暁桜編〈アーキテクチャ〉
その後、階下では事情を聞いた両親が姫花に説明してくれていて、なんとか誤解は解けていた。
だが、実兄のあられもない姿を目撃した姫花は相当なショックだったらしく、昼食も取らずに部屋にこもってしまっている。
でかくなったとはいえ、まだ12歳だもんなあ……、どうフォローすりゃいいんだ?
両親の前、リビングのソファに座り鬱々としていた。
「恋人でも出来れば
ママの
「でも変ねえ……」
「なにが?」
「あたしの時は直立姿勢だったわよ?」とママ。
「……俺もだ、ゴホッ……」
お父が痛みを引きずり苦しげに言うが同情しない。
「ええ? ――どういうことだ? さくら」
肩にいるさくらに聞いてみる。
――数秒後、ネット経由にて三体で確認しあって”さくら”が答えた。
「……え~っとねえ、”愛染”、”ひな紅”と
「ええっ?」
思わず声に出す。
「ほう、”ブルーフィーナス”は独自のフレームがあるのか。それなら国と違っても不思議はないな」
「でも相当実績やら権威のある機関じゃないと、たとえ
「うん、まあそうだな。たしか私立学校や大企業のローカルネット用は敷地内だけだし、外でも有効なのは政府関係者とか警察官、自衛隊関係ぐらいだな」
「ええ!!」
そんな特別な機関でしか公開を許されないのに?
「……でもまあ、”あんな事”させる位だからそんなに固い理由じゃないと思うがな」
「うっ……それは言える……かも」
忘れようと努めるが、逆に根本的なことを聞き忘れていた事に気付く。
「……そうだ。
「ん~~、……ごめんね~ゆーき。”読める”けど、さくらじゃあ、”わからない”の~……」
一瞬の間が空き、さくらはその間に調べたのだろう。答えながら眉根を寄せ、左親指を咥えて落ち込むような仕草をする。
「……読めるけど判らないって、どういうことだ?」
そのリアクションにデレる。
「さくらちゃん。つまり
同じくデレていたお父が、困ったさくらを見て庇うように代わりに弁護して答える。
でも、さすがは機械設計士。うまい例えだと言いたいが止めておく。お父だから。
「……なるほど」
ならこれ以上の追及は無理だな。
「…………」む~~~ん。
曇天の気配を感じ、そちらを振り向くとママが口をヘの字にして俺とお父を見ている。
…………このバカ
ママの目がそう語っている。
「え、えーっと……、とっところであの映像はどこ行くんだ?」
「ケ~サツのサーバー~」
雷が落ちた!
「身元確認用か~!!」
ママがすでに
……ああ、ママはこういう顔をしてくれるんだね。
産んでくれてセンキュー!!
…………ふっ。
雨に打たれてずぶぬれとなった俺に、気遣うようにお父が声をかけてくれた。
「……ま、まあ、お父もそんな過激なポーズになるとは思わなかったから言わなかったけど、もっと気楽に映させる方法はあったんだぞ?」
「……え? どんな?」
ダメージを引きずり、投げやり気味に聞いてみる。
「キャラを
「あ!!……そうだった、確かに最後に『作業を続けますか?』って言ってた」
だからさくらが引き継いでやった訳だ。
……聞かなきゃよかった。
さらにお父が追い打ちをかけてくる。
「しかし、お前が゛霞さくら”を選ぶとはなあ。……ふふふ、16年前に仕込んだ種が今花ひらぶへっっ……!」
ママの
「「……」」イエェ~~イ。
ママと顔を合わせ、親指を立ててニッコリ。
„~ ,~ „~„~ ,~
だが、姫香の逃避と言う当初の問題(?)を思い出し、鬱々とした気分で部屋に戻る。
するとさくらに着信が入る。
「
いけね、
さくらを見て、この容姿が男声で喋る事を想像してしまい一瞬たじろぐ。
「あっと……、そうだな、ツインの方につないで」
「は~い」
そうして、ツインのバンド部分のスピーカーを耳にあてる。
『よう、裕貴、DOLLは手に入ったか?』
「……ああ、今使ってる」
力の抜けた気のない返事をする。
『なんだあ? 元気ねえなあ』
相手は親友。たぶん親友。親友……かな?
