暁桜編〈涼香の誕生日〉
先輩たちに絡まれた同じ週、涼香の誕生日の二日前、フローラ、圭一、俺で密かに涼香のプレゼントを買った。
フローラが婦人服売り場に行き、OKAMEを通して
そうして三人で相談しながらプレゼントを選んでいた。
『お前達も一緒に来て選べばいいのに』
そうフローラは言うが、男子高校生が、金髪美少女と婦人服売り場をウロウロするのは、なかなかに耐え難いものがあったのでこうしたのだ。
それに服の事なら、涼香と話の合うフローラに選んでもらった方が良いだろう、と圭一と意見の一致があったからだ。
『しかし、そんなに婦人服売り場に来るのが恥ずかしいのか?』
「そりゃそうですよアネ……フローラ」
と俺が反論し、
『オトコ心が判らんと大変だゼ~』
圭一がちょっとズレた事を言い、フローラを説得する。
『そんなものか……』
だがそれでフローラも納得したようだ。
フローラが色々手に取り、俺達に見せる。
時折、ドキリとするようなセクシーなデザインや、奇抜なデザインを見せて俺達を驚かせた。
そのたび「涼香には……」とか、「サイズが……」と言って反論し、ついでにフローラに田舎でのTPOを教えていった。
『じゃあ一体何が良いんだ?』
と、キレる場面もあったが、そこは「涼香だから……」と、なだめた。
すったもんだの末、そうして選んだ服は……。
「……フローラ、本当にこれでいく?」
不安になって聞き返すが、
『はっは~! 最高だゼ~フローラ! 涼香にはぴったりだ!』
圭一は大賛成のようだ。
『そうだろう! 裕貴、お前は不満か?』
「いっいや……涼香の容姿的には良いと思うけど、
と、言いよどんでいたらさくらが割って入った。
「うん! フローラ~、さくらもそれが一番いいと思うよ~」
『三対一か。じゃあ多数決で決定だな!』
しっかりさくらを頭数に入れてフローラが決めた。
俺もいい加減に反論する事にくたびれてもいたし、フローラの意欲を削ぐのも悪い気がしてきていたので、しぶしぶ納得する。
「…………りょーかい」
„~ ,~ „~„~ ,~
――それから2日後、5月27日木曜日。
涼香の誕生日。この日は学校の学食に4人で集まり、
「プレゼントは圭一と裕貴とさくらとオレで相談して決めた。帰ってから着てみてくれ」
「うっ…うん、あっっりがとう……」
すでにナミダ目で言う涼香。
帰ってから卒倒しなきゃいいけど……。
「さあて、涼香はまずどんなDOLLにしたのかな?」
圭一が言う。俺は登校前に紹介されたので知っている。
「こっここのこ子が、ワタタス…のドるでひっつひっっとはっ! でっですすすす…………」
「落ち着け涼香。大丈夫だからきちんと喋れ」
そう言い、お約束の頭ナデナデ。
前日に入手して、零時の日付変更と同時に契約と認証をしたので、ほぼ半徹の涼香は目の下にクマが出来てる。
……わかるなあ。
「こっこの子こがわたたしのドッ……DOLLでひっ“
「“一葉”と申します。みなさんよろしくお願い致します」
紹介されたのは
流行をキチンとおさえるメーカーらしく、リアルとデフォルメの中間のボディ、栗色のショートウェーブで、今時の少し派手なセーラー服を着せた美少女スキンだ。
そして性能の方は、フローラの画像専用機種、“
キャラの性格は元気でしゃきしゃき喋る“ボーイッシュタイプ”だった。これにはみんな大笑いした。予想通りだったからだ。
髪型と色を自分と同じにしたのは、無意識に自分を投影しているせいだろう。
「よろしく一葉、ここにいる二人にはタメ口でいいゼ~」
ひとしきり笑い、圭一がそう言い、フローラも頷く。
「は~い」
一葉が応える。すると、さくらがとっとっと、と涼香に近づき言葉をかける。
「それじゃ~、さくらからもプレゼントがあるから受け取ってくれる~?」
「なあに? さくらちゃん」
さくらのその言葉を考え、首を傾げる。
……DOLLがプレゼントだって?
