「そんな事……そうか」

 なにか言いたいことを飲み込んで、悲しげな表情のまま黙ってしまう。

(どうしてこんな顔のフローラに気持ちがざわつくんだろう?)

 これまでの付き合いから、フローラは日本人と違い、基本的な喜怒哀楽の表情を偽らない事を知っている。だからと言って考えてることまで読めるわけではなく、そして今は悲しそうな顔をしている。

(表情を偽らないフローラの事だ、純粋に友人として俺と外泊したかったという事だろうか? ――聞いてみるか)

「じゃあ今週末はウチに泊まる? そしたら待ち合わせる時間を省けるし、当日目いっぱい調査に時間を当てられるんじゃない? 俺の方も桜のことで色々教わりたいから、話を聞かせて欲しいけど……どう?」

「really(本当か)? アイワン…イヤ、そうさせて欲しい。私も話したい事はたくさんある」

 嬉しそうに腰を浮かせ、久しぶりに英語混じりで噛みつつ答えるフローラ。

(ビンゴ!!)

「うん。ありがとう」


 そうして、ご機嫌になったフローラと談笑しつつ涼香の帰りを待つ。

「しかしそんなに涼香が心配なら、裕貴も何か班活動に入ったらどうだ? オレはここが工業高校で専門書が置いてあるからここの図書館に来ているが、調べものによっては外の図書館にも通うから、そうそうここには居ないぞ?」

 勉強が嫌いな部類の人間には、ボッチの図書室は孤独感をあおるだけの空間になり果てる。

「えっ? うう~ん。そうか。じゃあ俺もどっか入るか考えようかなあ」

「そういえば以前バトルDOLL研究班に誘われていたじゃないか」

「そうなんだけど、バトル用のDOLL買ったり維持するような金なんてないしなあ……」

「別に無理にバトルに参加しなくても、DOLLの応用知識やスキルを教えてもらえばいいんじゃないか? そういう班なら教科書に載らないようなノウハウもあると思うがな」

 と、向上心のカタマリのフローラにそう言われれば不思議と興味が湧いてくる。

(教科書に載らないようなノウハウ……それは確かにありそうだな)

「そうだね、明日当たり行って覗いてみようかな」


  „~  ,~ „~„~  ,~


「――って話をフローラとしてさ」

 涼香と落ち合い、帰りのチャリで先ほどの話をする。

「っそそうなんだ。じゃあ今週末はフローラが泊まるんだね?」

「ああ、涼香も泊まるか?」

「ふふ、裕ちゃんはも~う。ううん、わっ私は作る服があるから家にいるよ、たったぶんこれから家に居るこっ事がお…多くなると思う」

「そうか、まあしょうがないな、だけど無理はするなよ?」

「うっうん」

「そういえば今日がほぼ初日になるけど、班の方はどうだった?」

「えっ? っててええっと「いい、私が説明するから、危ないから涼香はちゃんと裕貴につかまってなさい」はっはい……」

 保護者感丸出しの一葉に遮られ、涼香が答える。

「ふっ、じゃあ一葉、今日の涼香の様子はどうだった?」

「いや~、忙しかったわよ~。大体が技術的な事なんだけど、お針子連中に囲まれて、ここはどうすればいいかとか、どう縫い上げたとか聞かれまくっていたわ」

「ええ? って涼香が指導してたのか?」

「そうなのよ。アタシが見る限り涼香より上の制作技術をもつお針子は班長と他2名ね。つか涼香は独学だからその分個性的な技術がある感じね」

「独学も極めればってやつか、なるほど、確かにそうかもな」

「そうね。普通の制作では経験者とさほど変わらないけど、手袋みたいな小道具を作れるお針子はあの班にはいなかったわ」

「DOLLサイズの手袋? って、そんなん個人レベルで作れるもんなのか?」

(人の指関節一つ分ほどの大きさしかない、DOLLの5本指の手袋なんて、どうやって作るんだ?)

「まず、普通の素体と同じサイズの人形の手を用意して、熱を当てて柔らかくしたビニールを、シャボン玉の容量で広げて人形の手を包んで冷やして、そうしてレース風の模様を書き込んでいくの」

「おお、つか、言葉にすれば簡単に聞こえるけど、できるのが涼香だけってのは何か難しい部分があるんだろ?」

「そう。柔らかくして広げるところまでは誰でもできるけど、それを人形の手に被せるところで割れちゃったり、均一に包めなかったりして、誰もうまくいかないのよ」

「なるほど、冷えて固まるまでの微妙な加減を見つつ、被せてく繊細なコントロールがいるって事か。すごいな涼香」

「…………(プルプルプルプル)」

 照れているのか、背中に当てられた涼香の額がすごい勢いで振られる。

「湖上舞(こがみまい)班長の話では、手袋の個人制作品が今期の主力キーアイテムになると見ていて、その作り方をできるだけ多くの班員に伝授させるって言っていたわ」

「確かにそうだ。デザインされたウェディングドレスに、既製品の手袋と専用にデザインされた手袋並べたら、どっちがいいかなんて結果は火を見るより明らかだもんなあ」

「そうよ。涼香も今日はお疲れさま。教えるのは大変だけど、上級生達もみんな涼香の技術を認めて欲しがっているわ。そして、それを最初にこなす技術があったから、1年生で副班長に選ばれたのよ。だから、胸を張って堂々としてなさい」