嫌な事があると認識が曖昧になるなあ……(遠い目)。
「ま、色々あってな。どうした?」
原因は判っている。
『プレゼント届いていたか?』
コレだ。
「ああ。その事で言いたいことは三つある」
『ほう、何だ?』
圭一は期待を込めたようなニヤけ声で答えた。
「一つ――なぜ俺じゃなく家のアドレスに送った?」
『DOLLの入手がどうなってるか判らなかったからだ』
……見え透いた嘘を。
「二つ――ありがとう」
これはまあ、……本当だ。
『どういたしまして――だ』
「三つ――俺は巨乳派じゃない、ノーマルカップ派だ!」
「!!」
そう答えると、さくらが両手のひらを口に当ててびっくりしている。
聞いていた? いや、
ってか
これもブルーフィーナス独自のことなのかな?
『それは……スマン』
さくらを見ると、口に当てた手を頬にかえて、クネクネしながらデレデレしている。
「ウム、以後気をつけるように」
可愛いので指先でさくらを弄りつつ、教師調に言ってみる。
『サーセン、先生!』
ヤンキー調で返ってきた。
『「あっはははは』」
さくらもゴキゲンらしく、指に抱き付いたり、手首にまたがったりしてじゃれついてくる。
「しっかし朝っぱらからエロ動画を家のアドレスに送ってくるなよな~、モバイルへ転送設定してなかったら誰かに見られててやばかったぞ」
さくらも
『ハッハ、ワリい――で?、どうやばかった?』
ここぞとばかりに聞いてきた、さくらも小首を傾げ、聞きたそうにしている。
バカ正直にさっきの事を言うのは悔しかったのでフェイクを入れた。
「見られてたら――姫花は泣き、ママは怒り、お父は――――」
『どうなった?』
さくらも゛それで?”って顔をして俺の顔の近くに迫ってくる。
「コピーしていただろうな」
『――――………!!…クッ、……ハッ、…ハッ……』
死にそうな呼吸困難に陥ったようだ――いい気味だ、笑い死ね。
さくらも腹を抱えて震えている。
当然、声を完全に切っているのだが、本当に声を上げて笑っているように見える。
……へええ、
『――――――あ~~~~笑った、俺オッサンの子供に生まれたかったゼ』
代わってやりたい。だが断る。
「永遠にありえないな」
『そうでもないゼ』
「そのココロは?」
さくらも首を傾げる。
『姫花ちゃんと結婚するのさ~~~~、”裕貴義兄さん!”ってな』
さくらがポンと手を叩く。――おい。
「ではまた来週~~――じゃあな」
取り合わず、ぞんざいに言う。
『待て待て~い!』
「……何だよ?」
『どんなDOLLなんだ?、画像送れるか?』
「ああ、ちょっと待ってて」
「どうする~?」
『お、カワイ系の声だな』
圭一が言う、ふふふ、そうだろうそうだろう。
「こんな感じのポーズで画像送って」
左手をにぎって腰に当て、前かがみにアッカンベーをするポーズを見せた。
うなずき、それに習うさくらの前に鏡を置く。
「いいよ」
「カシャ♪」
常にボイスレコーダーのように数時間単位で動画を記録しているので、送る瞬間の部分だけ擬音で伝えるのである。
「は~い、送ったよ~」
DOLLの声は口腔型スピーカーから出ていて実は口パクであるが、一応舌と唇のギミックはついていて普通に喋っているように見える。
『……オイ、何じゃこりゃ』
「ハハハ、どうだ? かわいいだろ?」
『ふっ、そうだな、素体は『Wing社製のHA―ELF16、八頭身(アダルト)、インテグはモデル”
「このポーズで素体にカップ、頭身、インテグまで当てるとは……ウヌヌ、やるな」
さくらも驚いて手を叩いている。
『おう任せとけ、俺に読めないボディは無い!』
お前はDOLLか!