見回すとフローラと圭一も怪訝な顔をしている。
「涼香のツインシステムと~、さくらを
さくらがいたずらっ娘の表情で涼香に言う。
「は~い、それじゃあ
そうして繋ぎ終えるとさくらが言い、みんなが様子を見守る。
「なんだろ?」4人と2体が言う。
横から覗いた涼香の首にかけられた、淡いグリーンのチョーカー型ツインシステムの前、
「5分っておい、さくら一体何をDLしてんだ?」
「ふっふ~、もうちょっと待ってね~♪」
A・Iのさくらが何をしようとするのか、みんな固唾を呑んで見守る。
「……おわったよ~、開いてみて~涼香」
まだ不慣れな手つきで
「うん……あ!」
言葉につまり、口に手をあててうつむきながら震える手で、フローラの携帯ディスプレイを指差す。
「繋ぐのか?」フローラが問う。
涼香が頷き、言われるままツインシステムに接続してDLデータを開く。
「こっこれは………」
驚く一同。
「えっへへ~♪ ブルーフィーナスにある、リアルとバーチャルの~、最新の服飾データ5
「いや、もうツインが一杯だろ」
俺が言う。
涼香はもう両手の平で顔を覆い、大泣きで顔をブンブン縦に振る。
さくらが肩に乗り、涼香の頭を撫でてあやす。
「うおっ! スゲッ! 細かい寸法や材質指示まで入ってるじゃねえか。つか、デザイン画じゃなくて設計図そのものだろ?」
圭一が感嘆する。
「服飾の場合のこれを設計図と言うのか分からないけど、まあそうだな、縫製技術を持ってれば誰でも作れそうだ」
「凄いなさくら……うん?」
フローラが一枚の画像に目を留め、ある文字を指し、横に和訳を表示させて俺を見る。
〈
「「…………」」
フローラと二人、涼香をあやし続けるさくらをじっと見つめた。
「……ちょっとトイレ」
そう言い残し席をはずし、学食の出口、中から見えない位置に立ち、ツインの接続を〈
その場で少し待つと、予想通りフローラが学食から出てきた。
「さすがフローラ」
「裕貴の考えることはお見通しだ」
特大の胸をさらに張るように、ふふんと言うフローラ。その洞察力を褒めちぎりたいところだけど、あまり長話もできないのでやめておいた。
「どう思う?」
食堂を指差しながら聞いてみる。
「冷静に事実を言えば、“A・Iさくら”は ブルーフィーナスの重要機密を自由にできる権限を与えられている」
「ああ、その通りだと思う」
「と言う事は、“A・Iさくら”には、ブルーフィーナスのトップが関わっている可能性がある」
「そうだね、でも悪意とか、商業的なニュアンスや誘導的なものは全く感じないよ?」
「ああ、そこが不思議だ。営利目的の自身の産みの親たる会社の機密を、いち高校生の少女を喜ばせる為だけに、ああもあっさりと漏らすのが、そもそも企業ロボットプログラム足りえない。……矛盾している」
「うん、積極的に人に好かれようとしているし、好いてくれる」
「となると、“A・Iさくら”の開発者の目的は営利じゃなさそうだな」
「その考えは俺も賛成だ」
「やはり、何か研究の為のシュミレーションかデータ収集なのか?」
顎に手をあて、考え込むフローラ。
「そうかもしれない。だけど俺には“A・Iさくら”が打算的だったり、何らかのフェイクをしているように見えない」
「……裕貴はさくらを好意的に考えているのか? それは“A・Iさくら”の何らかの目的に協力してもいい、と言うことか?」
「!!……うん、そう」
フローラの先読みに驚きつつ答える。
「そうか……ならオレも何も言うまい。裕貴の思うようにすればいい」
フローラはそう言うと、にこやかにウィンクする。
「……ありがとうフローラ」
そう話を締め、席に戻ると圭一がこう言ってきた。
「便秘は治ったか~?」
圭一は体育会系のキャラだが、実はものすごく察しがいい。そしてどうやら、今の事態を察して心配したようで、オブラートに包むように聞いてくる。
言い方が下品にならなきゃもっと人気が出るだろうに……。
そう思いつつ笑って答える。
「ああ、スッキリした」
「そうか、今度解消法を教えてくれ」
圭一のこんな仲間に対する気遣いを知って、仲良くなりたいと思った事を思い出す。
「うん、いいよ」
隣で聞いていたフローラは、その表現にちょっと顔をしかめたが、すぐに笑顔になり、圭一の顔をにこやかに見つめた。
そしてその日の夕方、3人の元に涼香からのライブ着信がきた。
うん。涼香が着たソレは“かわいい”と、“綺麗”の中間的な印象だった。
みんなのプレゼント。それは。
簡潔に言えば、ロングキャミソールに、長袖短裾カーディガン、夏用ブーツサンダル。
スペック的には当たり障りのない組み合わせだが、
長袖カーディガンは白で、手先に向かって広がり、袖の所でリボンでキュッと絞られ、前は大きなボタンで二つ、申し訳程度に留められ、飾りリボンがいくつも付いた総レースのメッシュタイプ。
髪にはうなじから頭頂までをぐるりと巻いた幅広のヘッドドレス。
ロングキャミはパッド入りでウエストで絞られ、白い生地は皺入り
カーディガンの柄は白をベースに中世フランスのような色とりどりの細かい花模様で、同色のフリルレースが、胸を強調するようにクロスして付き、裾には幅十センチはありそうな、豪華な波打つ黒のレースが、数枚重ねであしらわれている。
ブーツサンダルは淡いベージュで飾りはないが、不規則にぐるぐると巻かれた細身バンドのメッシュ、シンプルな形だが高めのヒールでシルエットは小さい。
要は中世フランス
清楚な女性が着れば、“ゴージャス”と言われるデザインだろうと思う。
はたして目立つ事を嫌う涼香のキャラでそんなデザインが着られるのか?
俯いた涼香が、下げた両手を握りしめて、真っ赤になって必死に出した言葉は、
『こっこっここここ……れれれ、あっ、あありがががとっとっ……うっうううえ~~~ん………』
……やっぱり泣いちゃった。
〈Japanese text〉
――――――――――――――――――――
ママへ。
今日は涼香の誕生日だったよ。
この間ゆーき達と相談して買った服をプレゼントして、
だって、涼香ってば“闇桜”の衣装を作っちゃうくらい、
衣装作りのセンスがすごいんだよ?
だから、今度のゆーきとのデートの日に、
012をインストールさせてあげようと思うの。
ねえママ。
涼香がなぜあの衣装を作ったのか……
012が
DOLLの名前を聞いて納得したわ。
使命がなければ、わたしでも傍に居て涼香を支えてあげたいと思うの。
――――――――――――――――――――
〈kasumisakura_a.i_alpha.ver000a〉
《user.precision_mirror》
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