「そうだぞ、でも本当に胸を張るのは止めておけよ? 笑われるからって、痛っで~~~!! ってばか、コラ! 腹をつねるな、危ないだろ!!、判った。ごめん。ガンバって胸張ってもいいかっ、て痛てえ~~!! ってどうすりゃいいんだよ!!」

 ふらつく自転車のカゴで二体がはしゃぐ。

「ふふふ、ゆ~~き、自業自得だよ~?」

 さくらが笑い、

「あ~~はは!、その調子よ涼香!」

 一葉が煽る。


  „~  ,~ „~„~  ,~


「ただいま~~」

「あらお帰り裕貴、なんか証券会社からDM(ダイレクトメール)が届いていたわよ?」

「証券会社?……なんだろ?」

「あっ!!」

「どうしたさくら?」

「うっ、うん……ななんでっでないよ~~う」

「?? ……まあいいや」

 そうして部屋に行き、封筒を開ける。


“ 親展 株主の皆様へ、

株主様優待のご案内

拝啓、水上裕貴様


この度は弊社株式をお求めくださりまことにありがとうございます……

云々かんぬん……

……つきましては弊社グループ施設のチケットを同封いたしますので……”


などと書かれた親書に、等身大の大型ネズミや魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する、異世界への招待状が二枚同封されていた。

「(??)…………………………………………………………………………………………………………………………………………(チラリ)」

 さくらを見る。


「…………(プイッ)」


 そっぽを向いて背を向ける。


「これは何でしょうか?」


 聞いてみる。


「さっさあ、……」



「……………」

 ツインを起動し、空間投影機(エアビューワー)を起動、キーボード画面を呼び出し、

『これはドウイウコトデスカ! (# ゚Д゚)凸ゴルァァァ……』と入力してDOLL(さくら)に送信する。


「……(ビクッッ)」

 背中を向けていたさくらが跳ね、後ろ頭を掻きながらさくらが振り返る。


「えっへっへ~~~♪」

 

テーブルに座ったさくらを、腕を組んで睨み、聞いてみる。

「説明を求む」


「えっと~~~、、、、……」


 つまり、さくらが言うには、ブルーフィーナスのホストコンピューターを使い、株を運用して俺の小遣いを増やしてくれたそうだ。


「名義はゆーきだし、違法な事はないから、全然心配要らないからね」


「ってじゃあ、何もコソコソせずに正直に言ってくれたらよかったのに」


「うん、そうなんだけど……」


「まあいいや、そんで一体いくらになってんだ?……」


 起動したツインで預金残高を確認する。


「えっと、いち、じゅう、ひゃく、せん……まん…………じゅう……………………………………………………………………………………………………1572万だと~~~~!!!!」


「へっへ~~、買ってブルーフィーナス(ウチ)のコンピューターに自動運用させてたらこんなに増えちゃった♡ (テヘペロ)」


「……………………………………………そこへ座りなさい」

 テーブルを指さし、座らせて真向かいに俺も正座する。

「ハ~~イ……」

 さくらがすこしふてくされたように従う。

「いいかいさくら、仮にも俺は学生で男だ」

 そうして真剣に始めると、さくらがシュンとしおれた。

「ハイ……」

「学生には本分と言うものがあって……」

「ハイ……」

「分をわきまえてだな……」

「ハイ……」

「未成年でこの金額は……」

「ハイ……」

「武士は喰はねど高楊枝と言って……」

「ハイ……」

「これが大昔なら三下り半……」

「ハイ……」

「要は今の俺に分を超えた気遣いや金銭は、プライドが傷つくから要らないんだよ。判ったか? さくら」

「……はい、判りました。ゆーきのプライドを傷つけてゴメンナサイ」

 うなだれたまま、三つ指をついて深々と謝ってくれるさくら。

「いやいや、判ってくれたらそれでいいから、そこまで謝らなくてもいいよ。気を使わせて悪かったな、さくら」


「ううん、ゆーきの言う通りだよ。だからこのお金はいつもお世話になってるBoogleさんに全部寄付するね?」


「チョット待ちなさい!!」

 ソッコーで止める。


(うぐぐ……みんなビンボが悪いんだ…………)



 〈Japanese text〉

 ――――――――――――――――――――


ママへ。

え~~~ん。

ゆーきに怒られちゃったよう……

おまけにフローラはゆーきに接近したがってるみたいだし、

胸がモヤモヤもするの。

なんだが今日は朝から気分がサイアク。

どっかからマイナスの感情が湧いてくるみたい、、、

ひょっとして同調接続(ミラーリンク)してるせいかなあ……

今日は何だか浮上できそうにないわ。

だからもうさくら休むね?


ぐすんぐすん……



 ――――――――――――――――――――

 〈kasumisakura_a.i_alpha.ver000a〉


 《user.precision_mirror》


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