「スゲエ特技だぜ師匠! 今度伝授してくれ」
『高いゼ?』
「いくらだ」
『姫花ちゃんのスク水画像』
「さくら、ここにもヘンタイがいる。警察に通報してくれ」
『冗談! 冗談だから通報するな!』
「?……判った」
『――あ~~ビックリした』
「姫花の水着姿を愛でていいのは俺だけだ」
そう答えたらなぜかさくらがプンスカしている。
『くそう、あの身長でスク水……見てえなあ』
「あいつの彼氏になれたらな」
俺すら去年家で試着したのを見た時、さんざんおだてたり、スイーツをねだられたりしながら頼み込み、やっと撮らせてもらったくらいだ。
――ん? さくら?
何か手招きしてパソコンを指さす。
見ると、起動した画面の中で”霞さくら”の二頭身ポリゴンが動き回っている。
そして画面の中でフォルダアイコンを
「ぶ~~~~~~~~!!!!!!!!!」
ホンの三分ちょいの動画から、俺がセレクトした静止画像が映し出される。
紺色に白い縁取りで、倫理観ギリギリの際どいⅤラインワンピースの水着。
まぎれもなく三種の神器が一つ、”スクール水着”姿の姫香。
シーズン前の試着で、まだ日焼けしていない白い肌。
この時の髪は今の涼香と同じ肩までのショートウェーブ。
スレンダーな肢体をくねらせて軽く照れながら手を後ろで組み、それでも少し胸を張って、からかうような目で
(どう、可愛いでしょ?)
そう言って俺をからかおうとしていた瞬間の画像。
(ふん、”子供みたいに可愛い”というならその通りだ。カワイイぞ~色んな所がな)
と返す。内心悶えていたが、それでも平静を装ってそのささやかな胸を見る。
(くっ……やし~~)
素直に歯噛みする姫香。
(……ま、可愛いと思ってるのは本当だぞ)
それを見てそれ以上イジるのをやめる。
(…………裕兄のバカ)
まだ口の方が拙く、言い返せなくて拗ねている事に姫香の幼さを感じた瞬間。
――……って、チョット待て。
思い出してマッタリしてる場合じゃない。
「さくらーー!!」
「や~~ん。姫香可愛いね~♡」
「゛可愛いね~♡”じゃねーよ! 勝手にデータ漁るな! って、なんでパスワード知ってんだよ!」
「ふっ、アタシに破れないプロテクトはないはわ!」
斜めの姿勢で右手で自分の腰を抱き、腕を上げて顔を覆い、指の隙間から鋭い視線を送るキメポーズで仰々しく言い放つ。
「なんのキャラになってんだっ! つかハッキングかよ!」
「私を誰だと思っているのかしら?」
今度は足を開いて指をさす。女王様風だ。
「いや、
乗らずに淡々とツッコむ。
「ハッキングでちゅ♡」
それでもメゲずに可愛く白状する。
「……く、どこのペット《メイド》キャラだよ」
やばい。色々折れそうだ……。
「ホントはゆーきの指の動きをトレースしたんだよ~♪」
…………ちくしょう、弄ばれてる。
「って覗き見かよ!!…………っとにこのポンコツめ」
「ぷ~~~!」
ポンコツ言われたのが悔しいのか、ぶー垂れるさくら。
そしてさくらのポリゴンがパソコンのメーラーを勝手に起動すると、
「おい止めろ止めて悪かった姫香に殺されるすいませんポンコツじゃないですさくら様最高です
一息に言い放つと、すべてのアプリが閉じられ、桜の花の壁紙が表示された。
ぜえぜえはあはあ…………。
「えへ♪」
そう言うとさくらが俺の肩に乗り、頬にすり寄ってきた。
「敵わねえなあ……」
『なんかさっきから楽しそうだな』
「悪りい。圭一の存在を忘れてた」
『おい。……まあいいや、お前の
「くっ! …………さくらさん。もうこの辺で許してクダサイ」
どうしよう。羞恥プレイが止まらない。
「きゅ?」
すっとぼけた調子で聞こえないフリをする。
「……も、いいっす。でも動画中継は切ってください」
「ハ~~イ」
聞こえてるじゃねえか。
『…………くっくっくく。あ~~楽しいキャラだな。オレもDOLL手に入れたら被せようかな』
「…………おう、お勧めだ。退屈しないぞ」
腹どころか頭も抱える事になるけどな。
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